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しおりを挟むそんなことがあって、気を取り直すように言葉を発したのは、パトリシオだ。彼も、気になっていたようだ。
「あー、カルメンシータ。紹介してもらえないか?」
「あ、忘れていました」
「……うん。そんな気がしていたよ」
カルメンシータは忘れていたと言っても、怒るでもなく苦笑して、そんなことを言っていた。その方も、そうだが、妹がすることには甘くなるパトリシオも苦笑していた。
だが、カルメンシータだ。完全に忘れるなんてことはないはずだが、戻ってきて早々にあれでは、牙をむかずにはいられなかったのもわかる。
「お兄様、お義姉様。こちら、私の新しい婚約者のダリオン国の公爵で、ファラムンド・コンセプシオン様です。ファラムンド様、兄のパトリシオ・カステイリョンと私の義姉になられるエステファンア・クエンカ様です」
義姉になられると言う時のカルメンシータは、頬を染めて嬉しそうな顔をした。心から、そうなるのを待ちわびている顔だ。
それを見て、エステファンアは……。
(それは、変わってないな。……そこまで、期待されるのも、何だか申し訳ないけど)
エステファンアは、どこをそんなに気に入られているのかが、未だにわからずにいた。公爵家の面々は、なぜかエステファンアを大歓迎してくれている。それは、嬉しいが、過剰な部分がありすぎる。その理由が未だにエステファンアには謎のままだった。
「初めまして、ファラムンド・コンセプシオンです」
「公爵と言うと……王弟殿下ですか?」
「えぇ」
「……失礼ですが、妹とは一回りは違うのでは?」
「そこまで離れていないわ」
兄の言葉にムッとしたのは、カルメンシータだ。だが、ファラムンドは慣れているのか。大人の余裕なのか。兄妹の言い争いになりそうなのを察したのか。
「カルメンシータ。離れているのは、変わりないさ」
「ですが」
「あの、場所を変えて話しませんか?」
エステファンアは、野次馬が集まりだしているのにいたたまれなくなっていた。
ファラムンドも、美形で美丈夫な方だった。カルメンシータと並ぶと1枚の絵のようだ。
そして、兄妹も見目麗しいのはこの国では有名だ。それが、騒いでいれば目立たないわけがない。
しかも、あんなことの後なのだ。人は集まる一方となっていた。だが、彼らは見られることに慣れっこすぎるのか。気にしなさすぎるようだ。
エステファンアだけが、居心地の悪さをひしひしと感じていた。
(場違いな感じが半端ない)
エステファンアは、自分がここにいるのに耐えられなくなっていた。できれば、野次馬の中からこっそり何があったのかと伺う1人になりたかった。
だが、ファラムンドもこちらに来たばかりで王宮に用事があるらしく、後日、話すことになった。
パトリシオは、有言実行でクエンカ伯爵家に立ち寄り、アルムデラと王太子がしたことをエステファンアの両親にしてくれた。
「なんてことなの」
「そんなことを娘に言うとは、信じられん」
「旦那様、娘がこれほどまでに傷ついているのに何もなさらないおつもりですか?」
母は、キッ!と父を睨み据えた。
「だが、証拠もなく、王族に苦情と抗議をするのは……」
「証拠なら、生徒が複数目撃しています。私の妹も、聞いています」
「妹君が? だが、留学中のはずでは?」
「戻って来たんです」
パトリシオは、流石に婚約破棄して、新しい婚約者を連れて戻って来ているとは言えなかったようだ。
「私は、家に帰ってから両親にも話します」
「わかった。エステファンア、すまなかった。お前が、どれほど傷ついたかより、体面を選ぶところだった。父を許してくれ」
「お父様。あの、あまり大事にはなさらないでください。パトリシオ様も、その、そんなことを言われたと知れ渡ったら……」
(……生きていけない。もう、大半の人たちが知ってることでも、何も知らない人たちにまで、そんな話をされるのは……)
泣くことはなかったが、思わず顔を覆ってしまった。これまで、聞いたことがない者も知ることになるのだ。
それで、ちんちくりんな女を見物にでも来られたら……。
(もう、学園にいられないそうなったら、修道院にでも……、駄目だわ。お菓子を食べられなくなってしまう)
エステファンアの中では、お菓子が未だに一番のままだった。
「エステファンア。大丈夫よ。泣かないで。旦那様と頼もしいパトリシオ様が、配慮してくださるわ」
母は、泣いていると思ったようで抱き寄せてくれた。
父とパトリシオも、凄い顔をしていたようだが、エステファンアは見ることはなかった。
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