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「ヘルムフリート様。あなたは、私のことを本物の聖女だと信じてくださいますか?」
「様は、無用です。それと申し訳ありません。何か失礼なことをしたでしょうか?」


ヴィルヘルミーネの言葉に彼は、慌てていた。昔と変わらない澄んだ瞳で、何をしてしまったんだと焦りながらも、その瞳は澄みきっていた。更にはイケメンに成長を遂げた頼もしさもあいまって、ヘルムフリートに見つめられたヴィルヘルミーネはたじろぎそうになるのを堪えながら、表情を変えることなく続けた。


「神官が、王命により聖女を避難させるためにあなた方を遣わしたと聞いたのです。民より先に避難などするなんて、私には耐えられません」
「ヴィルヘルミーネ様! そんなこと、わざわざ確認なさらずとも……」
「そんなことでしたか」
「っ、」


神官が、何を慌てるのかと思ったが、王都から来た神殿騎士たちは、ヘルムフリートだけでなくて、みんなが緊張した顔をしていた。

その間にヴィルヘルミーネは……。


(この方までもが変わってしまったのなら、私の見る目が初恋から進歩してなかっただけになる。ただ、それだけのことよ)


ヴィルヘルミーネは、静かに問の答えを待った。

元婚約者のことでは、散々な結果になった。初恋の人を目の前にして、動揺する心をしずめながら、聖女としてやるべきことを真っ当しようとしていた。

本物だと認められずとも、聖女の務めを全うしたい。ただ、それだけだった。

それこそ、神官の言葉など、どうでもよかった。ヴィルヘルミーネは、ヘルムフリートを、そして他の神殿騎士たちを見下して、答えを待った。それこそ、初恋の人が変わらないままなことを期待せずにはいられなかったが、神殿騎士として、聖女をどう思っているかを聞きたかった。


「確かに王命では、聖女様を安全な場所にお連れしろと言われてはおりますが、我々は皆、あなたのことを本物の聖女だと思っております。民より先に聖女様を避難をさせるなど、侮辱もいいところ。そのことについては、神官長が王都で陛下に物申しております」
「え……?」
「なっ。そんな、じゃあ、避難は?」


神官は、聖女を避難するのと一緒に自分も避難する気でいたようだ。

そんな神官を尻目にヘルムフリートは……。


「聖女に避難を促すために我々は来てはおりません。聖女の務めの邪魔にならないように心置きなく祈っていただけるようにと思い、急ぎ参った次第」
「っ、」


(良かった。この方は、あの頃と全く変わっていないんだわ。他の騎士の方々も、同じようで安心した)


ヘルムフリートの言葉に他の神殿騎士たちも、その通りだと強く頷いているのを見てヴィルヘルミーネは内心で、ホッとしていた。


「王命に怒りは覚えましたが、我々が急ぎ聖女様の元に馳せ参じたのは避難を促すためでは決してありません。聖女様を侮辱するようなことを我々は決してしません。」


ヴィルヘルミーネにヘルムフリートは、そう告げた。神殿騎士たちも、聖女が侮辱されたことに怒りが込み上げていたようで、それを思い出して腸が煮えくり返るとばかりな顔をしていた。

それを知ってヴィルヘルミーネは、表情を緩めることはなかった。努めて冷静に言葉を紡いだ。


「ならば、私の望みを伝えます。私は、聖女として、何より誓いを立てたことを務めだと思って全うします。ここで、祈りを捧げ続けます。王命には従いません」
「ヴィルヘルミーネ様! ですから」
「黙れ!」
「っ、」


神官は、何を馬鹿なことを言うんだとばかりにヴィルヘルミーネに何か言おうとしたが、それを黙らせたのはヘルムフリートだった。

それに神官は、ビクッとしていた。あからさまに怯えた姿になったのだ。


「聞いたな? 聖女様の望みを。この方こそ、我らがお仕えし、守るべき御方だ。陛下と神官長に戻ってお伝えしろ。私は、残る」
「でしたら、我々も残ります」
「誰も戻りたがるわけがありません。神殿騎士として、聖女様にお仕えしてこそです。まぁ、聖女様が命じられるなら、断腸の思いで従いますが……」


神殿騎士は、誰もが残ると言って、伝言を伝える役をやりたがる神殿騎士は、その中にはいなかった。


(これは、ありがたいけど。伝えてもらえないと困ることよね。どうしたものかしら)


ヴィルヘルミーネが、そんなことを思っていると神官が騒ぎ始めたのは、すぐだった。


「な、何を考えてるんだ! こんなとこにいたって死ぬだけなんだぞ!! 聖女が、残ったら神官だって残らなきゃならないじゃないか!」


神官の言葉にそれが本音だったみたいだとヴィルヘルミーネは呆れながら、その神官を残念そうに見た。


「なら、あなたが王都に行って、私の意志を伝えてください」
「っ、!?」
「やってくれますか?」
「も、もちろんです! おまかせください!!」


そう言うなり、その神官は嬉々として、すぐに出発すると言って駆け出していった。

それをヴィルヘルミーネだけでなくて、神殿騎士も、街の人たちも呆れて見ていた。


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