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リュシエンヌの義兄であるエーヴァウト・ジュルベルクと義姉のコルネリアは、毎日勉強ばかりに明け暮れるリュシエンヌを見かねて声をかけていた。
「リュシエンヌ。そんなに頑張らずとも、大丈夫だぞ」
「そうよ。気晴らしに買い物にでも行きましょう? お兄様が、荷物持ちしてくれるわ」
「お前なぁ」
それを聞いて、エーヴァウトが眉を顰めていた。ついには、荷物持ち呼ばわりしたことに文句を言おうとしたのだが、それに先に反応したのは珍しくリュシエンヌの方だった。
「荷物持ち……?」
リュシエンヌは、そんなことを元婚約者にしてもらったことが一度もなかったのだ。
「そんなことしてもらったことない」
「え?」
「してもらってない……?」
それを聞いて、エーヴァウトとコルネリアは物凄く驚いた顔をした。すぐに眉を顰めてエーヴァウトは、こう思った。
「は? 買い物に行って、リュシエンヌに荷物持たせてたのか?」
それこそ、あり得ないと言わんばかりにコルネリアは眉を顰めていた。お兄様ですら、そんなことしないわと言うのを聞いて、するわけがないだろ!とエーヴァウトはムッとして答えていた。
どうやら、この二人はそもそも婚約者がいたのに買い物に出かけたことがないとは思っていなかったようだ。
リュシエンヌは、そんな二人の言い合いを聞きながら、こう言った。それは、エーヴァウトとコルネリアの予想を遥かに超えたものだったらしく、何とも言えない顔をしたのは、すぐのことだった。
「いえ、一緒に買い物したことが、そもそもないんです」
「「は?」」
息ピッタリな二人にリュシエンヌは、仲が良いなと内心で思ってしまったが、表情は変わることはなかった。
この家に来る前から、リュシエンヌは笑顔をどこかに忘れてしまったような顔をしていた。そのことにリュシエンヌは気づいてもいなかった。
エーヴァウトとコルネリアは、お互いに顔を見合わせてから、おずおずとリュシエンヌに尋ねた。
「贈り物は?」
「パーティーの前にはありましたが、それもナディーヌに取られてしまって、それを無理やり私が着せているみたいに言われていました。周りは、私より妹に似合うと褒めちぎっていました」
「「……」」
兄姉は、それを聞いて首を傾げていた。そんなところも、双子のようにシンクロしていた。
リュシエンヌは、それを見ながら、兄妹でこんなにも似ている方々がいるのだと変な感心をしてしまっていた。自分たちとはかけ離れた何かにしか見えなかった。
それが、羨ましいと思う気持ちも、リュシエンヌは持てなかった。ナディーヌと今更、歩み寄って仲良くなりたいとはどうしても思えなかったのだ。
そう思う自分が嫌で嫌で仕方がなかったが、無理やり変わりたいとも思えず、義理の兄と姉を見て、肩を竦めていた。
彼らには、リュシエンヌが今何を思っているかなんて想像もできなかったのだろう。そんなことを思ってしまっているリュシエンヌの心の闇を汲んでくれることはなかった。
ましてや、リュシエンヌの中には、誰かに何かしてほしいと思う気持ちもなくなっていた。それを欲したところで手の中からすり抜けてこぼれ落ちていくのだ。
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