姉妹揃って婚約破棄するきっかけは私が寝違えたことから始まったのは事実ですが、上手くいかない原因は私のせいではありません

珠宮さくら

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それを聞いていたマッダレーナは、すぐに声を荒げた。


「は? ステルヴィオ、そんなことしていたの?!」
「え、いや、こいつが最悪だと言いたかっただけであって……」
「それとアリーチェ嬢とは、幼なじみのようだが、元婚約者の令嬢をそんな風に呼ぶのはやめるべきだ」
「え? いや、でも、昔からそう呼んでいますし」
「そうよ。細かいこと気にする関係ではないもの」


ステルヴィオだけでなく、姉も、そのくらいのことと
エルネストの言うことを取り合うことはなかった。


(お姉様が、この調子なのが一番まずい気がするのよね。そもそも、勢いで婚約しているけど、わかっているのかしらね)


それならとアリーチェは関係なくて、意地の悪い仕返しなんてしていないことについて謝罪するようにエルネストが言ってくれたが……。


「ただの勘違いだっただけじゃないですか。大袈裟ですよ」
「そうですよ。アリーチェに謝罪なんて、他人行儀すぎます」
「……」


(他人行儀って、何? 他人じゃない。何、もう、お姉様と婚約したから身内感覚ってこと?)


アリーチェは、ステルヴィオの言い分もわからなければ、姉が婚約者の味方をするのもわからなかった。まぁ、それはいつものことだが。


「エルネスト様。言うだけ疲れるだけですよ」
「だが」


姉とステルヴィオは、何事もなかったようにアリーチェの部屋から出て行った。

それにエルネストは、呆然として見ていた。

アリーチェは、淡々と見舞いの品をくれた人たちへの返礼に追われていた。


「……」
「あぁ言う人たちですよ」
「……酷いな」
「慣れました」
「何を言ってるんだ。慣れる必要なんてないだろ。アリーチェ嬢が耐える必要はないんだ」


エルネストの真剣さにアリーチェは、泣きそうになってしまった。そんなことを言ってくれたのは、2人目だ。


「ずっと、大変な目にあっていたんだな。彼女と婚約している時に気づかなくて申し訳なかった」
「……謝らないでください」
「だが」
「もう、十分です」
「……」


姉の元婚約者となったエルネストは、アリーチェが何を言いたいのかがわかったようだ。


「……凄いな」
「あー、元婚約者が色々言ってたようなので、それも心配してくれているようです」
「確かにあれだとみんな、心配せずにはいられないだろうな」


エルネストは、マッダレーナとステルヴィオが揃うと最悪な組み合わせになることがわかったようだ。


(お姉様の粗が目立たないように隠していたのをすっかり忘れていたわ。……私の努力が、この間のことと今日のことで無に帰したわけね。何だったんだろ。お姉様が婚約したと聞いてから頑張っていたのに。馬鹿みたいだわ)


何気に姉の婚約が、速攻で終わるのではないかと思っていて、そうならないように必死になっていたのは、アリーチェだったりする。

そんなことに気づいてすらいない姉と幼なじみは、あの調子なのだ。やっていられない。


(素直に感謝するような人たちではないのは、前から知っていたのに。何をがっかりしているんだか)


そんなことを思いながら、エルネストと話しているとある人を思い出してならなかった。こんなに似ているとは思いもしなかった。


(お兄様に会いたいな)


エルネストと話しているとアリーチェは、留学中の兄が恋しくなってしまった。

短期間の留学のはずが、あちらで何か面白いものを見つけたらしく、長期の留学にしたまま戻って来ない。


(ちょっと、街に行って来るみたいな気軽さで出て行ったのよね)


その気軽さに流されて見送ってしまったが、何を言われたのかがわかってから、聞き間違えたんだと思っていたら、全く聞き間違えていなかったのだ。

まぁ、それでも短期留学なら、すぐ戻ると思って騒がなかったが、長期休暇で帰って来ないと両親に聞いてアリーチェは……。


(騒ぐタイミングを逃したのよね)


「アリーチェ嬢? どうした?」
「いえ、あの、わざわざ、すみません」
「いや、気にしなくていい」
「?」


そう言いながら、何やらエルネストがキョロキョロしていてアリーチェは、それが不思議でならなかった。


「あの、何か?」
「いや、何でもない。その、お大事に」
「ありがとうございます」


エルネストが帰って行くのを見送った後で、アリーチェは浮かない顔をしたままだった。


(何だったんだろう??)


何か、他に用事があったように見えなくもなかったが、アリーチェにはわからなかった。


「気分が悪いのか?」
「お兄様……?」
「ただいま。顔色が良くないぞ。医者を呼ぶか?」
「本物?」
「だと思うぞ」


そんな話し方をするのは、兄くらいしかいない。アリーチェが、満面の笑顔になったのは、すぐだった。


「お兄様! お帰りなさい」
「やっと認めてくれたな」


抱きついて来る妹に兄が安心したことにアリーチェは気づいていなかった。

何なら、エルネストが来ている時に隠れていて見ていたことにもアリーチェは全く気づいていなかった。


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