妹が一番まともだと思っていることも、王太子と兄が何を考えているかも知らないまま、友達の機転で私は同性に血祭りに上げられずに済みました

珠宮さくら

文字の大きさ
2 / 12

しおりを挟む

(もう、何なのよ!!)


テレーズは、妹の婚約者であるシクストにつきまとわれていて、ぐったりしていた。

ただですら、モニークが煮詰まっているだけでなくて、ヒロインをやりたいと騒ぐ令嬢たちにどんなお話になるのかと聞かせてほしいと詰め寄られていて、テレーズはまだできてもいないと言っても、テレーズが台詞に付き合っているのが、どこかから漏れたようで、その台詞を言ってくれと言われて逃げ惑っていた。


(あんな台詞を言い続けるなんて、絶対に無理!!)


それこそ、1人にしたら、つきまとう令嬢たちみんなに同じことをしなくてはならなくなる。エリーズの時で学習済みだ。一度やったら、付き合い続けなくてはならなくなる。

そんなのにずっと付き合い続けるなんてできるわけがない。今でも、限界なのだ。学祭が終わるまでなんて、やっていられない。

脚本を書いているモニークは煮詰まっているというか。スランプに陥ってしまっているようだ。近寄ったら噛みつきそうになっていた。目は血走っているから、恐ろしくて彼女に話しかけられないのだろう。

モニークは、機嫌が悪い時は手に負えないのだ。それさえなければ、とても情報通なのだが、暴走すると手に負えなくなるところは、昔からだ。

そのしわ寄せが全てテレーズに来ていた。巷で流行っているお芝居に全く興味のないテレーズは、学祭の演劇にだって興味はないのだ。

ましてや相手役が王太子になりそうだと聞いても何とも思うことはなかった。

もう、学祭のキャストが決まるまで家で引きこもっていようかとテレーズは考え始めていた。


「大変そうだな」
「っ、殿下」


不意に声をかけらて、そこに現れたのは、リエル国の王太子だった。何とも楽しそうに言うのにテレーズはイラッとしたが、相手は王太子だ。下手なことは言えない。


(他人事だと思って)


これが、自分のことだったら、この涼やかな顔をいつもしている王太子でも、余裕のない顔をするのだろうか。

そんなよそごとを考えながら、テレーズは疲れていようともカーテシーをした。だが、思いのほか疲れている身体を支えきれずに蹌踉めいてしまっていた。


(しまった!?)


そう思った時には、テレーズは倒れると思っていたのだが、そんなテレーズのことを王太子は難なく支えてくれた。だからこそ、倒れなくて済んだ。

細めに見えるが、きちんと訓練を怠らない体型をしていることが、それだけでテレーズにはわかってしまった。

とんでもない失敗をしたというのにそんなことをテレーズは頭で考えてしまう余裕があった。ここで、儚く気を失うなんてできる令嬢ではなかったし、顔を赤らめるなんてこともできないのが、テレーズだった。


「っと、大丈夫か?」
「すみません」


王太子も面白がっていたが、テレーズの顔色の悪さを至近距離で見たからか、からかうのをやめたようだ。

すぐに身体を王太子から離して立とうとしても、頭がくらくらしてテレーズは上手く立てなかった。それが、わざとではないとわかったらしく、王太子は支えを失ったら倒れそうなテレーズのことを片手で軽々と支えていた。

それこそ、下手なところを触らない様に気遣っているのもわかった。


(下手なところを触られたら、筋肉がない身体なのが丸わかりでしょうね。早く立たなきゃ)


だが、それがわかったのか。王太子は、がっちりと腰を支えて来て、それにテレーズは身体をこわばらせた。


「いや、今のは私が悪い。何より顔色が悪すぎる。医務室に行って休んだ方がいい」
「そ、そうします。あの、離していただけますか?」
「離したら、今度こそ、床に倒れているぞ。暴れるなよ」
「っ!?」


ひょいっとテレーズは横抱きにされることになったテレーズは、暴れるどころか。それに固まった。


「殿下」
「ほっとけないだろ。お前たちは、先に行っていろ」
「わかりました。テレーズ嬢、お大事に」
「~~っ、」


王太子の側近が、側にいたようだ。それだけでも、テレーズの顔が赤くなった。


(見られた!?)


それこそ、側近に言えば、彼らがやっただろうに王太子は軽々とテレーズを姫抱きして医務室まで移動した。

幸いにも、誰にも会わなかった。いや、側近たちにはバッチリ見られたが、他には見られなかったはずだ。見られていたら騒ぎになっていただろう。


「貧血と過労とあと寝不足のようですね」


医務室まで運ぶなり、王太子は用があるからといなくなった。

テレーズは診察されて、そんなことを言われて当てはまることばかりだなと思わずにはいられなかった。


「とりあえず、このまま休んで行くといいわ」


ベッドに横になって眠った方がいいと言われて、授業に出たいなんて言えるはずもなく、大人しく眠ることにした。

よほど疲れていたのが、目が覚めたら、2時間すぎていて、ベッドの横には兄がいた。


「お兄様……?」
「テレーズ。よかった。目が覚めたか」


心配そうに兄のガスパール・ヴィルフランシュは椅子に座りながら本を読んでいた。それすら様になる。


「殿下に聞いた。今日は、一緒に帰ろう。それとお前の友人にも話してあるが、学祭の演劇は王太子は出ないことになりそうだ」
「え?」


テレーズは、眠ってすっきりしたが、ガスパールの言葉にきょとんとしていた。まだ脚本はできていないのにどうしてだろうと思って兄を見た。


「脚本をあれだけ悩んでいるだろ? それを見ていた殿下が、演劇の稽古に時間を取るのが難しいからと辞退したんだ。相手役が本番ぶっつけにしか現れないことになったら、申し訳ないと言ってな」
「……そう言えば、最近は授業にもあまり出ておられないようですしね」


そんな忙しい中で、たまたま会って運ばせてしまったのかと思うとテレーズは落ち込む。


「テレーズ? 具合が悪いのか?」
「いえ、モニークが落ち込んでいそうだなと思って」
「いや、煮詰まっていて王太子に言ってほしい台詞がまとまりきらなかったから、他の子息がやってくれるとなった途端、いいアイディアが浮かんだようだぞ」
「……」


ガスパールの言葉にモニークのスランプが終わったことが目に浮かぶようだった。


(そっか。王太子は、演劇に出ないのね)


それならば、他の令嬢たちに質問攻めにもあわなくなるし、モニークにも付き合うこともなくなる。

ふと、そんなことになったのはテレーズが具合を悪くさせたせいなのだろうかと頭をよぎったが、そんなわけがないと忘れることにした。


「テレーズ。歩けそうか?」
「歩けます」
「わかった。なら、帰ろう」


兄としては、可愛い妹を抱きかかえて移動するなんて造作もなかったが、少し休んだからか。倒れたとは思えない足取りで歩き出す妹にため息をついていることにテレーズが気づくことはなかった。

何気に王太子に対抗心を抱いていることにも気づいていなかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

何もしない公爵夫人ですが、なぜか屋敷がうまく回っています

鷹 綾
恋愛
辺境公爵カーネル・クリスの妻となったフィレ・バーナード。 けれど彼女は、屋敷を仕切ることも、改革を行うことも、声高に意見を述べることもしなかった。 指示を出さない。 判断を奪わない。 必要以上に関わらない。 「何もしない夫人」として、ただ静かにそこにいるだけ。 それなのに―― いつの間にか屋敷は落ち着き、 使用人たちは迷わなくなり、 人は出入りし、戻り、また進んでいくようになる。 誰かに依存しない。 誰かを支配しない。 それでも確かに“安心できる場所”は、彼女の周りに残っていた。 必要とされなくてもいい。 役に立たなくてもいい。 それでも、ここにいていい。 これは、 「何もしない」ことで壊れなかった関係と、 「奪わない」ことで続いていった日常を描く、 静かでやさしい結婚生活の物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています

由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、 悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。 王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。 だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、 冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。 再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。 広場で語られる真実。 そして、無自覚に人を惹きつけてしまう リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。 これは、 悪役令嬢として断罪された少女が、 「誰かの物語の脇役」ではなく、 自分自身の人生を取り戻す物語。 過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、 彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

悪役令嬢に転生したので断罪イベントで全てを終わらせます。

吉樹
恋愛
悪役令嬢に転生してしまった主人公のお話。 目玉である断罪イベントで決着をつけるため、短編となります。 『上・下』の短編集。 なんとなく「ざまぁ」展開が書きたくなったので衝動的に描いた作品なので、不備やご都合主義は大目に見てください<(_ _)>

悪役令嬢の判定厳しすぎません?婚約破棄を回避したい!

ちゅんりー
恋愛
公爵令嬢ミディア・ベルンシュタインは、極度の近眼と生まれつきの鋭い目つきのせいで、恐れられる悪役令嬢(誤解)。 「このままでは第一王子フレデリック殿下に婚約破棄される!」と焦った彼女は、好感度アップ作戦を開始する。

処理中です...