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区域清掃
区域清掃1
しおりを挟む今日は区域清掃の日だ。
メンバーはシェルアさんとルイスさん、ブラッドさん、僕の四人で、他の皆はお休みらしい。
大福とよもぎちゃんは今日は家でゆっくりしたいみたいで、マリアンネさんの所でお留守番である。
僕はシェルアさん達と一緒に、集合場所である公園に向かった。
公園に着くと僕とルイスさんは道具を貰いにそれぞれの列に並んだ。
僕は係の人からゴミ袋と手袋を受け取ると、先にシェルアさん達のいる所に戻った。
すると知らない男の人がシェルアさんと話をしていた。
「おかえり。ちゃんと貰えた?」
「あ、はい。えっと、そちらの方は……?」
僕はシェルアさんの隣にいる作業服を着た男の人を見上げた。
ルイスさん、ブラッドさんより背が高い。
男の人は僕を見ると右手を差し出した。
「はじめまして。セシリオ・バウムガルテンだ。シェルアさんには仕事関係で世話になってる」
「あ、は、はじめましてサンです。記憶喪失でシェルアさんのお世話になってます……」
握った手が思いの外大きくて、僕は呆気に取られた。
セシリオさんの声は低くてなんとなく圧があったけど、不思議と怖さは感じなかった。
「セシリオは町の掃除屋さんなんだ」
「掃除屋さん……」
僕はシェルアさんの言葉を繰り返して、まじまじとセシリオさんを見つめた。
体格が良いセシリオさんは掃除屋さんというよりは警察や軍隊の人、プロのスポーツ選手の方が合ってそうな雰囲気である。
「……警察官じゃなくてですか?」
「警察官ではないな」
「お父さんが軍の人だったからそう見えたんじゃない?」
どうやらセシリオさんのお父さんは軍人さんだったらしい。
僕の勘はある意味当たっていたようだ。
「にーちゃーん!!」
「おにーちゃーん!!」
ほぼ同時に子供の声が聞こえると、二つの足音が近付いてきた。
二人の子供はまっすぐセシリオさんの所に走っていくと、セシリオさんの脚に抱きついた。
「仕事道具は貰ったのか?」
「もらったよ!」
「もらったー!」
子供はそれぞれの手に持つ道具を掲げた。
セシリオさんは二人の頭を順番に撫でると、僕を見上げる形でしゃがむ。
「ほら、二人とも挨拶」
「あいさつ?」
「はじめましての奴だ」
二人の子供とセシリオさんが僕を見上げる。
見上げられるのはなんだか違和感があって、僕もセシリオさんのようにしゃがんで子供と目線を合わせた。
「オットー! おれが兄ちゃんだ!」
「リタです! わたしがお姉ちゃん!」
男の子と女の子が元気よく自己紹介をした。
だけど二人は自己紹介が終わると、同時にお互いの顔を見合わせてムッと唇を尖らせた。
「わたしがお姉ちゃんなの! オットーはわたしの弟!!」
「ちーがーう! おれが兄ちゃん!! リタがおれの妹!!」
オットーくんとリタちゃんはどっちが上か論争を始めた。二人とも譲る気はないらしい。
おろおろしていると、セシリオさんが二人の頭を手で押さえた。
「コラ。まだ終わってないだろ」
二人はセシリオさんの声に黙り込むと、僕に目を向けた。
セシリオさんは促すような目で僕を見ている。
「……えっ、と……サンです。よろしくね」
優しい笑顔を心がけて自分の名前を言うと、オットーくんと目が合った。
丸い瞳がじっと僕を見つめる。
「……お前弱そうだな!」
「うぐっ」
唐突に言われた一言にダメージを負った。
子供の言う事だから目くじらを立てる必要はないし、僕が弱そうな人間なのは事実である。
それでも無垢な子供から言われると心にくるものがあった。
「おい失礼だろオットー。謝れ」
「うぶぶぶらぁにすんらよぉ!」
セシリオさんはオットーくんの発言を見過ごせなかったようで、オットーくんの頬を掴んで僕に謝らせようとしてきた。
「い、いやっ大丈夫ですよ! 事実なので!」
僕が慌てて声をかけると、セシリオさんはオットーくんの頬を掴んでいた手を離して、今度は頭を小突いた。
「あだっ」
「すまん。生意気盛りでな」
「いえいえ、本当に大丈夫なので……」
オットーくんは両手で頭を押さえて痛そうな顔をしている。
その様子を見ていたシェルアさんが、オットーくんに近付いて耳打ちした。
「オットーの好きな人は優しい人の方が好きってこの前言ってたよ」
「……!!」
シェルアさんの静かな一言に、オットーくんは顔を真っ赤にした。
そんなオットーくんに追い討ちをかけるように、ブラッドさんがオットーくんの顔を覗き込んだ。
「んだお前エッシがいねェからいじけてんのか」
「いっいじけてねーし! ブラッドのバーカ!」
「誰が馬鹿だよバーカ」
「うるせー! バーカバーカ!」
オットーくんはポカポカとブラッドさんを叩いているけど、子供の力だからたいしたダメージはないみたいだった。
その証拠にブラッドさんは余裕の笑みを浮かべている。
「ハッハッハ! 弱ェ弱ェ」
「クソー……今に見てろ……」
「何してんだあの人……」
「あ、ルイスさん」
ルイスさんがゴミ拾い用のトングを持って戻ってきた。
「おかえりルイス」
「おっおかえりなさい!」
シェルアさんに続いて、リタちゃんがおかえりを言う。
「おー、ただいま」
ルイスさんはリタちゃんに歩み寄ると、頭を撫でた。
するとリタちゃんは俯きながら手をもじもじさせて、シェルアさんの所に走っていった。
「?」
「あの子いっつもあんな感じなんだよな。俺嫌われるような事はしてねぇはずなんだけど……」
僕はルイスさんの言葉を聞きながら、シェルアさんの後ろに隠れているリタちゃんに目を向けた。
チラチラとこっちを見るリタちゃんの顔は赤らんでいる。
「……大丈夫だと思いますよ。照れてるんじゃないですかね?」
「そうか?」
「はい。ルイスさんイケメンですし」
「いやイケメンではねーけど」
——イケメンじゃなかったら、あんなキラキラした視線向けられないと思う。
リタちゃんのルイスさんを見つめる瞳は、明らかに恋する乙女のそれだった。
「それより大丈夫だったか?」
「何がですか?」
「いやまたあの人に変な絡み方されたのかと」
「されてないですよ! 大丈夫です」
「そうか。何かあったら言えよ」
「あはは。ありがとうございます」
何かと僕を気にかけてくれるルイスさんは優しい。
きっとこの優しさをリタちゃんは好きになったのだろう。
シェルアさんの後ろに隠れていたリタちゃんは、セシリオさんの手によって抱き上げられると、ぎゅっとセシリオさんに抱きついた。
セシリオさんはリタちゃんを抱えてこっちに向かって歩いてくる。
「二手に分かれて後程合流する事になった。よろしく頼む」
「あ、はい。よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
僕達の返事にセシリオさんが頷く。
抱えられているリタちゃんはまだ照れているのか、セシリオさんの肩に顔を埋めていた。
「リタはよろしくしないのか?」
「しない! おろして!」
リタちゃんはバッと勢いよく顔を上げてセシリオさんを叩いて抗議すると、セシリオさんの腕をすり抜けて地面に着地した。
そして僕とルイスさんの間に収まると、前方を指差した。
「早く行こ!」
「……そうだな。行くか」
静かにセシリオさんが先頭を歩く。
僕達はセシリオさんの後ろを歩きながら、道端に落ちているゴミを拾っていった。
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