Rasanz‼︎ーラザンツー

池代智美

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人間のアナタ side

人間のアナタ side:ロジェ

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 食事を摂っていると、外で何か物音がした。
 泥棒かと思って一応拳銃を持っていくと、猫が雨宿りをしているだけだった。
 猫はかなり汚れていて、後ろ足に血が付着していた。
 猫を抱えて見てみると、やはり足を怪我しているようだった。
 正直気は乗らないが、何もしない訳にもいかなくて、僕は猫を浴室へと連れて行った。

 猫はずっと暴れている。動物はこれだから面倒くさい。
 暴れる元気があるなら手当てしなくても大丈夫かと思ったが、破傷風になって死なれた方が寝覚めが悪いから全身くまなく洗ってやった。
 猫は文句を言うようにニャアニャア鳴いた。

 動物は裏表もなく、わかりやすい生き物だ。
それは有り難くもあるが、そのわかりやすさが逆にやりづらく感じる時もある。
 動物は人間と違って純粋だからだ。まず相手に利益を求めない。
 大福やよもぎがその代表例だ。
特に大福は惜しみなく愛情表現をするからこっちが照れくさくなる。
 あまり構わない僕にも、尻尾を振って近付いてくる所は皆の言う通り可愛かった。
 
 汚れた猫を洗い終えると、ブルーグレーの毛並みとゴールドの瞳があらわになった。
 シャルトリューで野良猫とは珍しい。
 猫はシャンプーで疲れたようで、優雅とは程遠い声で鳴いた。
 せっかく綺麗になったのだからそんな顔をするなと言って、僕は笑った。
 
 食事を用意すると、猫は匂いを嗅いですぐに食べ始めた。
 だいぶ腹が空いていたようだ。
夢中で食べている様子がそれを物語っている。
 僕は途中になっていた自分の食事を再開すると、ついでに取引先の連絡を済ませた。

 猫に水を入れてやると、今度は匂いを嗅がずにすんなり水を飲んだ。
 猫は食べ物の香りや温度を気にする生き物だと話には聞いていたが、たまたま今回はこの猫の口に合ったらしかった。
 通じる訳がないのに猫に向かって言葉を言うと、猫はわかっているのかいないのか、ニャアと返事をした。

 僕はいつ猫が出て行ってもいいように窓を開けて作業をしていたが、猫は余程疲れていたのかラグの上で眠っていた。
 後ろ足の傷の周りの毛は、猫が舐めたせいで固まりになっている。 
 動物病院という手も考えたが、野良ならこのくらいの怪我も慣れているだろうし、僕がそこまでしてやる義理もない。
 その日家に泊まらせてやると、猫は気ままに過ごして翌朝去っていった。
 

 それきり会う事はないと思っていたが、猫は大層気ままな生き物だったらしい。
数日後にはまた家の前に姿を現して、僕に食事をねだった。
 僕はどうにもこれが出来すぎた展開のようで、僕個人もしくはEMANONに恨みを持つ人間がこの猫に発信機でも付けて寄越したのかと考えた。しかしそんな事は一切なく、本当にただの猫の気まぐれだった。
 別に追い払っても良かったが、周りに動物好きの人間が多いため、自然とはばかられた。

 仕方なく家に招いて食事を提供してやると、猫は三日に一回のペースで僕の家を訪れるになった。
歓迎したつもりはなかったのに、家に懐かれてしまった。
最初に此処に来た時食事が与えられたから、この猫はそういう場所だと学習したのだろう。
 シェルアに猫の話をすると、驚いた後に笑われた。

「ロジェを信頼してるんじゃない?」
「野良猫なんだから餌が欲しいだけだろ」
「そうかなあ」
「毎回汚れた格好で来るんだ。洗うの大変なんだぞ」
「家の中に入れてあげてるんだ」
「? そりゃ汚いままじゃ家に入れないだろ」

 普通の事を言ったのに、シェルアは何故か笑っていた。
 笑われる理由はわからなかったが、動物の世話に慣れているシェルアに猫についての話を色々聞いた。

 それから猫と過ごす時間が増えて、猫に触れる機械も多くなった。
 たまに撫でると気持ち良さそうに鳴くから、暇な時にだけ猫を撫でている。
 パソコンのキーボードの上を占拠するのは仕事が出来ないから流石にやめてほしいが、それ以外は全て順調だった。
 時々独り言を猫に聞かせるくらいには、気が緩んでいた。

 ある日、僕は猫に名前はないのかと考えた。
だがいくら考えたところで、この猫は野良である。
名前なんて本当はない方が情が移らなくていいのかもしれないが、それでも“君”や、“お前”と呼ぶのは味気なかった。
 一緒の時間を過ごしたせいで、僕はだいぶ絆されてしまったらしい。
 猫の呼び名は安直に“お姫様”にした。
知り合いに猫をお猫様と呼ぶ奴がいたのと、本当の名前はこれから飼う人間が付けるだろうからという理由だ。

 猫は僕がお姫様と呼ぶと甘えるように僕の足に擦り寄って、膝に乗ってゴロゴロと喉を鳴らした。
 現金な奴だが、そういう所も含めて可愛らしいと思った。
 

 休日、コーヒーを飲んでいると、シェルアから近くに来たから寄っていいかと連絡が入った。
どうやら高級なコーヒー豆を人伝に貰ったらしい。
 僕は物を渡してすぐ帰ろうとするシェルアを引き止めて、家に上がるよう促した。
 シェルアも最初は遠慮していたが、腕を引くと諦めたようだった。

「ロジェの家に来たの久しぶりだなー年越しパーティー以来?」
「まあ普段人を招かないからね」

 コーヒーを淹れながら答えると、シェルアは隣に並んで僕の手元を見つめた。
 淹れたコーヒーをテーブルに持っていくと、ソファに座って世間話をした。
するとリビングの方から窓を叩く音が聞こえた。
 今日の猫は身なりが綺麗なようだ。
 いつものように抱き上げると、そのままシェルアに紹介しようとしたが、猫は興奮した様子でシェルアに飛びかかった。
 比較的動物に好かれる人間であるシェルアが動物に嫌われているのを見るのは初めてだった。
 慌てて猫をもう一度捕まえて抱えると、腕の中でも暴れてシェルアを威嚇した。
  
「すごい元気だね。前に話してた子?」
「ああ。いつもは穏やかなんだが……おい、ちょっと落ち着けよ」
「私がいたから嫉妬したのかも」
「嫉妬? 猫が?」
「他の動物の匂い付けてたら嫉妬する子もいるって話には聞くよ」

 人間に嫉妬されるのはそれなりに経験はあったが、こういう嫉妬はされた事がなかった。
 
……確かにこれは、ちょっと嬉しいかもしれない。

 短い手足を動かして、シェルアに対抗する猫の愛らしさに思わず笑う。
 シェルアもつられて一緒に笑った。


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