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廃屋(中は綺麗)に戻ったその夜に、突如として破られた静寂。
「――見つけたぞ、リューシア様。いや、リューシア。お前を抹殺する」
玄関前に現れたのは、魔王軍の追撃隊。リューシアを「敗北者」として処分するために放たれた、彼女のかつての部下たち。
「貴様ら……っ」
リューシアが、僕を庇うように一歩前に出る。その手に握られているのは、かつて彼女が持っていた刃こぼれした剣だ。
とはいえ僕が丹念に研ぎ直し、重心を調整しなおしてある。新品同様とはいかないけど、充分に戦えるはず。
「ゼクス、下がっていろ。……私はもう二度と失わない。お前を絶対に守る。守り抜いて、今度こそ――」
リューシアの背中が、力みすぎているのが分かった。
もちろん彼女は強い。でも、僕というお荷物を守ることで力が入り、固くなってしまっているのだ。
このままでは彼女の剣を鈍らせてしまう。
「リューシア、僕を信頼してくれ」
僕は彼女の隣に並び、奇襲を想定して仕込んでおいた罠の起動魔法を発動する。
「な……っ!?」
地面に魔法陣が現れ、噴き出した麻痺毒が追撃隊を包みこむ。
自分でも笑っちゃうくらい地味だが、これが確実に相手の動きを止める「僕の策略」だ。
「今だよ、リューシア!」
「任せろゼクスっ……うおおおっ!」
リューシアの一閃が空を切り、追撃隊を完膚なきまでに叩き伏せた。
静寂が戻った廃屋で、リューシアは荒い息をつきながら、地面に倒れたかつての部下たちを見つめていた。
やがて彼女は、にっこり微笑んで僕を振り返る。
「すまない……ゼクス。私への追手はこれからも確実に来るだろう。私は……もっと遠くへ、人里離れた地に移動するつもりだ」
だけど、その声は笑顔とかけ離れていて。震えたような、今にも泣きそうな声だった。
リューシアのこんな悲しい声は、今まで聞いたことがない。
彼女は僕に背を向け、一歩踏み出した。
「ゼクス、お前は街で暮らせ。それか勇者パーティと合流しろ。今ならまだ勇者たちも歓迎するだろう。私のような『敗北者』と一緒にいたらダメだ。お前の人生が台無しになる。お前と暮らしたこの数週間、本当に、夢のような……毎日だった――」
「リューシア!」
僕は彼女の言葉を遮り、まとめておいた大きな荷物袋を背負った。
「荷物はこんなもんでいいよね? 重いものは僕が持つから、リューシアは周りを警戒してもらえるかな?」
リューシアが雷魔法を食らったときみたいにビクンと震えるのがわかった。
そして、ゆっくりと振り返ったときには、信じられないものを見るような目をしていた。
「ゼクス……な、何をしている……? 自分が何を言っているか分かっているのか……!?」
「分かってるよ。僕たちは互いを必要としてると思ってたけど、違うの?」
「だ、だがお前は……」
僕は彼女のそばに歩み寄って、彼女の震える手をギュッと握った。
「リューシアはまだ『足元がおぼつかない』んでしょ? そしたら君がどこへ行くにしても、僕が必要だよね? ……そばにいてくれっていったのはリューシアだもん。1人で行かせるわけないじゃん」
「――っ、……あ、……う……」
リューシアの赤い瞳から涙がポロポロとこぼれていく。
彼女はいつものように顔を真っ赤にして、僕の手を握り返すと、やっぱり早口で言った。
「……こ、後悔しても、知らんぞっ! い、一生、私は足元がおぼつかないからな! なおらないんだ。持病みたいなもんだ! これもぜんぶ、ゼクスのせいだからな! お、お前には責任取ってもらう……からな……」
「やっぱり、リューシアはそうじゃなくっちゃね」
「なんだよ、バカにしてるのか!?」
「ううん、別に」
「はっきり言えよ……」
「うーん、やだ」
朝日が木々の隙間から差し込んでくる。
「じゃあ、行こうか」
「まったく、お前ってやつは……」
僕たちは振り返らずに、新しい居場所を探して歩き出した。
僕に必要なのは勇者パーティでも、街の人間でもない。
僕を必要としてくれた、強くて真っ直ぐで、すぐに真っ赤になる不器用な女の子だ。
そう、リューシアがいれば……他に何もいらないんだ。
「――見つけたぞ、リューシア様。いや、リューシア。お前を抹殺する」
玄関前に現れたのは、魔王軍の追撃隊。リューシアを「敗北者」として処分するために放たれた、彼女のかつての部下たち。
「貴様ら……っ」
リューシアが、僕を庇うように一歩前に出る。その手に握られているのは、かつて彼女が持っていた刃こぼれした剣だ。
とはいえ僕が丹念に研ぎ直し、重心を調整しなおしてある。新品同様とはいかないけど、充分に戦えるはず。
「ゼクス、下がっていろ。……私はもう二度と失わない。お前を絶対に守る。守り抜いて、今度こそ――」
リューシアの背中が、力みすぎているのが分かった。
もちろん彼女は強い。でも、僕というお荷物を守ることで力が入り、固くなってしまっているのだ。
このままでは彼女の剣を鈍らせてしまう。
「リューシア、僕を信頼してくれ」
僕は彼女の隣に並び、奇襲を想定して仕込んでおいた罠の起動魔法を発動する。
「な……っ!?」
地面に魔法陣が現れ、噴き出した麻痺毒が追撃隊を包みこむ。
自分でも笑っちゃうくらい地味だが、これが確実に相手の動きを止める「僕の策略」だ。
「今だよ、リューシア!」
「任せろゼクスっ……うおおおっ!」
リューシアの一閃が空を切り、追撃隊を完膚なきまでに叩き伏せた。
静寂が戻った廃屋で、リューシアは荒い息をつきながら、地面に倒れたかつての部下たちを見つめていた。
やがて彼女は、にっこり微笑んで僕を振り返る。
「すまない……ゼクス。私への追手はこれからも確実に来るだろう。私は……もっと遠くへ、人里離れた地に移動するつもりだ」
だけど、その声は笑顔とかけ離れていて。震えたような、今にも泣きそうな声だった。
リューシアのこんな悲しい声は、今まで聞いたことがない。
彼女は僕に背を向け、一歩踏み出した。
「ゼクス、お前は街で暮らせ。それか勇者パーティと合流しろ。今ならまだ勇者たちも歓迎するだろう。私のような『敗北者』と一緒にいたらダメだ。お前の人生が台無しになる。お前と暮らしたこの数週間、本当に、夢のような……毎日だった――」
「リューシア!」
僕は彼女の言葉を遮り、まとめておいた大きな荷物袋を背負った。
「荷物はこんなもんでいいよね? 重いものは僕が持つから、リューシアは周りを警戒してもらえるかな?」
リューシアが雷魔法を食らったときみたいにビクンと震えるのがわかった。
そして、ゆっくりと振り返ったときには、信じられないものを見るような目をしていた。
「ゼクス……な、何をしている……? 自分が何を言っているか分かっているのか……!?」
「分かってるよ。僕たちは互いを必要としてると思ってたけど、違うの?」
「だ、だがお前は……」
僕は彼女のそばに歩み寄って、彼女の震える手をギュッと握った。
「リューシアはまだ『足元がおぼつかない』んでしょ? そしたら君がどこへ行くにしても、僕が必要だよね? ……そばにいてくれっていったのはリューシアだもん。1人で行かせるわけないじゃん」
「――っ、……あ、……う……」
リューシアの赤い瞳から涙がポロポロとこぼれていく。
彼女はいつものように顔を真っ赤にして、僕の手を握り返すと、やっぱり早口で言った。
「……こ、後悔しても、知らんぞっ! い、一生、私は足元がおぼつかないからな! なおらないんだ。持病みたいなもんだ! これもぜんぶ、ゼクスのせいだからな! お、お前には責任取ってもらう……からな……」
「やっぱり、リューシアはそうじゃなくっちゃね」
「なんだよ、バカにしてるのか!?」
「ううん、別に」
「はっきり言えよ……」
「うーん、やだ」
朝日が木々の隙間から差し込んでくる。
「じゃあ、行こうか」
「まったく、お前ってやつは……」
僕たちは振り返らずに、新しい居場所を探して歩き出した。
僕に必要なのは勇者パーティでも、街の人間でもない。
僕を必要としてくれた、強くて真っ直ぐで、すぐに真っ赤になる不器用な女の子だ。
そう、リューシアがいれば……他に何もいらないんだ。
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