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おつかい side
おつかい side:一重
しおりを挟む裏口の扉を乱暴に叩く音と騒がしい声が聞こえて、だるい身体を引きずって戸を開けると、そこにおったのはブラッドと見慣れん男の子やった。
わしが挨拶すると、その子は微妙な間を空けて挨拶を返した。
どうやら緊張しとるらしい。
やいやい言うてくるブラッドを適当に流して男の子に自己紹介すると、その子は至極丁寧に名前を名乗った。
サンくんの緊張を解そうと声をかけて笑うと、ブラッドは持っていた荷物をわしに押し付けて女に重い物を持たすなと説教してきた。
頼んだのはネジだと言っても、ブラッドは野郎に琴子が絡まれていたと食い下がった。
確認のために琴子に聞くと、ブラッド達に助けられたから大丈夫だったそうだ。
御礼を言うとブラッドはよくわからん返事をしたけど、気にせん事にした。
なんや虫の居所が悪いらしい。
「だいたい危機管理がなってねェんだよ」
「はいはい、せやなあ」
「てめー聞いてねェだろこの平和ボケ」
ブラッドが青筋立てとるのはいつもの事や。
平和ボケと言われてもそれはそれでこの区が平和な証拠やと思っとるから、悪口には聞こえんかった。
心配は有り難いけど琴子が結構強い事を言うと、本人がお兄ちゃんより強いと答えた。
ブラッドはまだ何か言い足りんみたいやったけど、エッシちゃんが今回は何もなかったんだからと言うと、すんなり引いていた。
相変わらずブラッドは女の子相手には勝てへんみたいやった。
わしはお茶を用意してくると言って台所に向かった。
茶菓子をせんべいにするか饅頭にするかで迷ったけど、ばあちゃんの作った饅頭が冷蔵庫にあったからそっちを出す事にした。
緑茶を淹れて饅頭を持っていくと、和室じゃなくて作業所の椅子の方に皆座っとった。
靴脱いで入ったら良かったのにと言うと、すぐ帰るからとブラッドが返事をする。
わしは頷くと最初に功労者のブラッドから茶を渡して、長椅子に座るエッシちゃん達に茶を配った。
緑茶とコーラしか今この家にないと言うと、ブラッドはコーラは合わないだろと言ってきたけど、変わり種の食べ物はこの区にいっぱいあるからわからんやろと言っておいた。
だってサイダーの和菓子があるくらいなのだ。
茶菓子にコーラを飲んでも別におかしな話ではない。多分。
言い返すと更にブラッドが言い返してきた。
ついでに饅頭を配ると、サンくんは不可思議な物を見る目で饅頭を見つめとった。
琴子はサンくんに初めて見たか聞くと、饅頭の説明を始めた。
漢字を教えるとサンくんは明らかに難しい顔をしとった。
エッシちゃんがうちの饅頭が好きと嬉しい事を言うと、琴子は納豆と梅干しの名前を出して合う合わないはあると話した。
サンくんは饅頭をまだ食べんと見とったけど、ブラッドにはよ食えと無理やり口に入れられた。
——いや危なっ。
それでもサンくんは吐き出さんと饅頭を咀嚼した。
お茶を飲みやすい位置に置いて喉に詰めんよう言うと、コクコク頷く。
ブラッドに差し入れの御礼を言うと、シェルアさんに言えといつものように言われた。
相変わらずやなとからかうと、ブラッドはなんや言葉に詰まって何言うてんのかさっぱりやった。
聞き返しても肩を殴られて地味に痛い。
まあいつもの照れ隠しやろう。
笑うと今度は反対の肩を殴られて痛かった。
琴子が餡子の話をすると、エッシちゃんが自分達は平気だったのにと不思議そうな顔をした。
するとブラッドはリコリス菓子を食うとるから舌が丈夫なんやろと言い出した。
リコリス菓子は甘草《カンゾウ》の一種を味付けした物である。
独特の風味があって、正直わしらの口には食べた事ない味すぎて合わんかった。
エッシちゃんはわしらが食べられへんのを心底驚いとって、せっかく貰ったのに申し訳ない気持ちになった。
二人で一緒に謝ると、ブラッドが普段美味い物ばっか食べてるからと言ってきたけど、そこは反論しておいた。
確かに先代の区の人は異常かもしれんけど、わしらはただ美味しい物を美味しく食べたいだけなのである。
でもブラッドとエッシちゃんには毒魚を食べるのはありえへんとか、卵を生で食べるのはちょっととか言われた。
美味いし品質管理しているのだからと琴子と説得しても、それでも怖いらしい。
食文化の大きな違いを感じた。
しゃーないからサンくんをご飯に誘ったら、ブラッドにハードすぎるからたこ焼きにしろと突っ込まれた。
サンくんはたこ焼きは見た事があるみたいで“美味しそうな奴”と言っていた。
たこ焼きパーティーの約束を取り付けると、たこ焼き機が足りるか聞かれたため、琴子が三台あると答える。
人数が多いのと壊れた時の予備で三台あるけど、最近は面倒ですっかり焼かなくなってしまった。
「たこ焼きはね、とろとろの生地の中にタコが入ってて、ソースとマヨネーズをかけて食べるんですよ!」
「へー美味しそうですね! でもタコ食べるんですね……」
「あ、あんま馴染みないか? わしんとこやと地域によっては虫食べる文化もあるからなあ」
サンくんは絵に描いたような驚き方で言葉を失っとった。
わしはエッシちゃんと同じ反応のサンくんに笑うと、琴子と一緒にたこ焼きについて説明した。
サンくんは緑茶を気に入ったみたいで、美味しい言うとった。今度はほうじ茶か抹茶をご馳走する約束をしといた。
琴子とエッシちゃんは食器を片付けにキッチンに行った。
女の子同士、積もる話があるんやろう。
客人を働かすんも悪い思ったけど、ここは甘える事にした。
ブラッドに特殊拳銃の件について聞くと、まだ使うてないと言われた。
依頼を受けた時は誰が使うんか気になっとったけど、使う相手がサンくんなら虫も殺されへんような顔してるから納得やった。
——撃たんでええようにサンくん守っとるんやな。
優しいなあと褒めるとやめろ言われたけど、こいつが素直じゃないんは昔から知っとるから、サンくんには誤解せんよう言うといた。
ええ奴なのにブラッドはそういうとこあるから勿体ないんや。
ブラッドはサンくんとわしの頭を掴んで揺らした。
本気じゃないのも可愛らしいもんである。
笑っていると、サンくんにブラッドと仲がいいと言われた。
最初刀の手入れが出来る人間を探してうちに来た事を思い出しながら言うと、ブラッドは興味なさげに呟いた。
今思えば面白い出会いやった。
じいちゃんに教えて貰っているとはいえ、素人同然のわしに大事な刀預けたんやから。
プロのじいちゃんに見て貰った方が安心やろと言うと、ブラッドはじいちゃんは仕事してるからと返事した。
わしも仕事しとると突っ込んだけど、ブラッドはお前ならええやろと雑に言った。なんでやねん。
話を変えて例のライフルを見せた。
誰が使うのか聞くと、ロジェさんが使うという答えが返ってきた。
あの人の武器は拳銃のはずやけど、今回は仕事で使うから頼んだらしい。
ブラッドはロジェさんがそれをどんな目的で使うかは興味ないみたいで、かなり適当やった。
わしはライフルをケースから取り出して最終確認をすると、ブラッドに手渡した。
するとブラッドはロジェさんは自分より気が短いと言い出した。
あの大人なロジェさんがブラッドより気が短いとかありえへんし誇張表現やろ。
嘘やろと言うと、ロジェさんのキレた所を見た事ないからそんなん言えるんやと言うてきた。
そもそもの話、キレさせたブラッドが悪いんちゃうかと言ってもロジェさんは猫被ってるからと聞く気はないみたいやった。
サンくんは信頼されてるんじゃないかとブラッドのフォローをしとったけど、ブラッドはその割には扱いが雑だと苦い顔をした。
そういう人おるよなと適当に相槌を打つと、他人事だと思いやがってと睨まれた。
サンくんに同意を求めると、サンくんは戸惑いながらもハイと言った。
ブラッドは容赦なくサンくんの頭を叩くと、なんでもかんでも頷いたら痛い目遭うと忠告した。
これにはわしも同意やった。
サンくんはちゃんと断れると言うとったけど、純粋な目すぎて逆にわしは心配になった。
ブラッドはど直球に大丈夫と思ってる奴ほど騙されると言う。
でもサンくんは天然で、しっかりしてるとシェルアさんに言われたとブラッドに食い下がりよった。
言葉が出てこんくて黙っとると、ブラッドはシェルアさんもマリアさんも優しいからと言葉を返した。
何の気なしに頷いとると、サンくんが悲しそうな顔をしとって焦った。
——めちゃめちゃ悪い方に捉えられとる。
慌てて弁明すると、ブラッドが余計な口を挟もうとするから口を掴む勢いで摘んで黙って貰った。
心配して言うてるだけと言うと、サンくんはもっと眉を下げて悲しそうな顔をした。胸が痛かった。
首を傾げるサンくんに悲しそうな顔をしていた事を教えると、謝られて余計申し訳なくなった。
改めて悪ノリした事を謝ると、サンくんは慌てた様子で首を横に振った。
そこでブラッドがまた喧嘩腰にサンくんの態度について言うから空気が悪なった。
初めての場所や人やったらそういう態度にもなるやろとやんわり言うても、歯に衣を着せずに見ててイラつくと言う始末である。
お説教したろと口を開くと、その瞬間にエッシちゃんがブラッドの頭にゲンコツを落とした。びっくりした。
ブラッドは痛みに悶えとって、エッシちゃんはいつもの感じでサンくんにもうニ、三発殴るか聞いとった。怖。
持ち直したブラッドはエッシちゃんに文句を言うとったけど、エッシちゃんは言葉全部に言い返すと口喧嘩を始めた。いつもの光景である。
わしはオロオロしとるサンくんの肩を叩いて声をかけた。
粗暴に見えてブラッドは女に手を出さない事を教えると、サンくんは目を丸めとった。
ブラッドは案外優しいけど、性格のせいで友達が少ない話をすると、琴子に失礼やと言われた。
そう言われてもほんまの事である。
琴子がわしも友達が少ないと言うてきたから、友達の数で幸か不幸かは決まらんと言い返す。
サンくんは同意してくれたけど、琴子は無視していいと冷たい返事をした。
宣伝も兼ねてサンくんに名刺を渡すと、琴子も便乗してサンくんに名刺を渡した。
サンくんは丁寧な所作で名刺を受け取ると、すぐに胸ポケットにしまった。
琴子の敬語が外れとったのを指摘すると、どうもわしにつられたらしくサンくんに謝っとった。
……そんなん気にせんでええのに。
琴子は色々言うとったけど、サンくんから普段通りに話してほしいとお願いされて、結局最終的に琴子の方が折れとった。
そらあんなピュアな目で友達になってほしい言われたら敬語もどうでもよくなるわな。
間近で見たアオハルにニヤニヤしとると、琴子に秒でしばかれた。
もう一回鈍い音が響いて振り返ると、ブラッドが頭にたんこぶを二つ乗せとった。
きっとまた余計な事を言うたんやろう。
エッシちゃんはわしらに挨拶すると、颯爽と外に出ていった。
サンくんもそれに倣って御礼を言って外に出る。
ブラッドはぎゃんぎゃん吠えて怒っとったけど、エッシちゃんは完全に無視しとった。
わしと琴子は言葉を返すと、手を振って三人の後ろ姿を見送った。
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