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しおりを挟む馬車の扉が開くと、サァっと爽やかな風が入ってきた。
ほのかに野の花の香りが混じっている。
グレイシア様にエスコートしてもらい外に出ると、青々とした草花とキラキラと光を反射する湖が眼前に広がる。
「いつ来ても素敵だわ」
「僕は初めて来ましたが、いい所ですね。良く来てたんですか?」
「えぇ、小さい頃は良くメリアローズ様と一緒に。夏の間、近くの子供たちと一緒に駆け回って遊んでいましたわ。王都では中々思い切り体を動かして遊べないので、とても楽しくて。将来自分の子供も連れてきてあげたいなと思ってます」
「そうですね、連れてきましょう」
……ん?
連れてきましょう、というのは…?
湖へ向かって先を歩いている殿下達から、グレイシア様へと視線を向けると、すぐに目が合い微笑まれる。
んんっ、良い笑顔!
こ、ここは突っ込まないでおこう、うん。
誤魔化すように笑みだけ返して、視線を前に戻す。
あ、そうだ。お礼を渡さないと。
「あの、グレイシア様?先日はありがとうございました。これ、お礼に受け取ってくださいますか?」
「そんな、改めてお礼を貰うような事はしてないのに…いいんですか?」
「はい。大したものではないですが」
受け取ってラッピングを解き、中に仕舞われたハンカチを目にして、グレイシア様の顔が綻ぶ。
「これは…素晴らしいですね。リリアーナ嬢は刺繍の才能もあるんですね」
「いえ、そんな才能という程ではないです!」
「こういったものは初めて貰いました。ありがとうございます。あの、リリアーナ嬢の負担でなければ、また刺繍をしていただけますか?」
「え、私なんかの刺繍でよろしければ、いつでも」
「では、今度刺繍糸を贈りますね」
そして後日、美味しそうな可愛らしいお菓子と共に、学園で使うタイと刺繍糸が届いた。少し赤みがかった銀糸と、ラベンダー色の。そう…私の髪と瞳の色の…。
「ふふ、素敵ですね、お嬢様」
「そ、そうね。よくこんな珍しい色味のものを用意できたわね…」
「でも、お嬢様の色で刺繍を強請るなんて、グレイシア様も中々大胆ですね?」
「う…やっぱりこれ、私の色よね?」
「ええ、どう見ても。…お嬢様、グレイシア様とはてっきりいい仲なのかと思っていましたが、もしかしてただ言い寄られているだけですか?もしそうなら、これは送り返しましょう」
「いえっ、違うのよ!?グレイシア様は初めてお会いした時から好みどストライクだし、知れば知る程素敵だなと思っているわっ!」
「…ではなぜ、あまり浮かない顔を?」
「それはっ…グレイシア様が素敵だからこそ、私なんかでは勿体ないというか…私よりもふさわしい人がいるんじゃないかって…」
「お嬢様以上にふさわしい方ですか?そんな方います?」
「ほらっ、メリアローズ様とか…」
「メリアローズ様は殿下の婚約者じゃないですか」
「う…そうだけど…」
「いいですか、お嬢様?唯一同じ年頃の令嬢が居て、家格が上のメリアローズ様は殿下の婚約者。加えて、同じく侯爵家である他の令嬢は婿を取る必要がありません。更に、殿下の側近として将来を約束されているとは言え、グレイシア様は次男なので爵位は継げない為、婿に入るのが妥当です。」
「…え、えぇ、そうね?」
「ここでお嬢様です。侯爵家の一人娘であるお嬢様は、家格の釣り合う優秀なお婿さんを迎えるのがベスト。完全に条件一致です。それにお嬢様は見目も抜群、成績も優秀。性格だって悪くありません。ついでにグレイシア様からお嬢様の色の刺繍の催促。好意以外考えられません。これでもまだ相応しくないと仰いますか?」
「うっ…」
私だって、客観的に見たらそれくらい分かる。
実際、あまりに反応が可愛らしいから、冗談でグレイシア様に言ったことがあるくらいだ。
でも…私の頭の片隅には、やっぱりこの世界が乙女ゲームの世界だというのがあって…。
勿論、ここがゲームではなくて、紛れも無く現実だと言うことは分かってる。
けど…攻略対象であってもおかしくないグレイシア様と、確実にモブの私。
マリアンヌ様は無いにしても、もしかしたらある日突然、別のヒロインが現れるかもしれない。
その時に、私は太刀打ちできるのだろうか…。
「…つまり、私は自分に自信がないのね…」
どうせモブだから、と多少本来のストーリーと違う事をした所で、大した影響は来ないだろうと、それなりに好き勝手やってきた。
でもその「どうせモブだから」という考えが、今になって自分に自信が持てない原因となっているのだ。
「まぁ、そういう謙虚なところも、お嬢様の良いところではありますけどねぇ。でも、自分を卑下するのはダメですよ。よし、私が今まで以上にお嬢様を磨きあげます!」
「え?…あ、うん、よろしく?」
そうと決まれば!と何やらブツブツ言いながら、部屋を出て行ってしまった。
「…さてと、これ、どうしようかしら」
細身のタイと刺繍糸を眺めながら、図案を考える。
うーん…色味的には花の刺繍を刺したら綺麗なのだけど、男性には合わないし…。
グレイシア様のイメージに合わせると…静かで、どこか冷たく清らかで…可愛らしさもちょっとあって…うん…夜空に浮かぶ月と星なんて素敵じゃないかしら?
タイの色も濃い藍色だし。
そこまでイメージが固まれば、あとは黙々と針を刺すだけ。
タイを結んだ時に、ギリギリ上着に隠れる辺りに、三日月と星の刺繍を散りばめた。
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ただいま諸事情で出すべきか否か微妙なので棚上げしてたのとか自サイトの方に上げるべきかどうか悩んでたのとか大昔のとかを放出中です。見直しもあまり出来ないのでいつも以上に誤字脱字等も多いです。ご了承下さい。
恐らく後で消す私信。電話機は通販なのでまだ来てないけどAndroidのBlackBerry買いました、中古の。
中古でもノーパソ買えるだけの値段するやんと思っただろうけど、ノーパソの場合は妥協しての機種だけど、BlackBerryは使ってみたかった機種なので(後で「こんなの使えない」とぶん投げる可能性はあるにしろ)。それに電話機は壊れなくても後二年も経たないうちに強制的に買い換え決まってたので、最低限の覚悟はしてたわけで……もうちょっと壊れるのが遅かったらそれに手をつけてた可能性はあるけど。それにタブレットの調子も最近悪いのでガラケー買ってそっちも別に買い換える可能性を考えると、妥協ノーパソより有意義かなと。妥協して惰性で使い続けるの苦痛だからね。
……ちなみにパソの調子ですが……なんか無意識に「もう嫌だ」とエンドレスでつぶやいてたらしいくらいの速度です。これだって10動くっていわれてるの買ってハードディスクとか取り替えてもらったりしたんだけどなぁ。
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