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しおりを挟むアデライードの笑顔に見惚れた人物は、ジェルメーヌの婚約者がいる国ではなくて、別の国の王太子がたまたま平民に紛れて賑わうヴィルジ国の街を見に来ていた時に見かけたようだ。
自分たちの国もヴィルジ国のようになればいいと思って見に来ていたようだが、そこでアデライードを見初めたようだ。
彼は、婚約の打診をするよりも、留学して来てアデライードに何かとアピールをした。
それこそ、元婚約者のオーレリアのように色んな女性に優しくすることなく、アデライードにだけわかりやすく熱烈にアピールし続けた。
「あの方、わかりやすいですね」
「本当ね」
オーレリアとは真逆なことをしていて、アデライード以外の令嬢には素っ気なさすぎるのだ。
「でも、変に誤解させないところはいいわよね」
「それにとても素敵な方ですし」
「……」
アデライードにそんなことを話す令嬢たちは、素っ気なくされても怒ることなく、アデライードに猛アピールする留学生にくすくすっと笑っていた。
「アデライード様、あの方……」
「ほっといていいわ。でも、留学生として失礼のないようにして」
「わかりました」
ジェルメーヌは、ただの留学生とは思っていなかった。それほ、アデライードもだった。
だから、分不相応だとか。釣り合わないうんねんと色々と言っているだけの連中が、問題を起こさないように気をつけさせた。
「アデライード。私の婚約者になってほしい」
「……」
「私では駄目か?」
「私は、未だにきちんと名乗っていただいておりません。私は、この国の王女です。あなたは、どこのどなたなのですか?」
「それは……」
「名乗れないのでしたら、お引き取りください」
「……」
彼は結局、名乗りもせずに留学期間を終えて帰って行った。
「アデライード様」
「……名乗ってほしいと言っただけなのに」
「色々あるのでしょう」
「……そうね」
ジェルメーヌの結婚式にアデライードが出た時に彼が何者かを知った。そして、結婚式が終わってから再びプロポーズされた。今度は、婚約ではなくて、結婚してくれと言われたのだが……。
「わかりました。あなたと結婚します」
「っ、い、いいのか?!」
「名乗ってくださいましたから」
「いや、でも、婚約ではなくて、結婚だぞ?」
「……断ってほしかったのですか?」
「いや、そうではないが」
「なら、問題ありません」
ヴィルジ国の国王と王太子であるバスティアンは、アデライードが親友の結婚式に出るために行ったはずが、そのまま婚約して嫁ぎたいところを見つけて帰って来たのに驚いた。
アデライードの横に未来の夫も一緒で、驚きすぎて、喜んでいいのか。急すぎると怒ったらいいのか、わからない男性陣を他所にアデライードは輝かんばかりの笑顔を見せた。
何より新婚旅行に行く前のジェルメーヌにアデライードがその話をいの一番に報告して、新婚旅行よりもアデライードの話を聞きたいと粘る新妻に王弟とアデライードの婚約者となった2人は、何とも言えない顔をしていた。
色々とあったが、アデライードは母親譲りの美貌で寵愛を受け続けることになり、嫁いだ先の国でもヴィルジ国のように行き交う街の人たちが笑顔溢れるようになっていくのも、すぐだった。
その名前が後世の人たちに語り継がれ忘れられることはなかった。
国民からも愛され、王に愛され、幸せいっぱいの人生を送ることとなったが、毒殺されそうになったことがあるようには微塵も見えなかった。
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