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しおりを挟むパトリシオが言い淀んだことをエステファンアが知ったのは、アルムデラから言われたからだった。
「あら、ちんちくりん女じゃない」
「……は?」
思わず、そんなこんなに声をかけられて素で返してしまった。
それは、久々に聞いた言葉だった。今や学園で、そんなことを言っている者がいても、エステファンアが耳にすることはなかった。
「あら、そう言われているのをあなた、まさか知らないの?」
「……」
そんなことを言われて、エステファンアはイラッとした。一番言われたくないことだ。
(知っていますとも。でも、それで呼ばれたことはなかった。そんな風にわざわざ呼ぶなんて、シンジラレナイ)
そう言ってやりたかったがしなかった。エステファンアは、珍しく笑っていても、目は殺気立っていたはずだ。
そんな殺気に満ちていても、目の前の令嬢には伝わらなかったようだ。
「その顔は、知らない顔ね。あなたのこと、バウティスタ様も、そう呼んでいるのよ」
「え……?」
まさか、王太子までそんな風に呼んでいるとは思っていなかったため、驚いてしまった。
「だから、私も、そう呼んであげることにしたの」
「っ、」
バウティスタが、そんなことを言うとは思ってはいなかった。この目の前の無礼極まりない令嬢の言葉を鵜呑みにする気はなかった。
(そんな、あり得ない。あの方が、そこまでの方だなんてことは……。あるのかな?)
なんか、急にエステファンアはないと言い切れなくなってしまった。そこで、考えこんでしまっていたら、アルムデラは婚約者を見つけたようだ。
「あ、バウティスタ様!」
「……」
王太子は、アルムデラに名前を呼ばれて物凄く嫌そうにしていた。もう、そんな顔を隠すこともしなくなっていた。だが、流石に婚約者以外の令嬢を脇に置いてはいないようだ。
今は、新しい側近たちが、王太子の代わりに執務をこなしているようだ。その子息たちは、側近になれて喜んでいるようだ。
王太子が執務を全くしなくなっていても、王太子の側近という肩書きがほしかっただけのようだ。
「今、ちんちくりん女に話しているところなんですよ。バウティスタ様も、そう呼んでいるから、私もそう呼ぶと」
「バウティスタ殿下。あの……」
本当のはずがないとエステファンアは確かめようとしたのだが、王太子はそんなことかと大した興味もなさそうにしていた。
「そんなことか。言われ慣れてるだろ。今更、気にすることか?」
「っ、」
王太子は、さも今更なようにして、そんなことで呼び止めるなとばかりにしていた。
エステファンアは、腸がこれでもかと煮えたぎった。そんな経験、生まれて初めてのことだった。
(許せない。いくら、王太子であろうとも)
物申してやろうとしていたら、エステファンアより先に声がした。
「何を言っているのよ!!」
そこに久しぶりに聞く声が響いた。その声にまさかと思いながら振り返ると……。
「カルメンシータ様……?」
(どうして、ここに……?)
エステファンアは、なぜ居るのかと思っていたが、彼女はそれどころではなかった。
「私のお義姉様によくも、そんなことを言えるわね! 今すぐ謝罪して!」
怒り狂ったカルメンシータがいた。美少女が、更に美しくなって戻って来た。美少女から、美女へと変貌を遂げていた。そんな彼女が、激怒していた。
エステファンアを庇うように立ちはだかり、王太子とアルムデラを睨み据えていた。
(まずい。更に並ぶとちんちくりんにしか見えなくなった。なんてことなの)
エステファンアは、怒り狂っているカルメンシータを見て、アルムデラたちへの怒りよりも思わずそんなことを内心で思って頭を抱えたくなってしまっていた。
「は? バウティスタ様が言っていたのよ。それを真似ただけよ」
「ま、待て。それは、誤解だ。私は……」
「はぁ?! 何、それ、信じられない。最低もいいところだわ」
「っ、」
カルメンシータの言葉に王太子は、ショックを受けた顔をしていたが、エステファンアは何とも思うことはなかった。むしろ、自業自得でしかない。聞かれたくない相手が現れた途端、そんなこと言っていないが通用するわけがない。
そこに騒ぎを聞きつけて、パトリシオがやって来た。
「カルメンシータ? どうしたんだ? 何で、ここに居るんだ?」
「それは、王太子と婚約破棄したからよ」
「そうなのか?」
「っ、」
それを聞いてバウティスタは、用事ができたといなくなってしまった。
それを追いかけて、アルムデラもいなくなった。
「ちょっ、信じられない。お義姉様に謝罪もなくいなくなるなんて」
「謝罪? 何があったんだ?」
パトリシオは、妹から何があったかを聞いて、この間のように激怒した。
「エステファンアの前でしたのか?!」
「お兄様! あんなのの側近なんて辞めて正解よ」
「私も、心底そう思っていたところだ。……絶対に謝罪させる」
「あの、そこまでしなくとも」
「エステファンア」
エステファンアは、謝罪に拘っていなかったが、カルメンシータには理解できないようだ。
「どうしてですか?」
「……もう会いたくないです。謝罪する時に会わなきゃいけなくなるので」
「っ、」
(思ってもいない心のこもっていない謝罪なんて聞きたくもない。そんなので時間を無駄にしたくない。そんなことに時間を費やしても、お菓子が美味しく食べられない)
だが、カステイリョン公爵家の兄妹は、エステファンアがそこまで傷ついたのだと思ったようだ。
ただ、お菓子を美味しく食べるためなのだが、ここにも勘違いが生まれていた。それにいつも、誰も気づいていないのだ。
「あぁ、なんてことなの」
「直接の謝罪はなくとも、我が家とクエンカ伯爵家から苦情と抗議を申し立てなくては、今後も聞きたくないことを聞くことになったら、大変だ。大丈夫。私が、伯爵夫妻に話すよ」
「……」
そんな風に全力で慰められていたエステファンアは、ふと見かけたことのない男性がいることに気づいた。
(どなただろう?)
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