断罪された悪女に聖女になれとか正気かしら?

ちくわ食べます

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45 えええええええ!?

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「お姉様……その、実は……全て、お断り、させてもらっていまして……」
 
「…………はぁ?」
 
 思わず、淑女らしくない素っ頓狂な声が出てしまった。
 今、この子なんて言った? 全てお断り?
 私の……聞き間違いよね?
 
「お断り……っていったかしら? どうして?」

「そ、その……それは」
 
「王太子殿下からのお誘いを断るなんて……普通に考えて、してはいけないことなのよ!?」

 子爵令嬢であるミレイナが、王族からの誘いを断るなんてありえない。立場的にあってはいけないことでしょう?
 
 私の動揺に、ミレイナは少しだけ困った顔を見せた。しかし、その瞳には、強い決意のような光が宿っていた。
 
「だって……私には、お姉様がいらっしゃいますから」
 
「私がいる? えっと……それは、どういうことなのかしら?」
 
「私、お姉様のようになりたいんです。強く、気高く、そしてご自分の道をしっかりと歩んでいるカッコいい女性になりたいんです。それにはもっと自分を磨かないとダメだと思うんです。ですから……今は殿方にうつつを抜かしている場合じゃなくて――」

 ミレイナは目を輝かせて、まっすぐに私を見つめてくる。
 これは……憧れの眼差し?

 ――え、えええええええ!?
 
 ち、違うのよ!!
 そうじゃないのよ、ミレイナ!

 あなたはそのままでよかったの!
 庇護欲をそそる女なんだからっ、強くなんてならなくていいの!
 弱くていいのよ!! リュシオンに守ってもらいなさいよ!

 本当に何考えてるのよ!
 しっかり、殿方との恋愛にうつつを抜かしてくれないと私が困るのよ!
 思いっ切り、周りが見えなくなるくらい大恋愛して欲しいのよ!!

 
「そ、それにっ……!」

 ミレイナはさらに言葉を続ける。
 
「私のような未熟者が、お姉様の大切なご婚約者である殿下と親しくするなんて、お姉様に対してあまりにも不敬です! そんな失礼なこと……私は、お姉様を裏切るような真似は絶対にできません!」


「…………」
 
 私は、ティーカップを持ったまま、完全に固まってしまった。
 さぞかし引きつった笑顔になっていることだろう。

 頭が痛い……。
 まさか私への忠誠心と尊敬の念が、計画の最大の障害になってしまうなんて……!
 
 あなたを助けたのは、リュシオンを落とさせるためなのよ!?
 計画を分かっているの!? いや、ミレイナには話してないから分からないか……。

 ……じゃなくてっ!
 ちゃんと私の計画通りに動いてよ!!
 
 こんなこと声には出せないから、心の中で大いに絶叫した。それはもう何遍も。
 心の中の私は、声が枯れ果てているに違いない。

「私は、なにがあってもお姉様の味方ですから……」

「そう……ありがたい……わね……」
 
 私は返事をするのがやっとだった。
 
 ミレイナは、自分が計画を根底からぶっ壊しているとは夢にも思っていないのだろう。
 夢見る少女のようにキラキラとした瞳で、うっとりと私を見つめている。

 ……なぜその瞳をリュシオンに向けないのよ。


 まったく、どうしてこうなったの?

 なんてことよ……これじゃ私の完璧な『婚約破棄計画』が破綻してしまうわ。
 何か、何か手を打たないと……!

 ミレイナにも計画のことを教えるべき?
 それとも、私がリュシオンを嫌っていることを伝えたほうがいい?
 
 私は必死に次の策を練ろうと、なんとか計画を立て直そうと、頭をフル回転させていた。
 
 まさにその時だった。
 老執事のマティアが、静かな足取りでサロンに入室してきたのだ。

「お嬢様、お話中のところを失礼いたします。王宮より、至急の使者が参っております。こちらをお収めください」
 
 マティアが恭しく差し出したのは、王家の紋章である獅子が刻印された、分厚い封蝋の手紙だった。
 
 こんな忙しい時に、一体何よ……?
 少し考える時間が欲しいっていうのに。

 でも、王宮から……しかも至急って言ったわね……。
 なんだか嫌な予感が胸をよぎる。

「……ちょっと失礼するわね」
 
 私はミレイナに断りを入れると、マティアから受け取ったペーパーナイフで厳かに封を切った。
 そこに記されていたのは、簡潔にして、有無を言わせぬ命令だった。
 
『――セレナティア・ヴァルムレーテ公爵令嬢に命ず。一月後、大神殿にて執り行われる『聖女認定の儀』に臨み、その資格を証明すべし――』

「聖女認定の儀……ですって!?」

「お姉様が、ついに聖女に……!」
 
 ミレイナがやけに嬉しそうな声を上げる。
 けど、今はそれどころじゃない。
 
 婚約破棄計画の難航という目前の問題に加えて、今度は国家規模の問題?
 そしてこれはきっと、私の運命を左右するであろう新たな試練になる予感がした。
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