不思議なものを買い取る店で、私が一番の不思議な存在だったようです。あやかしのご飯担当となったのにその不思議を見逃してばかりいます

珠宮さくら

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【不思議なもの買い取ります】


この年の春に高校生となった野々花は、胡散臭いとしか言いようがない怪しげなチラシを片手に書かれた住所の近くまで来ていた。いや、来ているはずだった。


「お嬢ちゃん、1人? お母さんか、お父さんは一緒じゃないの?」
「……あの、私、こう見えて高校生なんです」
「あら、そうなの。ごめんなさいね。孫くらいだと思っていたわ」
「……」


小学生の低学年くらいなようだ。孫は、誰に似たのか身長がある子なのだとか。聞いてもいないのにそのおばあさんはべらべらと孫自慢をして、そしていなくなった。

残された野々花は、どうせならどこに行きたいのかと聞いてくれたら、道を聞きやすかったのにと思わずにはいられなかった。

まさか、怒涛の孫自慢をされるとは思うまい。

そこは、野々花が住んでるところから、そこそこの距離があった。普段の野々花なら寄ろうとは思わないところだった。お金を節約するのに歩いて来たのがまずかったのかも知れない。

迷い込んだら出て来られないような錯覚すら起こっている。出入り口が変わる迷路のようだ。そんなものがあるわけないが。きっと疲れているのだろうと野々花は頭を振った。


「この辺りのはずだけど」


この辺りには、野々花は来たことが一度もない。確かにないのだが、こんなに迷ったことはこれまでの人生でもない。

そもそも、道に迷うなんてことを野々花はしたことがなかった。初めてのところなら仕方がないと言う人もいるだろうが、野々花はそれに納得できなかった。

近くまでは来れているはずなのだが、何かに阻まれでもしているかのように一向にたどり着けず、かれこれ2時間近くも迷っている。

こんなにもたどり着けないのだ。迷ったことすらない野々花は、無理だと思ったらやらないに越したことはないから、あっさりやめて別の日にトライするとすんなりといくのだ。

だから、1時間もせずに最初から無理だとわかっているところに行くのは、そこから既に諦めている。2時間近くなんて粘ったことは一度もない。

別に野々花は方向音痴なわけではない。そこは断じて違う。時折、行きたいところにたどり着けそうもなくて、最初から別日に変えるから、迷うことがない。ちょっとおかしなことかもしれないが、野々花にとって、それは当たり前だったりする。

それは、野々花だけではない。両親も、そういう人だった。


“野々花ちゃん、今日は駄目な日みたいね”
“まぁ、そんな日もあるさ”
“なら、別の日ね”
“そうだな”
“それが、一番いいわね”


「っ!?」


不意に懐かしい両親の声がした気がして、野々花は泣きそうになってしまった。それは、聞こえるはずのない声だった。思い出の中にしか両親はいない。

そんなことを両親は、昔野々花によく言っていた。駄目な日。だから、諦めなければならない。そういう日だから。それを繰り返すうち、すっかり野々花の中で当たり前になっていた。

そこに普通じゃないなんて欠片も思っていなかった。

泣きそうになりながら、その言葉を反芻した野々花は……。


「……でも、駄目な日にはできない。このままでは、帰れない。今日は、そんな日にできない」


今にも泣きそうになりながら、野々花には背に代えられない事情があって、そう呟いていた。

両親は既に亡くなっている。今野々花は祖父母と暮らしているのだが、祖母は身体が丈夫ではない。祖父は、若夫婦の分も孫を幸せにせねばと張りきって現役バリバリで働いていたのだが、この間、ぎっくり腰になってしまったのだ。張りきりすぎたのだと医者は言っていた。もう若くないんだからと言って、祖父は怒っていたが、その迫力はいつもの比ではなかった。

痛み止めの注射のせいで、野々花の両親が早く亡くなったことを色々言って泣いていた。祖父が泣くところなんて、野々花は見たことがなかった。

その前にこの家の電化製品が尽く壊れたのだ。びっくりするから次々に壊れてしまい、そちらを買い替えるのに貯金を使ってしまったのだ。

また貯めればいいと。でも、それが良くなかったとは思いたくなかった。


「野々花。大丈夫だよ」
「おばあちゃん」
「じいちゃんの生き甲斐も、私の生き甲斐も、お前なんだ。私ができそうなこと見つけて働くから、何の心配もいらないよ。お前は勉強を頑張ればいい」
「駄目だよ。おばあちゃんまで、倒れちゃう」
「だけど、野々花。学校はバイト禁止だもの。禁止されていることをしたら駄目よ」
「私が、何とかする」
「野々花」
「禁止なことはしない。そうじゃないことをやる。やってみて駄目なら、他のことを考える。おばあちゃんは、おじいちゃんの側にいて」
「そう。お前は、本当にいい子だね。じいちゃんは、ちゃんと見てるからね」


そんなことを祖母に言ったはいいが、野々花の通う学園の普通科の生徒は、なぜかバイトが禁止なところだった。

特殊科の生徒は、好きな時間にバイトができるらしいが、そこに入るには才能を認められないと駄目らしい。

そこに知り合いが1人もいないため、才能がどんなものなのかがそもそも、野々花にはよくわからない。

でも、野々花に悲しいかな、人より優れた才能なんてものはない。入りたくても難しいだろうことはわかる。実に声にして言ったら虚しくなるやつだ。考えただけでも、情けない。

編入は、才能さえあれば、すぐにでもそちらに通えるらしいことまでは知っている。生徒手帳に書かれていた。

入学して、それを見るなり、野々花には縁のなさそうなところでしかなかった。でも、特殊科の制服は、普通科の比ではないくらい素敵で数回見たことがあるが、本当に男子生徒は格好良くて、女子生徒は可愛らしく見えた。

野々花がそれを着ても、可愛らしく見えるかは謎だ。むしろ、残念に見えるかもしれない。なにせ、高校生には見えないのだ。

今年、中学生になるのかと知らない人には思われるような幼さが、野々花にはある。その下にもよく間違われるが、中学生に間違われる方を強くお伝えしておく。

成長しているのに戻るなんてことはないはずなのだ。若返るにしろ。高校生だから、戻っても嬉しくない。贅沢なことかも知れないが、大人になりたい。切実に。

そのため、このチラシのところに賭けるしかなかった。売れそうなものを買い取ってもらわなければ、生活に困ってしまうのだ。

野々花は学園を辞めてでも仕事を見つけたいところだが、そんなことをしたら祖父母がもっと悲しんでしまう。何より、中学生と思われるような容姿をしている。さらにその下に見えるのも増えている野々花を雇ってくれるところがあるかも怪しい。怪しいというか、あったらあったでお給料が無駄に良くて怪しいものしかない気がする。

そんな時に見つけた怪しさ満点のチラシのところに行こうと野々花は必死になっていた。もう藁にも縋る思いだった。

だから、両親がかつてよく言っていたことが不意に聞こえた気がして泣きそうになっても、帰るわけには行かずに真逆のことを言って頑張っていた。

そもそも、たどり着けても売れるかもわからないのだが、でも野々花には、これしか売れるものがなかった。

両親の買ってくれたものも、祖父母が買ってくれたものを売りたいとは思わなかった。お小遣いで買ったものも、たかが知れている。

だから、不思議なものならばと思って持って来たのだが……。


「不思議なものにこれがはいるのかな?」


チラシを片手にもう一方には、野々花が疑問を持ち始めた不思議なものを持っていた。野々花には、摩訶不思議なものに見えるが、そんなものに値段がつくものかもわからない。

それ以前に自分が迷子になっている気がし始めた。それでも、帰れない。野々花は、道というか。人生そのものにすっかり迷っているかのようになっていて、途方に暮れようとしていた。何なら思う存分、泣きたくなってきていた。

そんな時だった。


「おや? お客様でしたか?」
「え?」


とても良い声だった。その声のする方を野々花が見るとそこには色白の和装の髪の黒い美男子が立っていた。声のみならず、全てが整っている人間とは思えないほど、美しい男性がいた。


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