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しおりを挟むそれから、しばらくして、学園でステファニアはすっかり溶け込んでいた。その溶込みようは、異様なほど早かった。その早さにラファエラは、何とも言えない顔をしていた。
頼ってほしかったわけではない。兄が、頼ってほしかったようで、その辺は落ち込んでいたが、ラファエラはそんなことを思ってはいなかった。
ただ、勘違いだと思ってなかったことにしようとしていることが、消えなくなってきていた。そこが、気になりすぎてステファニアをよく見ていた。
美人で頭がいいから、婚約者のいる子息がデレデレしているのを見て、彼の婚約者の令嬢が凄い顔をして睨んでいるのを1日に何度も見た。
それにピエルルイジが複雑そうな顔をしていたが、ステファニアはただ話しているだけなので、やめろと言うこともせずにいた。その辺の葛藤があるのも見ていてわかったが、流石に妹に兄が相談して来ることはなかった。
ぼんやりとステファニアを見ていることが増えたラファエラの周りに友達が集まって来たのも、いつものことだった。
それこそ、ジョルヴァンナが何かしないかと遠目で見ていた時も、こうだった。そして、ジョルヴァンナが近づいて来ると一斉にいなくなる。
そんなことをしていたが、今は気配を察知するのも必要なくなっていたが、雰囲気はいまいちになっていた。
「……なんか、あの方、似ているわね」
「え?」
「そう思わない?」
「……」
ラファエラにそんなことを言ったのは、付き合いの長い友達だった。ラファエラの方を見て、誰のことと言わずとも、それが誰を指しているかがわかるのだから不思議だ。
姉とは、付き合いが長いが、上手くいったことはない。それも不思議というより、ジョルヴァンナだから仕方がないで済みそうだ。
「あなたも、そう思ったの? 私もよ」
「やっぱり? ラファエラも、思わない?」
「……」
他の令嬢たちも、似ていると話していた。それにラファエラは、一生懸命に考えないようにしていたことを考え始めないわけにいかなくなり始めていた。
まぁ、どんなに拒否してもしないわけにいかない事柄なような気はしていたが。ステファニアのことを気に入ったからしたくないというより、今は兄の婚約者だからしたくない方が勝っていた。
そんなことを思っていると、ラファエラの目をじっと見て来た令嬢にこう聞かれた。
「あの方、ローランド様とお知り合いなの?」
「聞いてないわ」
面倒なことになりそうで聞いていない。だが、他の令嬢が……。
「あ、それなら、私が聞いたわ。でも、そんな人、知らないって即答されたけど」
「即答したの? でも、ローランド様って、ステファニア様と同じところから来られていたわよね?」
「そうなのよ。だから、即答されたのもあって、変だなって思っているのよね。普通は、名前のみだとファミリーネームを聞いたりするでしょ? それすらしなかったし、爵位も聞かなかったのよ」
「……」
「それは、変ね」
「逆に知り合いで、隠したかったみたいに聞こえるわね」
ラファエラは、令嬢たちの会話を聞いて、初対面の時に感じたことを言うか悩んでいた。
(やっぱり、引っかかるな)
「ラファエラ様も、そう思いませんか?」
「……私、初対面の時に母に褒めちぎって気に入られるのを見て、そっくりだと思ったのよ」
不意にそう言うと友達は驚いていた。みんな、母を知っているからだろう。美人のステファニアを気に入るとは思わなかったのも無理はない。
「ラファエラ様のお母様を?」
「えぇ、今じゃ、お姉様より気に入られているわ」
そう言うと不意に話題が変えられた。
「……そういえば、ジョルヴァンナ様は、あちらでどうされているのですか?」
「それが、手紙が全く来ないのよ」
「一度も?」
「えぇ、一度も」
ラファエラは、姉からの手紙がすぐにでも来るものと思っていた。なのに待てど暮らせども来ないことに段々と心配になり始めていた。
それを聞いて、令嬢たちは……。
「ローランド様とイチャイチャしているからでは?」
ここでも、そんな感じだったからと言いたいのだろう。それは、ラファエラも考えた。
「それか、勉強を頑張っていて疲れているからとか?」
それを聞いてラファエラは……。
(勉強にやる気になったお姉様は、元気いっぱいだったから、ローランド様が側にいれば疲れ果てるなんてことなさそうだけど)
ローランドが側にいるだけで、元気になるのも早い気がした。
「素敵な子息だったから、やっかみの応対に奔走しているのかも」
「あの、ジョルヴァンナ様よ? やっかみの応対なんて返り討ちにしているわ」
「確かに」
(それも、無意識でね。……こう聞いてると忙しくないわけないか)
あれこれ言うのを聞きながら、やはりステファニアが気になってならなかった。
ジョルヴァンナは、あの調子だったが、ステファニアのように褒めちぎって懐に入り込んで仲良くするなんてことはなかった。
ラファエラの見える範囲のステファニアと仲良くしている面々は、ジョルヴァンナと関わりが薄い人たちばかりだった。名前をど忘れしても顔を忘れたことのないラファエラは、見かけたことのない子息たちばかりがいるのにこんな人たちがいたのかと思って見ていた。
変な話だが、ステファニアよりジョルヴァンナの方がよかったという者は、次第に多くなっていった。
そういった面々は、ローランドのこともあまり好きではない連中だった。
ラファエラは、ローランドは姉が大人しくなってくれて助かっていたが、思い返してみると……。
(褒めちぎっていたのに裏があったとは考えたくないけど、あそこまでやっているのは姉に一目惚れしたからだとしても、盛ってた気がする。でも
何のためにそんなことしてたんだろ?)
そんなことを考え始めるとラファエラは、姉が心配になってならなかった。
もし、何か目的があって婚約して、褒めちぎっていたのだとしたら、それを追いかけて行った姉がどうなったかが気にならないわけがない。
(とりあえず、帰ったらお兄様にでも聞いてみよう)
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