不仲な婚約者と一夜の関係で終わるはずだった

アマイ

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誤算

 フレデリックは息を荒げながら、意識を失ったセシルの体を強く抱きしめた。
 違う、こんなはずではなかった。
 身体は甘すぎる陶酔に満たされながらも、フレデリックの心は困惑と苛立ちと焦燥とに掻き乱れていた。
 セシルへの仕返しはたしかに成功だった。

 醜い痕跡を刻みつけたい衝動を限界まで抑え、心まで蕩かすほど優しく、白さを取り戻しつつある美しい体を愛でるように愛撫した。
 するとセシルはこれまでにないほど啼き善がり、涙を零すほど切実にフレデリックを求めた。
 まるで恋する女のように熱く潤んだ目で、フレデリックを見つめながら――

「はっ……」

 ドクリと胸の奥が大きく波立つ。
 本性を晒す前ですら、セシルのあんな表情は見たことがない。
 まさかあれは演技ですらなく、素だったのか?
 たった一度、優しく抱いただけなのに?

 ――フレデリック……

 不意に甘く名を呼ばれ、愛おしげに口付けられた感触が鮮明に脳裏に蘇る。
 心から求められ繋がった――そう錯覚させられるほど、この交合は脳髄が痺れるほどの充足感をもたらし、その甘すぎる余韻からいまだ抜け出すことができない。
 もしかしたら、セシルも同じ感覚を味わったのだろうか。

「セシル……」

 ドス黒い憎しみと嫌悪が薄れかかっていることに気づいて危機感を覚える。
 あれは長年フレデリックの根幹に根ざしてきたものだ。
 もし失えば……どうなる?

(まさか俺がセシルを愛するとでも?)

「はっ……ありえない……」

 フレデリックは雑念を振り払うよう繋げたままの下肢をガツガツと揺すりはじめた。
 意識はなくともセシルの中は応えるように熱く戦慄き、フレデリックを痛いほど食い締めてくる。

「くっ……そんなに好きか?」

 悩ましげに眉根を寄せるセシルの顎を掴み、フレデリックは赤く濡れた唇を喰んだ。
 その瞬間言葉にならない不可思議な情動が胸に溢れ、フレデリックは夢中で唇を吸い、口内を貪った。
 そうして本能のまま腰を打ちつけ、最奥に熱い飛沫を放つ。
 だが……達したのは体ばかりで、先ほどのような多幸感は得られなかった。
 むしろ身を包む快感に反比例して、心は虚しく乾いてゆく。

「くそっ……」

 ダメだ、フレデリックを切実に求めるあの熱い眼差しがなければもう、満足できない――

「起きろよ、セシル……俺はまだ満足してない」

 しかしセシルは一度寝たらなかなか起きないことをよく知っている。
 意趣返しをしたつもりが、単に厄介ごとが一つ増えただけのような忌々しい心境に内心舌打ちをする。

 これではまるで、セシルの心まで得たがっているようではないか。
 あり得ない……何故自分ばかりがこんな気持ちにさせられるのか……
 人の気も知らずスヤスヤと寝入る憎たらしい女を、フレデリックは骨が軋むほど強く強く胸の中に抱きすくめた。



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