見た目の良すぎる双子の兄を持った妹は、引きこもっている理由を不細工だからと勘違いされていましたが、身内にも誤解されていたようです

珠宮さくら

文字の大きさ
3 / 15

しおりを挟む

令嬢たちは、ルベロン国の見目のとても良い王太子の婚約者になろうと必死になっていた。そのせいで、留学する競争率はとても高いことになっていた。

それが、シャルレーヌが男装しながら留学して回ったことで、現実を見た令嬢たちがルベロン国に行くのをやめる者も増え始めた。

シャルレーヌは男装しているのを見破ってくれる者が現れるのを楽しみにしていたが、現れることもなく、気の利いた女性も、男性もいなかった。

女性がいたら、兄の婚約者にいいと思っていたが、キルペルクが自分で婚約者を見つけたとわかっていらぬお節介をしていたと思うだけだった。


「それか、釣書の山に飽きて適当なのを見繕って妥協したか。……なんか、こっちのような気がするな」


シャルレーヌは、兄の婚約者に大した期待を持つことはなかった。

シャルレーヌが留学して回ることにした最初の時から、腑抜けた感じに王太子はなってしまったが、その間に王太子であるキルペルクに何かとすり寄っていた公爵令嬢のアンリエット・カサビアンカと婚約することになったのは、いい加減シャルレーヌが帰って来ないと自分が留学しに行きそうになった頃だった。

ルベロン国で、王女たちである腹違いの妹たちよりも見目の良い令嬢は彼女しかいなかった。身分相応な令嬢で、キルペルクは留学して回って戻って来ない半身のことを気にかけている間に何かと世話をやいて、婚約者までになったアンリエットに絆されたわけではなかった。

ただ、婚約者のことで、釣書の山を見るのも飽きてしまい、他を探すのも面倒に思えて婚約したに過ぎなかったのは、シャルレーヌに色々言った手前、自分も腹をくくって婚約しようと思ったからにすぎない。

それこそ、シャルレーヌの読み通りでしかなかった。シャルレーヌのことを引きこもりから脱しさせたかったはずなのに目の届く範囲にいないことにキルペルクの方が堪えられなかったのだ。

そんな時にシャルレーヌが、ようやく留学先から戻って来た。男装して回っていたから、変なのが寄っては来ないとその辺は安心をしていたキルペルクは、久しぶりに会ったシャルレーヌに満面の笑顔を向けた。

あまりにも会いたくて堪らなかった双子の片割れを見て身体が自然に動いていた。


「シャルレーヌ。会いたかった」
「……」


久しぶりに女性の格好をしたシャルレーヌは、双子の片割れに抱きしめられて苦笑したかった。学園に普通に通うつもりなのと今後のためにも、やって来たシャルレーヌだがキルペルクに抱きしめられるとは流石に思わなかった。


「キルペルク。ここ、学園」
「別にいいだろ? 益々、美しくなったな」
「……」


それこそ、兄妹なのだから問題ないと思っている王太子にシャルレーヌは、内心でため息をつきたくなった。 

でも、何も言わなかったのは、それすら利用できるからに他ならない。片割れは、シャルレーヌのしようとしたことを後押ししてくれる気なのかとちょっと期待した。


「キルペルク様!」
「アンリエット」


学園で、キルペルクが見目の良い美少女を愛おしそうに抱きしめている姿を見た婚約者は、凄い顔をして現れた。

まぁ、わからなくはない。ここでは、未だにシャルレーヌ顔を知られずに部屋で引きこもっていると思われているのだ。その辺のことを失念していたキルペルクは、アンリエットに王女を普通に紹介しようとした。あまりにも普通すぎて、シャルレーヌは期待し過ぎたかもしれないと思うのも早かった。それも、シャルレーヌが痛い思いをしてからだったが。

アンリエットの方が早く動いていた。それは、公爵令嬢としては、あるまじきことだった。

バチン!


「っ、」
「おい! 何をするんだ!」


思いっきり、アンリエットはシャルレーヌの頬を引っ叩いていた。言葉で解決するより、どこの誰だと確認するよりも、王太子を怒るよりも、手が先に出たようだ。


「何をするですって? 私という婚約者がいながら、こんな往来で女性を抱きしめるなんて、殿下もどうかしています!!」


だが、そんなアンリエットの言い分よりも……。


「シャルレーヌ。大丈夫か?」
「……」


キルペルクは、シャルレーヌのことを心配していて、聞いてすらいなかった。それもアンリエットは気に食わなかった。気に食わないわけがない。でも、公爵家の令嬢として、王太子の婚約者としても、いきなり手を上げるなんてするのは、よろしくなかったことを思い知るのは割とすぐだった。

ややこしいことにここにシャルレーヌの男装した子息を追いかけた令嬢が現れたのだ。


「見つけたわ!」
「?」


王太子は突然、見覚えのない令嬢にそう言われてきょとんてしまった。


「何も言わずに戻るなんて、あんまりだわ。あなたのために婚約を破棄までしたのに」
「……」


シャルレーヌは、それにまずいと思ったが、でも女性の格好をしているのだから、そこを色々言われないのはおかしいと思って、事の成り行きを見守ることにした。その間も、頬が痛くてたまらなかった。思いっきり平手打ちされたのだ。痛くないわけがない。


「婚約してくれるまで、離れないわ」
「は?」
「ちょっと! あなた、何なの?!」
「そっちこそ、何なの?」
「私は、彼の婚約者よ!」
「あなたが? なら、さっさと別れて、私が婚約できないわ」
「はぁ!?」


そんなことを言った令嬢のようなのが、その後も増える一方となるとは思わなかったはずだ。シャルレーヌは、王太子に似せたつもりはないが、みんなが勘違いするのに首を傾げるばかりだった。

ちょっと、いや、シャルレーヌが思っていたのと違う方向に向かっているが、これを王太子ならさっさと処理すれば株は上がると思っていた。

その度、王太子は誤解だと話すことになって、理解してくれるまで口論することになった。キルペルクは留学生たちにげんなりすることになった。

そんなやり取りに期待し過ぎたとわかってしまった。彼は演技でもなく、素でそれなのだ。シャルレーヌとは似ても似つかない。見た目が父に似ているだけで、母のような中身をシャルレーヌのように持っていないのだとわかって、幻滅してしまった。

それにシャルレーヌは、男装していたが片割れに似せているつもりはなかったが、雰囲気が似ていたようだ。そこは、仕方がない。双子で、同じ両親を持っているのだから。


「留学……? 何を言っているのよ。この方は、この国の王太子殿下よ。留学なんてしてないわ」
「は? え??」


そこから、追いかけて来た面々は別の子息と勘違いしたことがわかることになった。

だが、一番最初のこの時は、キルペルクが抱きしめた相手か王女だとわかって、アンリエットは自分のしでかしたことに顔色を悪くさせた。


「ま、まさか、噂の不細工な王女……?」
「噂なんて知らないが、シャルレーヌは私の双子の妹だ!」
「っ、!?」


アンリエットは、そこから平謝りした。でも、キルペルクはシャルレーヌの方を見続けた。アンリエットのことなど、もうどうでも良いかのようにした。


「可哀想にこんなに腫れて」
「っ、も、申し訳ありません」
「お前との婚約は、破棄する」
「そんな!」
「そんな? 私の大事なものを傷つける者を婚約者にしておくわけがないだろ」
「っ、」


キルペルクは大事な片割れを平手打ちしたのをそのまま婚約者にしておくつもりはないとアンリエットは婚約を破棄されることになった。

それこそ、そのことを知った国王は、キルペルクより怒ってしまって大変だった。


「そうか。潰すか」


公爵家ごと潰す勢いの国王にキルペルクは頷いていて、それにシャルレーヌは呆れた顔をした。


「そんなことしなくていい」
「だが」


国王と兄の許せないと言う顔を見て、シャルレーヌはそれをやめさせるのに時間を費やすことになるとは思いもしなかった。


「これからも、迷惑かけそう」
「あー、お前の男装に釣られて来た令嬢たちか」


国王が、何の話だと双子に聞けば……。


「そうか。シャルレーヌの男装をキルペルクと間違えたか」
「笑い事ではありません」
「そんなに似ていたのか?」
「多分、雰囲気だけです」


なにせ、両親は双子だ。雰囲気まで変えていたら、シャルレーヌが疲れてしまう。それに王太子として、難なくあしらえていたら、株は上がる一方になるはずなのだ。

真逆になっていきそうだなとシャルレーヌは内心で思ってしまったが、それについてふれることはなかった。


「シャルレーヌ。男装なんてせずに婚約者を探せばよかったのではないか?」
「どこの国でも、容姿や性別で態度をコロッと変える者ばかり。私が、女だとわかっても態度の変わらない者は、そういないことだけはよくわかりました」
「シャルレーヌ。また、部屋に引きこもるつもりか?」
「いえ、騒がせたついでに第1王女として、学園に通います」


そんなこんなで、シャルレーヌが戻って来たことで兄の婚約は破棄となり、追いかけて来た令嬢たちは王太子にとんでもなく無礼なことをしたことが家にバレて勘当されたり、修道院に入ることになった。

その中にアンリエットもいた。


「本当になんてことをしてくれたんだ!」
「そうよ。王女に平手打ちをするなんて信じられないわ」


公爵夫妻は、アンリエットのしたことで怒鳴り合いになり、アンリエットを勘当してからも夫妻はどちらがより悪かったかをなすりつけあうよえになり、公爵家と共倒れになりたくないと距離を置く家々は後を絶たなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

『龍の生け贄婚』令嬢、夫に溺愛されながら、自分を捨てた家族にざまぁします

卯月八花
恋愛
公爵令嬢ルディーナは、親戚に家を乗っ取られ虐げられていた。 ある日、妹に魔物を統べる龍の皇帝グラルシオから結婚が申し込まれる。 泣いて嫌がる妹の身代わりとして、ルディーナはグラルシオに嫁ぐことになるが――。 「だからお前なのだ、ルディーナ。俺はお前が欲しかった」 グラルシオは実はルディーナの曾祖父が書いたミステリー小説の熱狂的なファンであり、直系の子孫でありながら虐げられる彼女を救い出すために、結婚という名目で呼び寄せたのだ。 敬愛する作家のひ孫に眼を輝かせるグラルシオ。 二人は、強欲な親戚に奪われたフォーコン公爵家を取り戻すため、奇妙な共犯関係を結んで反撃を開始する。 これは不遇な令嬢が最強の龍皇帝に溺愛され、捨てた家族に復讐を果たす大逆転サクセスストーリーです。 (ハッピーエンド確約/ざまぁ要素あり/他サイト様にも掲載中) もし面白いと思っていただけましたら、お気に入り登録・いいねなどしていただけましたら、作者の大変なモチベーション向上になりますので、ぜひお願いします!

喋ることができなくなった行き遅れ令嬢ですが、幸せです。

加藤ラスク
恋愛
セシル = マクラグレンは昔とある事件のせいで喋ることができなくなっていた。今は王室内事務局で働いており、真面目で誠実だと評判だ。しかし後輩のラーラからは、行き遅れ令嬢などと嫌味を言われる日々。 そんなセシルの密かな喜びは、今大人気のイケメン騎士団長クレイグ = エヴェレストに会えること。クレイグはなぜか毎日事務局に顔を出し、要件がある時は必ずセシルを指名していた。そんなある日、重要な書類が紛失する事件が起きて……

手作りお菓子をゴミ箱に捨てられた私は、自棄を起こしてとんでもない相手と婚約したのですが、私も含めたみんな変になっていたようです

珠宮さくら
恋愛
アンゼリカ・クリットの生まれた国には、不思議な習慣があった。だから、アンゼリカは必死になって頑張って馴染もうとした。 でも、アンゼリカではそれが難しすぎた。それでも、頑張り続けた結果、みんなに喜ばれる才能を開花させたはずなのにどうにもおかしな方向に突き進むことになった。 加えて好きになった人が最低野郎だとわかり、自棄を起こして婚約した子息も最低だったりとアンゼリカの周りは、最悪が溢れていたようだ。

聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました

さら
恋愛
 王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。  ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。  「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?  畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

番(つがい)と言われても愛せない

黒姫
恋愛
竜人族のつがい召喚で異世界に転移させられた2人の少女達の運命は?

冷徹公に嫁いだ可哀想なお姫様

さくたろう
恋愛
 役立たずだと家族から虐げられている半身不随の姫アンジェリカ。味方になってくれるのは従兄弟のノースだけだった。  ある日、姉のジュリエッタの代わりに大陸の覇者、冷徹公の異名を持つ王マイロ・カースに嫁ぐことになる。  恐ろしくて震えるアンジェリカだが、マイロは想像よりもはるかに優しい人だった。アンジェリカはマイロに心を開いていき、マイロもまた、心が美しいアンジェリカに癒されていく。 ※小説家になろう様にも掲載しています いつか設定を少し変えて、長編にしたいなぁと思っているお話ですが、ひとまず短編のまま投稿しました。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

処理中です...