姉妹揃って婚約破棄するきっかけは私が寝違えたことから始まったのは事実ですが、上手くいかない原因は私のせいではありません

珠宮さくら

文字の大きさ
2 / 13

しおりを挟む

アリーチェは寝違えたその日と次の日の朝から苦い薬を飲むのにかなりの時間と覚悟が必要となったが、飲みきったあとにお見舞いに人が来てくれた。

まさか、昨日の今日で誰かが来てくれるとは思っていなかったアリーチェは来てくれた人物に驚いてしまった。

あまりに驚いて、寝違えたのをすっかり忘れて動こうとして、痛みに悶絶してしまったのは御愛嬌だ。

そして、こうなった。


「は? それで、婚約破棄になったの?」
「なった」
「信じられない人たちね」
「信じてたことすらないけど、そういう人たちだったのは再確認できたかな」


親友のレティツィア・ヴィスコンティは、婚約パーティーに来れないという手紙を見て笑ってはくれなかったようだ。昨日は、これから婚約パーティーがあるというのにすぐさま、アリーチェのところに行くと言い出したらしく、婚約者や実の両親に止められて大変だったようだ。

寝違えただけにしては大袈裟だと思うが、止めている方も気が気ではなかったようで、その辺も聞いてはいたたまれなくなってしまっていた。


(それ聞いただけで、申しわけないわ。おば様たちにも、あとで謝罪しないと。それとレティツィアの婚約者にもしなきゃ)


昨日の今日は忙しいはずのレティツィアは、疲れているはずなのにアリーチェのお見舞いに来てくれていた。時間帯的に学園を休んで来てくれていたが、それは多分、アリーチェの姉に会いたくなかったからだろう。レティツィアとマッダレーナは、昔から仲がよろしくないのだ。


(お姉様と仲の良い令嬢とか、見たことないけど。……本人が友達が多いと思っているのは、姉とエルネスト様の婚約パーティーの時に大勢来たからよね。顔も名前も、ほとんど知らないのに友達が多いと思えるお姉様も、凄かったけど)


姉の婚約パーティーの時を思い出してしまったアリーチェは遠い目をした。それこそ、あの時こそ、寝違えて出席できないことにした方がよかった気がしていた。そこから、婚約したのだからとアリーチェが必死になって婚約が駄目にならないようにしていたことすら気づいていない姉だ。


(本当に何をやってたんだか。まぁ、こうなるのは時間の問題だったのよね。私の寝違えたことから、こうなるとは思わなかったけど。……それより、親友の婚約パーティーのことを聞きたいわ。そもそも、よくレティツィアのご両親が休ませたわね。やっぱり、婚約パーティーで疲れたから休んでいいって話になっていたのかも)


世の令嬢たちは、次の日に学園を休む者も少なくない。


「私の両親が、そんなことで休ませてくれるわけないでしょ」
「え、じゃあ、」
「あなたのことを心配してるからよ。様子を見て来いって、昨日の夜も凄かったし、朝も凄かったわ」
「……」


レティツィアの両親は、ズル休みなんてもってのほかと言う人たちのはずだ。物凄くその辺が厳しいのだ。それがアリーチェの見舞いと言う名目で、休ませてくれたようだ。寝違えたとちゃんと書いたはずなのにおかしすぎる。

それを聞いてアリーチェは何とも言えない顔をしてしまった。


(まぁ、そこは掘り下げないでおいた方がよかったかも。ベクトルが、私に傾ききってるわ)


だが、アリーチェは親友の家族だけが、娘が親しくしているからそうなのだと思っていた。もう1人の娘のように思ってくれているのだと思っていたのだが、アリーチェのことを物凄く気にかけている者が、この国に多いことを知らずにいた。

元王女の娘というだけでなく、アリーチェがその母親によく似ていることが原因だったりするが、それにすら気づいていなかった。


「とてもお似合いね」
「っ、そ、そう思う!?」
「えぇ、そう思うわ」


婚約することになったとか。婚約の打診が来ているとかをアリーチェはよくされていた。

レティツィアの婚約のことも、アリーチェは聞かされていたが、誰と婚約するかを話してくれた時にそう答えた。すると珍しくレティツィアが、そんなことを言っていたがアリーチェは大概の令嬢がアリーチェに聞くとそんな風になるため、気にしていなかった。

でも、これは母親譲りのことだった。アリーチェがお似合いだと言うとその2人が幸せな家庭を築くことになるのだ。

逆に微妙な時は……。


「ど、どうかされましたか?」
「う~ん。なんか、しっくりこないというか。……ううん。私が、お相手の方のことを知らないだけね。変なこと言って、ごめんなさい」
「っ、いえ、滅相もないです! ありがとうございます!」
「?」


姉や妹が婚約しそうだが、どうだろうかと聞いて来る人には、そんな風に答えることもあった。

それでも、強行に婚約したりするとしばらくして破棄になったり、解消したりするのだ。

そして、姉の時は……。


(しっくりこないにも程があるわね)


最初、エルネストはアリーチェと婚約するはずだったが、それを知った姉が騒ぎ立てて2人が婚約することになったのだ。

そうなったことで、芋づる式にアリーチェは幼なじみのステルヴィオと婚約することになったのも、姉が妹が嫉妬したら面倒だからと丁度いいからとステルヴィオとの婚約の話を周りにしまくって、幼なじみも乗り気になってしまって、婚約することになってしまったのだ。


(あんな外堀の埋め方もあるのだと初めて知ったわ。それに乗っかったのが、ステルヴィオの両親とお姉さんなのよね。姉弟の仲がいまいちだったのにあの時ばかりは、凄かったわ)


そんな風に婚約したのに昨日呆気なく破棄になったのだ。元より、しっくりきていなかった2組だから、こうなるのは目に見えていたことだが、そのきっかけが自分の寝違えたことがから始まることまでは予想できなかった。

まぁ、いつか終わるはずだったことだ。それより、安静を言い渡されているアリーチェは、話し相手ができて喜んでいた。寝てれば良くなると思っても、昨日馬鹿笑いしていた2人が夢の中まで追いかけて来てアリーチェのことを笑うのだ。腹が立って寝てはいられなかった。そのたび、あり得ないだろうと憤慨して寝違えた痛みに悶絶することになった。

そのせいで寝不足となっているアリーチェは、親友が来てくれて昨日の婚約パーティーのことを聞こうと思っていたが、それ以前に色々聞かされて一番重要なところを聞けなくなっていた。

本当に酷い寝違えだったため、しばらく安静が必要だと言われているアリーチェには、安静の仕方がわからなくなってきていた。笑われるために寝違えたわけではない。婚約破棄になったのはこの上なく嬉しいが、笑いを取りたくて寝違えたわけではない。

レティツィアの婚約パーティーだからと気合をいれて寝たのがいけなかったのだろう。他の友達の時も、自分の婚約パーティーの時でも、そんな気合をいれはしなかった。

何なら自分の時の婚約パーティーは気合ではなくて、気が張ってしまって大変だった。元婚約者となった幼なじみと浮かれる彼の母親と姉が何かしないかと気が気ではなかった。


(私の婚約パーティーにも、凄いたくさん人が来たのよね。……そして、婚約者とその母親と姉のがこれなのかというような残念な目をされたっけ。あの生暖かい目を今でも忘れられないわ)


それを思い出すと、ステルヴィオとの婚約が破棄になって喜ばれることしか想像できなかった。

逆に姉の方は、エルネストと婚約するとわかった時の婚約パーティーは、マッダレーナが酷かった。あんなに1人で浮かれて婚約者に恥をかかせることばかりを次から次へとやらかそうとするとは思いもしなかった。

それをアリーチェだけで止められず、母も一緒になって助けてくれたが、母はそれに疲れてしまって寝込むはめになって、父が物凄く不機嫌になったのもよく覚えている。

きっと、姉が婚約破棄になったことが知れ渡れば喜ばれるはずだ。エルネストのことを狙っている令嬢は、今も多いのだ。そんなこと簡単に想像できる。

でも、わからないのはレティツィアの婚約パーティーのことだ。だから、丁度よかったと言ったら失礼すぎるが、アリーチェには親友が顔を見に来てくれてありがたくて仕方がなかった。なのにアリーチェのことばかりとなっていた。


「でも、アリーチェが来れなくなったと手紙もらって、あなたの姉が来るのかと思うと憂鬱だったのよ。でも、来れなくてよかったわ」
「……」


残念だとは言わなかった。アリーチェしかいなかったから、本音で話してくれた。


「でも、エルネスト様には来てほしかったわ。それに私の婚約者がエルネスト様が来れなくなったと聞いて、パーティーの途中からしょげてしまって大変だったのよ」
「……あー、なんか、色々と本当にごめん」


そこから、レティツィアの婚約パーティーにアリーチェが見当たらなくなって、ざわついたことを聞くことになった。


「ざわついたの?!」
「当たり前でしょ」


(私、そんなに目立ってるの!?)


普段、そんなことを気にしたことのないアリーチェは、ぎょっとした。主役たちより、目立つなんてあってはならない。しかも、欠席の理由が寝違えたことなのだ。目立ちすぎると困る。

そんなことを思っていると……。


「あの、すみません。アリーチェ様にお見舞いが、届いております」
「え?」


使用人の言葉にアリーチェは、無言のまま親友を見た。親友は……。


「安静必須とは言っておいたわ。だがら、学園もしばらく休むだろうとは伝えたけど、それだけよ」


それ以上は言っていないとレティツィアは言っていたが……。


「……安静の理由を知ってるみたいだけど」


お見舞いが続々と届き始めて、その一部のメッセージカードを見て、寝違えたことを知っているものが多かった。


「なら、元婚約者か。あなたの姉じゃない?」
「……」


親友の言葉にそんなわけないとはアリーチェは言えなかった。絶対、それだとしか思えないアリーチェは、ひっきりなしに届くお見舞いの品に遠い目をしてしまった。


「相変わらず、人気者ね」
「これ、人気関係あるの?」


アリーチェは、寝違えたことが大事になっている気がして頭を抱えたくなった。

どうせ帰っても暇だからと親友は面白がって、お見舞いの品々を使用人と一緒になって仕分けしていたが……。


「疲れるでしょ? あとは、使用人に任せて……。どうしたの?」


何やら、ズーンと沈み始めたレティツィアにアリーチェは疲れが出たのだと思ったが、どうにも違うように見えた。


(なんか、落ち込んでない? 何で??)


そんなことを思って見ているとレティツィアは、ポツリと呟いた。


「……私の婚約祝いでも、こんなにこなかったわ」
「……」


それが聞こえたアリーチェと使用人たちは、不思議に固まったが、使用人たちは何事もないようにテキパキと何が届いているかを記録を取っていた。


「あなたって、やっぱり凄いのね」
「それ、気に入ったの?」


レティツィアは、ぬいぐるみが届いたのを見つけるなり、ぎゅっと抱っこして離さなくなった。


「これ、触り心地いいんだもの」
「あ、本当だ」


それが、よほど気に入ったらしいレティツィアが名残惜しそうにしたのは、ぬいぐるみを手放す時だった。


(流石にお見舞いに来たのをそのままあげるわけにもいかないわよね)


そんなことを思っていると次の日から、やたらと同じぬいぐるみのシリーズが届いた。


(何で??)


そこにまたレティツィアが来て、原因が彼女だと知ったのは、その時だった。

どうやら、被ったら貰いやすくなると思ったようだ。

そして、その後もレティツィアによって巧みに操作されたお見舞いの品がアリーチェのもとに届けられた。


(流石、私の親友だわ)


レティツィアのやることにアリーチェは、そんなことを思っていた。操作されまくった見舞いの品が、親友とアリーチェがほしいものが届くのだから感謝しても、怒ってり咎める気にはなれなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私のための戦いから戻ってきた騎士様なら、愛人を持ってもいいとでも?

睡蓮
恋愛
全7話完結になります!

悪役令嬢カタリナ・クレールの断罪はお断り(断罪編)

三色団子
恋愛
カタリナ・クレールは、悪役令嬢としての断罪の日を冷静に迎えた。王太子アッシュから投げつけられる「恥知らずめ!」という罵声も、学園生徒たちの冷たい視線も、彼女の心には届かない。すべてはゲームの筋書き通り。彼女の「悪事」は些細な注意の言葉が曲解されたものだったが、弁明は許されなかった。

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

それは報われない恋のはずだった

ララ
恋愛
異母妹に全てを奪われた。‥‥ついには命までもーー。どうせ死ぬのなら最期くらい好きにしたっていいでしょう? 私には大好きな人がいる。幼いころの初恋。決して叶うことのない無謀な恋。 それはわかっていたから恐れ多くもこの気持ちを誰にも話すことはなかった。けれど‥‥死ぬと分かった今ならばもう何も怖いものなんてないわ。 忘れてくれたってかまわない。身勝手でしょう。でも許してね。これが最初で最後だから。あなたにこれ以上迷惑をかけることはないわ。 「幼き頃からあなたのことが好きでした。私の初恋です。本当に‥‥本当に大好きでした。ありがとう。そして‥‥さよなら。」 主人公 カミラ・フォーテール 異母妹 リリア・フォーテール

最愛の人に裏切られ死んだ私ですが、人生をやり直します〜今度は【真実の愛】を探し、元婚約者の後悔を笑って見届ける〜

腐ったバナナ
恋愛
愛する婚約者アラン王子に裏切られ、非業の死を遂げた公爵令嬢エステル。 「二度と誰も愛さない」と誓った瞬間、【死に戻り】を果たし、愛の感情を失った冷徹な復讐者として覚醒する。 エステルの標的は、自分を裏切った元婚約者と仲間たち。彼女は未来の知識を武器に、王国の影の支配者ノア宰相と接触。「私の知性を利用し、絶対的な庇護を」と、大胆な契約結婚を持ちかける。

甘そうな話は甘くない

ねこまんまときみどりのことり
ファンタジー
「君には失望したよ。ミレイ傷つけるなんて酷いことを! 婚約解消の通知は君の両親にさせて貰うから、もう会うこともないだろうな!」 言い捨てるような突然の婚約解消に、困惑しかないアマリリス・クライド公爵令嬢。 「ミレイ様とは、どなたのことでしょうか? 私(わたくし)には分かりかねますわ」 「とぼけるのも程ほどにしろっ。まったくこれだから気位の高い女は好かんのだ」 先程から散々不満を並べ立てるのが、アマリリスの婚約者のデバン・クラッチ侯爵令息だ。煌めく碧眼と艶々の長い金髪を腰まで伸ばした長身の全身筋肉。 彼の家門は武に長けた者が多く輩出され、彼もそれに漏れないのだが脳筋過ぎた。 だけど顔は普通。 10人に1人くらいは見かける顔である。 そして自分とは真逆の、大人しくか弱い女性が好みなのだ。 前述のアマリリス・クライド公爵令嬢は猫目で菫色、銀糸のサラサラ髪を持つ美しい令嬢だ。祖母似の容姿の為、特に父方の祖父母に溺愛されている。 そんな彼女は言葉が通じない婚約者に、些かの疲労感を覚えた。 「ミレイ様のことは覚えがないのですが、お話は両親に伝えますわ。それでは」 彼女(アマリリス)が淑女の礼の最中に、それを見終えることなく歩き出したデバンの足取りは軽やかだった。 (漸くだ。あいつの有責で、やっと婚約解消が出来る。こちらに非がなければ、父上も同意するだろう) この婚約はデバン・クラッチの父親、グラナス・クラッチ侯爵からの申し込みであった。クライド公爵家はアマリリスの兄が継ぐので、侯爵家を継ぐデバンは嫁入り先として丁度良いと整ったものだった。  カクヨムさん、小説家になろうさんにも載せています。

謂れのない淫行で婚約破棄されたわたしは、辺境の毒侯爵に嫁ぎました

なかの豹吏
恋愛
 大公侯爵家の令嬢リナーリは、近く王国の第一王子と結婚を控えていた。  しかしある日、身に覚えの無い淫行の疑いをかけられて婚約を破棄されてしまう。  それから数日が過ぎ、そんな彼女の元に舞い込んできた嫁ぎ話。それは王都で『毒侯爵』と噂される辺境伯との生活だった。  辺境伯との奇妙な生活、そして疑惑の真実とは――――。

婚約者の王子は正面突破する~関心がなかった婚約者に、ある日突然執着し始める残念王子の話

buchi
恋愛
大富豪の伯爵家に婿入り予定のイケメンの第三王子エドワード。学園ではモテまくり、いまいち幼い婚約者に関心がない。婚約解消について婚約者マリゴールド嬢の意向を確認しようと伯爵家を訪れた王子は、そこで意外なモノを発見して連れ帰ってしまう。そこから王子の逆回転な溺愛が始まった……1万7千文字。 ネコ動画見ていて、思いついた。

処理中です...