世の令嬢が羨む公爵子息に一目惚れされて婚約したのですが、私の一番は中々変わりありません

珠宮さくら

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カルメンシータは、留学を終えて帰って来るものとエステファンアとパトリシオは本当にそう思っていた。

だが、公爵家では急に思い立つ娘に慣れているとはいえ、手続きもあったはずだ。エステファンアたちより、前から知っていた気がしなくもないが、延長する気だとは、パトリシオたちの両親は言ってはいなかった。

まぁ、娘の気の済むままにさせるようなことは言っていた気がするが……。


(あれ? もしかして、公爵夫妻は知っていた??)


エステファンアは、そんなことを思ったが、まぁカルメンシータがしたいことをやれているならいいかとそのことをパトリシオに言うことはなかった。

それこそ、カルメンシータが留学してからパトリシオも、そういうことに勘付くのがかなり鈍くなっている気がする。早く帰ってほしくて見ないようにしているだけかも知れないが。

すると彼は、こんなことを言い出した。


「帰って来るものと思って、バウティスタ殿下にも話したんだが」
「……バウティスタ殿下にお話になられたのですか?」
「ん? あぁ、聞かれたからな。……それも、しつこく」
「……」


しつこく聞かれたと言うだけあって、思い出したのか。疲れた顔を見せた。

段々と王太子のやることなすことについていけていないように見えた。


(前までは、こんな顔していなかったと思うけど。よほどなのね。……私まで、しつこくされなくてよかった)


エステファンアは、パトリシオが犠牲になっていただけで済んでいたことにそんなことを思っていた。


「殿下も、カルメンシータのことを妹のように大事にしてくれているからな。だが、妹は兄は1人で十分だと殿下のところには迷惑になるから手紙1つやらないようだ。仕方がないさ」
「それこそ、婚約なさっているのに身内以外の異性に手紙は出せないと思いますけど?」


迷惑になるから出さないと言うのにエステファンアは……。


(面倒なことにしかならないのにやるわけないと思うけど。そもそも、あんな感じで仲良くなんてなかったのだし)


婚約しているのなら、まだしも。バウティスタに手紙なんて出していたら、もっと面倒になるだけだ。そんなことをカルメンシータがわざわざするとは思えない。


(そもそも、そこに王太子を数のうちにいれるなんてことはカルメンシータ様には初めからないと思うけど。王太子は、手紙があると思っていたなんてこと、ないわよね? そこまでなはずはない。……ないと思いたい。まぁ、それにイライラして、パトリシオ様にしつこくしていたとなったら、わかるような、わからないような……?)


エステファンアは、段々と王太子が残念な人にしか見えなくなり始めていた。しつこくされたのは、パトリシオなのに王太子のことを考えるだけで疲れていたからだ。


「確かに。そうだな。バウティスタ殿下も婚約したのだから、なおさら気にしなくてはならないしな」
「……」


エステファンアは、ふとカルメンシータがバウティスタに筒抜けになっているとわかっているから戻って来なかった気がした。


(もしかして、あの塩対応というか。毒舌も好かれているのを知っての行動だった……?)


カルメンシータはわざと王太子に嫌われようとして、変なプライドのあった王太子が拗らせた気がしてきた。

いや、わざとも何も、嫌われようとしたのではなく、ただ単に嫌いだと全身で表していただけなのが一番しっくりくるが、王太子はそれに全く気づくことなく、わざと嫌われようとしている風に見えたのではないか。……だいぶ、無理があるが。


「パトリシオ!」
「バウティスタ殿下? どうかされましたか?」


そこに怒り心頭になった王太子が現れた。その形相は、執務室でしか見せていなかった余裕のかけらもない苛立った顔をしていた。


「お前、嘘をついたのか!?」
「?」
「お前は、妹が留学から戻ると言ったはずだ!」


バウティスタの言葉にあぁ、そのことかとパトリシオは納得した顔をしつつ、妹関連かとわかってげんなりしているようにも見えた。

エステファンアは事の成り行きを見守っているが、周りを見なくなっているため、エステファンアだけでなくて、そこに居合わせた者もカーテシーをしても、しなくとも気づかないほどの王太子に何とも言えない顔をしていた。


「そうですね。妹からの手紙には延長するとはなかったので」
「っ、本当になかったのか?!」
「? えぇ、エステファンアのところにも、延長するとはなかったようです」


エステファンアは、そこでようやく王太子に睨みつけられるように見られて、そんな目もするのかと思いながら、自分のところにも留学の延長を希望している内容はなかったと話した。

それでも、王太子は納得いかないようで、イライラしていた。そこには、この国に一番のハイスペックだと言われていた王太子は、いなくなっていた。

そこにいるのは、幼い駄々っ子にしか見えない。


(なんか、容姿も、何もかもが完璧な方だと周りにあれだけ思われていたようだけど、手に入らないものができるとこうなる人みたいね。……執念深いというか。諦めが悪いというか)


それに比べたら失礼だが、パトリシオはカルメンシータが留学を延長するほど、満喫しているのだと思っているようだ。妹に会えない日々にもすっかり慣れて落ち着いていた。

前のようにエステファンアを見つけると嬉しそうにしているが、王太子とは前ほど一緒にいないようだ。

こんな感じのせいで、他の側近たちも王太子に愛想を尽かしてきているようだ。

だが、それに気づく余裕すら、今の王太子にはないようだ。

そこにいる者たちの殆どが、バウティスタのことを残念そうに見たり、白けた目で見たりしていた。


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