魔導デイトレード戦記

高根 甲信

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1.魔導高等学校

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まだ4月というのに、今日の日差しは夏のようだ。
トンビが飛んでいる。
意識を向けると、僕の視界はトンビのそれになって、地上が俯瞰できる気がする。
地表に小さく、生徒達と一緒に僕が歩いているのが見えた。

さっきバスから降りた僕は、全財産が入ったカバンを背負って学校へ向かっていた。
魔導高等学校。あれが僕が通う学校だ。
落ち着けアレイシ、と自分に言い聞かせる。
この学校に来させてくれた、両親と村のために稼げる大人になるんだ。
小さな気配を感じて、意識が一気に戻ってくる。

「おや」

見ると、すぐ目の前の道に1羽の小鳥がうずくまっているのが見えた。
ヒバリの子かな?トンビに追われて、道に落ちたのかもしれなかった。
こんなところにいると、車に踏まれてしまうと思った僕は、とっさにヒバリの子を拾った。

「あぶない!」

声と同時に耳を掠めて風切音がしたかと思うと、すぐ脇を魔導車が猛スピードで走り去る。僕は慌てて飛び退いたが、カバンもろとも倒れこんでしまった。
裕福な家庭の子どもが乗っているのだろうか。何台かの車が、その後を追うように大きな音を立てて走り去っていく。
後ろを振り返ると、声をかけてくれた小柄な少年が、心配そうな顔をして駆け寄ってきた。

「大丈夫?」

「あ、ありがとう。ちょっと掠めただけ」

ヒバリの子は無事だった。
草むらに放してやると、あっという間に茂みに消えて行った。

「小鳥を助けたのか…あ、君の荷物が…」

見ると、転んだ拍子にカバンから中身が飛び出して、道路に散らばっていた。
僕は、飛び散った荷物を拾ってカバンにしまいながら礼を言うと、近づいて来た少年が言った。

「ぼく、ジョエル。君も新入生?」

「あ、ありがとう。僕はアレイシだ。タロッソから来た」

「え?パナラ州のタロッソ?そりゃ遠いな。じゃあ、君は寮に入るんだ」

そう言いながら、一緒に飛び散った荷物を拾い集め始めていたジョエルは、転がっていたそれを見つけて、あっと小さく声を上げた。

「ヤバ!壊れてるよ!」

ジョエルが拾い上げたのは、手に乗るほど小さな白猫の、「魔導ロイド」、通称「マドロイド」だった。それは、ぐにゃりと横になったまま目も開けず、身動き一つしない。ジョエルは小さな白猫を両手に乗せ、アレイシにそっと差し出したが、目には怒りの火がこもっていた。

「あいつらには、きちんと弁償させよう!あんなの乗ってくる奴等なんて数えるほどだろうから、調べりゃすぐわかるよ」

猫を受け取ったアレイシは、そっと頭を撫でた。柔らかな毛並みは、真っ白で今も美しい。

「ありがとう。でもいいんだ。もともと壊れてるから」

「え、そうなの?てっきり、今ので壊れたのかと思ったよ」

「動かなくなって、ずいぶん経つんだけどね」

僕は慣れた手つきで猫を箱にしまうと、残りの荷物も手早く仕舞っていく。
僕の魔導ロイドは、型遅れの古い廉価モデルだ。にゃーと鳴いて、ゆっくり歩いたり座ったりする程度のものだった。魔導で話したり、しなやかに動かしたりさせると、それはとんでもなく高価になる。
それでもこれは、両親が無理をして買ってくれたものだから、動かなくなってしまった今も宝物なのだ。いつかお金が貯まったら、きちんと修理したいと思っている。

「アレイシ、ぼくらちょっと急いだほうがよさそうだよ」

ジョエルが大時計を見上げて言った。
始業時間が迫ってきていた。

「行こう!」

2人は一斉に駆け出した。
眩しい陽光に、2つの影が蜃気楼となって揺れる。
思えばこの時、僕の物語はもう始まっていたんだ。
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