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しおりを挟む自棄を起こしたと思われた王太子は、どうやらこんなことを思ったようだ。
アルムデラのような令嬢を選んで、戻って来たカルメンシータに見せつけて嫉妬してほしい。普通は、カルメンシータが嫉妬するような相手を選ぶところだが、バウティスタは恋愛初心者すぎてそこに気が回らなかったようだ。
とりあえず、婚約者がいれば、嫉妬してもらえる。自分のように。そんなような思考を持ったようだが、大前提を間違えている。あちらは、王太子のことを毛嫌いしている。嫉妬なんてするはずがないと思わないところが、既におかしなことになっている。王太子は、そこに行き着かないところを見ると嫌われているとは、微塵も思っていないようだ。
エステファンアですら、こんなことを思った。
(……ずいぶんと子供じみたことをなさるのね。そんなことのために婚約するなんて、ありえない。前まで、パトリシオの上をいく方と言われていたのに。そういうことは、不得手ということなのかな……恋は盲目って、こういうことを言うの?)
それこそ、これが本性なのだと思うとカルメンシータが兄を凌ぐハイスペックだとしても、選ぼうとしないのもわかる。何なら兄よりこんな人が上のことに彼女が怒っていた気すらし始めていた。
怒っていたというか。存在自体を認めていなかったというか。視界にすら入れたくなかったというか。そもそも、話すら毒舌が凄かったのだから、その辺に滲み出ていたのは間違いない。
王太子にそんなことをするのも、彼女くらいしかいなかったが……。
(私が、婚約した時には、あぁだったのよね。いつから、あぁだったのかな?)
いつからなのかが、ずっとそうだったのなら、王太子もエステファンア以上の大物だ。……いや、これを大物というのか? 小物というのか?
エステファンアは、段々とわけがわからなくなって頭が痛くなって来た。
(駄目だ。私の頭がこんがらがる。頭のいい人の思考なんて、わかるわけがない)
いや、エステファンアでなくともわからない。だが、エステファンアは自分の頭の限界だと深く考えるのをやめた。
王太子が婚約したタイミングも、カルメンシータの留学が終わる頃合いだった。そこにも意味があったようだが、変な方向の意味合いで正しく王太子の心情を理解できるものというか。共感できる者は、ほとんどいなかった。
だが、カルメンシータがギリギリになって留学の延長をしたことで、ヴィティカ国に戻っては来なかったのだ。
それを知ったのは、手紙でだった。そろそろ帰って来ると思っていたので、さくっと延長することにした。心配無用。そんなようなものだった。
それは、パトリシオのみならず、エステファンアにも簡潔な手紙が来ていた。それの方が、珍しいことではあったが、エステファンアは気にしていなかった。
「カルメンシータにしては、珍しいな」
「何がですか?」
パトリシオが、ポツリと言ったことに何が珍しいのかと首を傾げながら、エステファンアは婚約者を見つめた。
こてんと音がしそうなほど、心底不思議そうにパトリシオのことを見上げるようにエステファンアは見たのだ。自然と上目遣いとなっていた。
「……」
「パトリシオ様?」
「え、あ、えっと、」
何故かパトリシオは、顔を赤らめてあたふたしながら、説明してくれた。
あたふたする意味も、顔を赤らめる理由も、エステファンアはわからないままだったが、パトリシオには何かあったのだろう。
(最近、こんなことが増えたな。どうしたんだろ??)
エステファンアは、その意味がわかっていなかった。だからといって気にしてはいない。
「カルメンシータのことだ。帰って来るものと思っていたんだ」
「確かに手紙にも、延長するとはありませんでしたよね」
エステファンアは、ふと思い返して……。
(中々忙しそうにしていた気がする。あれは、帰って来る前に片付けることでもあると思っていたけど。……片づけられなかったのかな?)
エステファンアは、カルメンシータでも上手くいかないことがあったのかと思ったが、そんなわけないかと考えるのをやめた。カルメンシータが、あちらで兄たちのようにブラコン気味とはいえ、呆けて過ごすなんて想像できなかった。
「私のところにも、そうあった。滅多に来ない手紙だったが……」
「……」
パトリシオの言葉にエステファンアは、苦笑しただけだった。
カルメンシータは、エステファンアに送ってくる手紙の1/4ほどしかパトリシオには出していなかったのだ。
両親のところにも、頻繁に手紙はなかったようだ。そのため、最初の頃は……。
(忙しいはずだから、減らすべきよね)
そう思っていたら、あちらから返信が遅いことで、エステファンアが具合を悪くしているのではないかと心配するのが来て、そっちの方が大変だった。
それにパトリシオの両親は、エステファンアにカルメンシータのことを何かと聞きたがっていた。それに息子の腑抜けっぷりも気にしていたようだ。
だが、エステファンアは頻繁にカステイリョン公爵家にお邪魔することは遠慮した。我が家のお菓子だけで満足していたからだ。
それにこれ以上は、どう頑張っていいかがわからなかったため、カステイリョン公爵家には滅多に行かなかった。
そのせいで、パトリシオは妹のことでぼんやりしている間にカステイリョン公爵家にエステファンアがめっきり立ち寄らなくなったと聞いて顔色を悪くさせた。
両親に色々言われ、前のようにカステイリョン公爵家に呼ぶも、カルメンシータの手紙に返事を書きたいからと断られることも増えて、パトリシオは生まれて初めて妹に嫉妬したが、それもエステファンアは知らなかった。
まぁ、色々あったが、エステファンアですら、カルメンシータが帰って来るものと思っていたのだ。
だが、そうはならなかったのだ。
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