存在感と取り柄のない私のことを必要ないと思っている人は、母だけではないはずです。でも、兄たちに大事にされているのに気づきませんでした

珠宮さくら

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(ジュリエッタ視点)


妹のルクレツィアが具合を悪くしているのにあんな形で、王太子を取られた私は、逃げるようにあの国から出たくなってしまった。だから、留学をするために隣国に来てしまった。なんと薄情な姉だろうか。

だが、ルクレツィアは幼なじみであるあの女、マルティナと仲良くしていた。だから、マルティナが王太子と婚約したと聞いて嬉しそうにしているのを見て、複雑なものがこみ上げて言ってやりたくなった。

その女は、あなたが思っているような要領の良い女ではないと。

付き合いなんてさっさとやめてしまわないとあなたまで大事な物を取られかねないと。

どうにも、妹は優しすぎて、散々な目にあっているのに要領が良いと思い込もうとしている気がしてならなかった。

そんなのに騙されるなと力説してやりたいが、そんな八つ当たりのようなことをしたくなくて、必死に隠すためにも、会わないままがいいと思った。姉として、ルクレツィアには頼れる姉でいたかったのは、見栄でしかない、

だけど、こちらに来てルクレツィアの具合がどうなったかが心配でならなかった。

それこそ、具合が良くなるまで言わないでと兄に頼んで来た。それに良くなったら知らせてと頼んでも連絡が一向にこないのだ。

まだ、良くなっていないともなれば、心配でたまらなくもなる。

ルクレツィアは、存在感を隠すのが上手な子だ。そうして、他の兄弟が目立つようにしているのだろう。何の取り柄もないと言うが、そんなことはない。

手料理が凄く上手いのだ。あれを振る舞われたら、殿方は胃袋を掴まれるに違いない。現に父の所属している騎士団から、若い騎士がルクレツィアと話す口実に変なことを聞きに来ていた。

存在感をいかに上手に消すか。

馬鹿みたいなことをルクレツィアに聞きに来ていた。あれは、お父様が悪いのだ。娘の手料理ほど、美味しいものはないと自慢しているのをルクレツィアに知られたら、作ってもらえなくなると思って、そんなことで誤魔化したのだから。

……まぁ、私も人のことは言えないのだけど。

その日何度目になるかわからないため息をついていた。


「ため息ばかりだな」
「え?」


そこには、見かけたことのない男性がいた。いや、留学して来たばかりで、ぼんやりとばかりしていたから、誰だったかを教えてもらったのかもしれないが、全く覚えていない。


「何か、心配事でもあるのか?」
「えっと」
「あぁ、すまない。留学してから、憂いを帯びた顔ばかりしているから気になっていたんだ」


気分がこちらまで滅入ると言われることはなかった。ただ、そんな風にため息ばかりの私のことを心配してくれていたようだ。

それは、王太子であるオルランド様もよく私を見ていてくれる人で、心配そうにして後からあれこれよく聞かれていた。

でも、最近は気分が滅入るからやめてくれと言われるようになっていて、あの言葉にどれだけ傷ついたか。

もう、そんな風に思われるまでになっていたのだと割り切ればよかったのだろうが、そうもいかなかった。

恋に恋していたのだ。決して叶わない恋だから、熱を上げていたのだ。

そんな時にオルランド様は、私よりあちらが運命の人だと思ったのだろう。


「大丈夫か?」
「はい。すみません。こちらに来る前にすぐ下の妹が具合を悪くしていたんです。でも、私、留学するのも告げずに突然、こちらに来てしまっていて、具合が良くなったら知らせてくれることになっているのですが……」
「知らせが来ないのか?」
「そうなんです」


あの王太子は、そこまでの話をよく聞いてくれていた。そう、聞くだけだった。


「それは、心配だな。なら、先に君が妹さんにお見舞いのカードでも送ってみたら、どうだ?」
「え……?」


でも、目の前の彼のようにどう行動したら良いかの話をしてはくれたことはなかった。

だから、ずるずると付き合うだけになってしまっていたのだが。

本物の恋を知っていたら、あんなのに引っ掛かりはしなかったのだ。それに私は気づくのが遅れただけのようだ。


「すれ違いになるかも知れないが、居ても立っても居られないのだろ? それも書いて送れば、少しは気が晴れるのではないか?」
「……」
「ため息ばかりついているより、良いのではないか?」
「そう、ですね」


そんな彼が、留学している国の王太子だったことを知ったのは、それからだいぶ経ってからだった。

でも、ルクレツィアに見舞いのカードを送ったのは、よかった。私のことを兄から聞いて、更に熱を出して家族ですら面会禁止となってしまったのだ。

本当にどこまでも優しい子だ。

私のしたことを許してくれて、私のことを心配してくれていた。具合が中々良くならなかったというのに。


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