親しい友達が、みんな幼なじみみたいな厄介さをしっかり持っていたようです。私の安らげる場所は、あの方の側しかなくなりました

珠宮さくら

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「……いつも、そうなのか?」
「いつもより、酷いです」


ハーサン公爵家に帰って、養父母に一語一句伝えるまで大変だった。それを覚えたヴィリディアンに義理の兄は……。


「そんなの全部覚えたのか」
「伝えなきゃと思ったので」
「ご両親は、どう対応していたんだ?」
「あちらの方が爵位が上なので、そういう面倒ごとは持ち込まないでくれと言われてました」
「……」
「ヴィリディアン」
「はい」
「その令嬢は、あなたにとって、どんな存在なの?」
「ただの厄介な幼なじみです」


いい笑顔で、ヴィリディアンは言い切った。そんな顔を実の両親にしたら、そんなことを言うなと怒られるところだ。

養母は、同じく笑顔で夫を見た。彼女の実の息子だけが、頬を引きつらせていたが、ヴィリディアンは見ていなかった。


「私たちの養子にそんなことをしたのですから、きちんと対処してくださるわよね?」
「もちろんだとも。ヴィリディアン、安心してくれ」


養父は、養母に嫌われたくないところがあるようだ。更にヴィリディアンにも、嫌われたくないのがわかる。妻の若い頃にそっくりだとして、ヴィリディアンのことをとても可愛がってくれているのだ。

養母からは、娘が欲しかったとヴィリディアンは言われた。この家には、男の子が3人いた。先程から、一緒にいるのが、次男だ。

長男は、一目惚れした令嬢の家の婿になっている。三男は、ヴィリディアンの実家の養子になった。ヴィリディアンとしては、他の家の養子になることを全力ですすめたのだが、彼は実の両親より、ヴィリディアンの実の両親を気に入ってしまって、交換するように養子になったのだ。

そのうち、現実を見ることになりそうだ。ヴィリディアンの実の両親はわかりやすい人たちだ。クオーラの時から、ヴィリディアンに我慢しろと言い続けるような人たちだ。

跡継ぎとなる養子を得ても、変わることはないだろう。それこそ、実の両親がいかにいい人たちだったかを痛感するはずだが、戻って来ることはできない。

あまりにも言いたい放題にヴィリディアンに上から三男は見下すことを色々言っていた。それをハーサン公爵夫妻に聞かれて、激怒されているのだ。

そのため、今後は養子先で何があろうとも縁を切られてしまったから、彼に戻って来れる場所はない。

それは、ヴィリディアンにもない。ダブラル子爵夫妻が、養子にそんなことをするのに怒って、同じようにヴィリディアンにもしたのだ。ヴィリディアンとしては、ありがたい限りでしかなかったが。それをハーサン公爵に直接言う度胸がないダブラル子爵は、ヴィリディアンに散々な嫌味を言ってくれたが、そんなのであの人たちと縁が切れたのだから、安いものだ。

まぁ、そんなことを思い返して、最近色々あったなとヴィリディアンが感傷的になっていたところにクオーラを伴ったシャルマ伯爵夫妻が、ハーサン公爵家にやって来たのには驚いた。何に驚いたかと言うと……。


「ヴィリディアン嬢。この度は愚女が大変な無礼を働いたようで申し訳ありません」
「この間、一家で酷い風邪を患ったせいで、少しばかり事情に疎かったようで、申し訳ありません。いつもは、こんなことはない娘なのですが……」
「……」


そう、まるで今回だけのようにシャルマ伯爵夫妻が言ったのにヴィリディアンは白けた顔をせずにはいられなかった。

まぁ、この夫妻にとっては、ダブラル子爵家だった頃のことは関係ないと言いたいのだろう。今は公爵令嬢なのだから、今後のことのみに焦点を当てたいと言うことらしいことはわかった。

ヴィリディアンは、謝罪されているはずなのに腹が立ってならないが。

クオーラも、しおらしくしていた。そんな幼なじみをヴィリディアンは見たことがなかった。公爵夫妻がいるからだろう。それとシャルマ伯爵夫妻がいるから、そうしているように見えてならない。

これが、ヴィリディアンと一対一だったら……。いつものクオーラがボロクソに言って来たのだろう。


「ヴィリディアン。本当にどうかしていたわ」
「……」
「許してくれるわよね?」
「……」


それこそ、ここまでして謝ってやってるんだからと言われているようでヴィリディアンは、イラッとした。

でも、ここで許さないなんて言ったら、シャルマ伯爵家に色々言われることになる。どうしたものかとヴィリディアンが思っていると……。


「失礼だが、ご息女がヴィリディアンに何を言ったかはお聞きになりましたか?」
「えぇ、大体は」
「ヴィリディアン」
「はい」
「まだ、覚えているか?」
「もちろん」


養父に問われて、一語一句言ってやった。

それを聞いて、シャルマ伯爵夫妻は目を見開いて驚き、クオーラを怒鳴りつけた。


「そんなことを言ったのか!?」
「あ、いえ、その……」
「失礼ですけど、それをうちの娘が言ったと証明できるのですか?」


ここで、シャルマ伯爵夫人が娘がそこまで言うはずがないとばかりに反論してきた。


「それでしたら、これを聞いていた方々が覚えているところを証言してくれています。今のは、さわり程度です。彼女が、大きな声で言っていたので、覚えている方はかなりいます」
「っ、クオーラ! あなた、こんな大事なことを隠していたのね!!」
「っ、」


そこから、まずいと思ったシャルマ伯爵夫人は娘を怒鳴り散らした。シャルマ伯爵も、同じだった。その変わり身の速さにヴィリディアンは、流石クオーラの両親だと思って見ていた。

それに泣きそうになっていたクオーラがブチギレて、これまで子爵令嬢だったヴィリディアンにシャルマ伯爵夫妻がクオーラにどう言っていたかを暴露して、大喧嘩に発展した。

その酷さにヴィリディアンは絶句してしまった。いつも、クオーラに言われていたのより、更に今回クオーラともう1人の男爵令嬢に言われたよりも、何倍も酷いことを言っていたようだ。


「そ、そんなこと言っていないわ!」
「そ、そうだぞ! お前がしたことの方がよっぽど酷いだろうが!!」
「はぁ!? お父様たちの方が酷いに決まってるじゃない!!」
「いい加減にして!!」
「「「っ!?」」」
「喧嘩をなさりたいなら、帰ってからにして」
「「「っ、」」」


ハーサン公爵夫人が、ブチギレていた。それは、ハーサン公爵も同じだったが、ヴィリディアンは呆れた顔をしているだけだった。


「今後は、ヴィリディアンに一切関わらないでくれ」
「そ、そんな、幼なじみなんですよ?」
「だから? 幼なじみをどう思っているかは知らないが、ヴィリディアンは我が家の娘になったんだ。あなた方のようなのと付き合いがあると思われては困るんだ」
「そんな、ヴィリディアンちゃん。クオーラは、反省しているのよ。大事なお友達がいなくなったら、困るわよね?」
「大事な友達なら、他にたくさんいます。クオーラのことを友達と思ったことは、これまでの人生で一度もありませんから、いなくなっても問題ないです」


笑顔で言い切ってやったら、クオーラが凄い顔をしていたが怒鳴りつけて来ることはなかった。

そこまでになるとクオーラを庇えば庇うほど、まずいことになると思ったようで、クオーラを勘当すると言い出して厄介なのを追い出すから、付き合いをしてほしいと訴えていたが、そんなのと付き合うことはなかった。


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