確実にモブだけど、好きにさせていただきます!

万李

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正直、あの後の事はよく覚えていない。
というか、放心状態だった。


上機嫌なグレイシア様に、支えられるようにして寮の入口まで帰ってきた後、フラフラと自室まで行きドアを開けると、中で待っていたサラが顔を真っ青にして取り乱すのを見て、やっと正気に戻った。



「お嬢様!!遅いから心配しており…まぁ!!どうしたんですか!?こんなに赤くなって!一体誰にこんな事を!?すぐに旦那様に報告を!!」



「サ、サラ!大丈夫よ、落ち着いて?」



「はっ!すみません、取り乱しました。とにかくお嬢様、治療しますのでこちらにお座りください」



「ありがとう」



「でも一体何があったんです?」



テキパキと準備をするサラに、ざっくり事の成り行きを説明する。



「まぁ、そんな事が……あら?赤く腫れていますけど、それ程熱は持っていませんね」



「あぁ、それはグレイシア様が応急処置で冷やしてくれたから…っ」



うっかり応急処置の時の事を思い出してしまって、顔が赤くなるのが分かる。



「グレイシア様…グレイシア侯爵のご子息ですね。何かお礼をしてもいいかもしれないですね…お嬢様?」



サラの声を聞きつつも、『 驚いたけど全然嫌じゃなかった』とか、『パニックになってたから確かじゃないけど、2回目は凄く長かった気がする』なんて考えていたら、サラに怪訝な顔で見られてしまった。



「そっそうね!何かお礼をしたいわっ!何がいいかしら?」



慌てて誤魔化してみたけど、サラは意味深に微笑んだ。



「…ふふ、そうですね、ハンカチに刺繍をしてお渡ししてはいかがですか?」



「そ、そうね、それがいいわ!」



「では、裁縫道具と糸をお持ちしますね。…これは違った意味でも旦那様に報告ね」



湿布を貼り終わり、片付けながらサラが何か言っていたが、後半は小さくて聞こえなかった。









次の日は丁度2連休の初日で、メリアローズ様は殿下とのデートに出かけ、きちんとした護衛が付き添うので、私は1日何も予定がなかった。

サラが持ってきてくれた糸の中に、グレイシア様の髪色にそっくりな青みがかった銀糸があったので、それを使ってグレイシア様の家紋と、雪の結晶の模様を丁寧に刺繍した。
我ながら上出来ではある。
何度も確認をして、明日お会いする時に渡せるよう、綺麗にラッピングする。






翌日、メリアローズ様の領にある湖へピクニックに行く為、用意された大きな馬車に乗り込む。

メリアローズ様の隣には殿下が座るので、当然私の隣にはグレイシア様が座った。

…あの、少し近くありません?

今まで隣に座る事もあったけど、人1人分位は間が空いていたのに、今は肩が触れ合う距離にいる。


…うん、深く考えないでおこう。



「そうだ、リリアーナ嬢。一昨日ダクワーズ嬢と一悶着あったと聞いたよ。見たところ大丈夫そうだが、もう叩かれた頬は問題ないか?」



「はい。昨日一日で腫れも引きましたわ」



「なにそれ、私聞いてないわ!?叩かれたって…何故知らせてくれなかったの?」



「ローズに心配かけたくなかったから。それに大した事なかったのよ」



「私の事を気にしてくれるのは嬉しいけれど、今度からは何かあったらちゃんと言って欲しいわ。私だってリリィの事心配したいもの」



「はい、そうします」



はぁ、うちのローズ様は本当に良い子に育ったわ。



なんて考えていたら、石にでも乗り上げたのか、ガタンと音を立てて馬車が揺れた。

壁の方に体が傾いたが、グレイシア様が腰を支えてくれたおかげで、衝突はせずに済んだ。



「あ、ありがとうございます」



「リリアーナ嬢の事は、僕が守りますよ」



腰に添えた手をそのままに、至近距離で言われて変な声が出そうになる。



「まぁ!グレイシア様が守ってくださるなら安心ね!」



ものすごくキラキラと目を輝かせながら話すメリアローズ様や、「護衛が護衛(一応)を守ってどうする」という疑問と、離れる気配のない手と距離感に関して、引き続き深く考えないでおく事にする。
顔を赤くしながらも、目を細め表情を無とした私を見て、殿下が笑った気配がしたけど、それも気づかなかった事にしよう。






……



「…殿下、笑い過ぎです」



「ごめん、でもちょっと無理…プククッ」



チベットスナギツネみたいな顔で殿下に視線を向けていると、静かに馬車が止まった。



「…あぁ、着いたようだね」



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