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しおりを挟む兄が留学から戻って来たのを喜べなかったのは、マッダレーナとステルヴィオだった。
「お、おはようございます。お兄様」
「お、おはようございます」
そんな2人を見て、つまらない顔をした兄にマッダレーナとステルヴィオはびくびくしていた。
(この光景も、久々に見るな)
アリーチェは、兄が留学する前まで、これが当たり前の光景だったのを思い出して苦笑していた。
「アリーチェ。そろそろ、行こうか」
「はい」
まるで、いないかのように兄は、アリーチェだけを見て学園に向かった。だが、その一連を見ていて、こんなことを思ってしまった。
(なんか、留学する前よりも扱いが雑になってる気がする。それだけ、呆れてるってことかな)
留学から戻った兄は、すっかり忘れていたお土産をくれたが、マッダレーナへのものは……。
「あの、お兄様。これは?」
「民芸品らしい」
「み、民芸品」
「新しい婚約が長続きするらしい」
「っ!?」
マッダレーナは、民芸品という何ともわからないものの意味を知って嬉しそうにした。
アリーチェは、姉にそんなのをわざわざ買って来たことに驚いていた。
ウキウキで姉が、お土産を持って部屋に引っ込んで行くのをアリーチェは眺めていた。どう見ても、旅行者に買わせるために色んなオプションをくっつけただけの代物にしか見えなかった。
(きっと、婚約が上手くいかないようになるものを探していると言ったら、同じのが出てきそう)
そんなことを思っていると……。
「アリーチェは、これとこれとこれと……」
「お兄様。多すぎます」
「そうか? アリーチェに似合うと思って買って来たんだが」
民芸品が出て来るのかと思えば、とても綺麗だったり、可愛いものをアリーチェは兄から貰うことになった。
両親も、それぞれ素敵なものを貰っていた。姉の民芸品以外は、兄のセンスが煌めいていたのは間違いない。
「え? これは?」
「民芸品よ」
「へ? み、民芸品??」
ステルヴィオもマッダレーナと同じものを渡されていた。マッダレーナが説明すると複雑そうにしていたが、それでもいらないと言うことはなかった。
「新しい婚約。確かにこいつとの婚約は、最悪すぎたからな」
「は? こいつ?」
ステルヴィオが、いつもの調子でそう言ったことに兄が激怒したのは、そこからだった。
そんなこんなで、兄を激怒させた2人は何をしようとしても、無視されることになって、そのストレスがだいぶ溜まり始めているような気がしてならなかった。
学園に着くと兄は、ある人物を見て無表情になったが、あの2人ではなかった。
「エルネスト」
「アリーチェ嬢、おはよう」
「おはようございます。エルネスト様」
「無視するなよ」
「してないだろ」
エルネストと兄の会話するのを見てアリーチェは首を傾げた。
「あの、お2人って……」
「昔からの知り合いだ」
「それって、幼なじみ……」
アリーチェは、ステルヴィオと自分のような幼なじみなのだと思っていたら……。
「アリーチェ。ただのよく知っている知り合いだから」
「そうだな。ちょっと詳しいだけの知り合いだな」
「……」
(それを幼なじみって言うのでは?)
アリーチェは、そんなことを思ったが深く追求することはなかった。何やら追求したら、面倒なことに巻き込まれそうでやめた。
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