勇者パーティを追放された地味な器用貧乏は、 魔王軍の女騎士とスローライフを送りたい

ちくわ食べます

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2話

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 死の森は、噂に聞いた通りの陰鬱な場所だった。



 巨大な木々が太陽を覆い隠すようにそびえ立ち、昼間だというのに薄暗い。



「はあ……僕は彼らにとって、いったい何だったんだろう」

 

 色濃く感じる魔物の気配と風で葉が擦れ合う音が、死の森の不気味さをより一層引き立てていた。

 

 それでも、僕は足を止めなかった。



 ――いまさら引き返してどうなる? どうせ、戻る場所なんてない。



 街に戻ったとしても、勇者パーティをクビになった僕の肩身はせまい。

 

「はは……」



 正直、もうどうでもいい。多分、僕はここで死ぬ。



 誰にも必要とされなくなることが、こんなに虚しいなんて知らなかったな……



 しばらく森を彷徨ったけど、魔物には出くわさない。死のうとすると逆に死ねないという現実に嫌気が差してくる。



 その時、物陰が動いた。それと、わずかに鉄っぽい匂いも漂ってくる。



 ――この匂いは……血だ。近くに魔物がいるかもしれない。



 腰に下げていた剣を構えて、匂いの方へ慎重に近づいていく。

 

 死にたいと思っていたのに、いざという時に慎重になる自分がバカバカしい。

 

 そう思いながら匂いを辿ると、木の根元に肩で息をするように動く影が見えた。



「人……?」



 漆黒の鎧を着た女性は、知らない顔じゃない――魔王軍四天王のひとり『黒鉄剣のリューシア』だった。



 長い銀髪に褐色の肌。そして、気が強そうな赤い瞳。



 何度も戦ってきた強敵で魔王軍の幹部。剣の腕前は勇者レイルとほぼ互角かそれ以上という恐ろしい女騎士。



 ――それがなぜ、こんなところで血まみれになっているんだ?



 自慢の鎧は無惨に砕け、地面には刃こぼれした剣が転がっている。



 僕が近づくと、相手が動いた。



「……貴様……」



 彼女は焦点の定まらないような目で僕を睨み、足元の剣を拾おうとする。



 だけど……動きは鈍く、息が荒い。



 手に力が入らないのか、それとも距離感が掴めないのか。剣を拾うことも出来ないみたいだった。



「勇者の……仲間だな……?」



 彼女は剣を拾うのを諦めたのか、おとなしく僕を見つめてくる。



「……つくづく運がないな……殺すなら、早くしろ……」



 どうやら、死ぬ覚悟が決まっているようだった。

 

 魔王軍の幹部を僕が仕留めれば、大きな功績になるだろう。勇者パーティのみんなにも、認めてもらえるかもしれない。

 

 ……でも、そんなのもう関係ない。



「なんでこんなところに……四天王『黒鉄剣のリューシア』が?」



「お前たちのせいだ……私は度重なる失敗で……魔王様に不要と判断された……見捨てられたんだよ」



「そんな……」

 

 彼女の実力は勇者にも引けを取らないものだったはず。



 まともに勇者とやり合ったなら、彼女が勝っていたと思う。そんな彼女が勇者に負け続けたのは、僕の策略のせいだ。



 不利な地形に誘導したり、敵の増援と分断したり、味方のバフを最大限に利用したり。



 素の実力で勝負したら僕たちは負けていた。そのくらい彼女は強い。

 

 その彼女を……『黒鉄剣のリューシア』を不要と判断するなんて、とても信じられない。



「だが、事実だ……」



「そう……なんだ」



 僕はカバンから小瓶を取り出して彼女に近づく。



「き、貴様……何を?」



「動かないで、ポーションだよ。コレひとつしか持ってないから」



 僕が別れ際に持ってこれたものは少ない。ほとんどはパーティの共用物資だと言われたからだ。でもこのポーションだけは、自分で買ったものだった。



「そんな……ポーションだと……? 私は……敵だ……ぐっ……」

 

「僕ね……もう、勇者パーティじゃないんだ。僕も不要だっていわれたんだ」



「不要……似たもの同士ってわけか……」



「少し、じっとしてて……」



 聖女の力であるヒールや、高価な回復アイテムなんてないけど、僕には応急処置の技術がある。地味で目立たない、勇者パーティで必要とされなかった技術。



「……なぜだ?」



 疑念と怒りが混じったような問いかけを無視して、応急処置を続ける。



「私は……魔族だぞ」



「うん、でも怪我してるでしょ?」



「…………」



 包帯を巻いて、傷口がこれ以上広がらないようにしていく。



「くっ……」

 

 彼女はときおり苦しそうに眉を寄せていたけれど、抵抗することなく僕の治療を受け入れた。



 死のうと思って入り込んだ森の中で……元勇者パーティだった僕が、元魔王軍の幹部と出会うなんて想像もしなかった。
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