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しおりを挟むキルペルクは、シャルレーヌが留学から帰って来たとは言わなかった。そもそも、ずっと引きこもっていると思われていたから、男装して留学して回っていたのが、シャルレーヌだと気づく者はいなかった。
王宮にいなかったことをわざわざ言えば、追いかけて来た面々が、シャルレーヌが男装していたことが知られてしまうため、そこは隠されることになった。
キルペルクは、そんなに続くとは思っていなかったのも大きかった。
「お、王太子?!」
「そんな、じゃあ、他の王子だったとか?」
「王子たちは、留学なんてしていない」
「なら、どこかの子息のはずだわ」
追いかけて来た令嬢たちは、王太子に対して無礼なことをあれこれしていたが、それよりも婚約してもらうまでは戻れないとばかり探すことに躍起になって、ルベロン国の学園の中はしばらく散々なことになった。
その姿にキルペルクは眉を顰めつつ、平手打ちをされてシャルレーヌの頬には湿布が貼られていたのを見て、いたたまれない顔を王太子はよくしていた。
誰も男装していたとは思わず、王太子の隣にいるのを婚約者と勘違いして、別れさせるのに必死になった。シャルレーヌの美貌に臆する余裕がないのは、婚約して戻らなければ後がないからだろう。
「シャルレーヌ。無理しなくていいんだぞ」
「平気」
そんなやり取りを学園で度々目撃することになった。
王太子は、心配する言葉だけで、対策をこうじることはなかった。シャルレーヌは、そんな兄である王太子との溝を感じずにはいられなかったが、何も言うことはなかった。
「第1王女があんなにお美しいとはな」
「なぁ、聞いたか?」
「なんだ?」
「隣国で、シャルレーヌ様は王妃様譲りで病弱だと噂されているんだ」
「何?」
「だから、引きこもっていたのも、王妃様のように身体が弱いからだと思われてるんだ」
「それでか。王太子が、何かと無理するなと言っているのは、そういうことか」
子息たちが、そんな話をしているのを令嬢たちも耳にするようになった。
「何が不細工よ」
「そりゃそうよね。王妃も、側妃の誰よりもお美しいらしいから、不細工なんてきっと他の王女や側妃たちがでまかせを言ったに違いないわ」
特に第1王女のことを不細工だと笑いものにしていた王女たちは、腹違いの姉の美しさに絶句して馬鹿にできなくなって、悔しそうにしていた。
散々、シャルレーヌのことを笑っていたことを今度は思い出されることになって、そんな王女たちが周りに笑われることになったのだ。
そんな王女たちは、隣国に次々と婚約者ができて、そちらに行ったが……。
「なんか、噂されていた見目の良さのイメージと全然違うわね」
「本当ね。何なら、ここに来ていた留学生の子息の方が、時折可愛らしく見えたわ」
「私もよ」
「噂を流していたのも、きっと彼女たちとその母親たちね」
「酷いことをするものだわ」
そんなこんなで、隣国に嫁ぐことになった王女たちは、第1王女のシャルレーヌと比べられ、見目が麗しいはずなのに。思っていたより麗しさが足りないかのように周りからも婚約者からも思われて散々な日々を送ることになった。
「何でよ! 何で、引きこもりの王女と比べられて、ここまで言われなきゃならないのよ!」
「あんなの母親譲りの引きこもりってだけなのに!」
「大したことないのにと一緒にされたくないわ!」
シャルレーヌの下の王女たちは、みんなシャルレーヌと比べられることにうんざりしていた。それこそ、今までとは真逆なことになっただけで、シャルレーヌのことを散々馬鹿にしていたことも棚に上げて酷いことを言ってばかりいた。
これまでずっと不満があれば、シャルレーヌのことを馬鹿にしていれば、みんなが一緒になって笑ってくれていたのも大きかった。もう、そんなことをしてはいられなくなっているというのに。
「おい、いい加減にしてくれ。顔はそれなりでも、君のようなのに付き合いきれない!」
「最悪だな。腹違いでも姉だろ? 他所の令嬢より見た目が良くても、悪口ばかり聞かされていたら、こっちの気が滅入る」
「あなたのような王女と一生を遂げるこっちの身にもなってくれ」
そんなようなことを王女たちは、婚約した子息から言われることになった。
それで益々、王女たちはシャルレーヌへの増悪を増していくことになり、あまりの酷さから周りの令嬢たちが聞いていられないと物申せば、そんな令嬢たちに罵詈雑言を浴びせかけるようになった。
どうせ、自分は王女だ。破棄や解消ができないだろうと思って好き放題をし続けた結果、妻として家のことをやらせても、本当に心から愛してもらうことができないまま、浮気される未来しかなかった。
みんな、王女を押し付けられた子息たちに同情的で浮気したくなるのも無理はないとばかり元王女たちが不満を爆発させても、取り合うことはなかった。
「あんな腹違いの妹たちしかいないシャルレーヌ様がお可哀想だわ」
「本当にそうね」
そんな風に言われるようになるまで、大した時間はかからなかった。
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