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しおりを挟むとある国の王女のフェデリカが重い病でふせっていると思われていた。思われていたというのも、それを病だと誰もが思っていたからだ。
でも、それは病気ではなくて、彼女の義母となった者の呪いで死にかけていただけだとわかるまでも、それなりの時間がかかった。
いや、“だけ”と言っても死にかけていたのだからおおごとなのだが、それがまぁどこかの小説に見聞きしたことがあるようなありふれたものから始まっていた。
美しく生まれ、そしてその純粋な真っ白い心のままに育った正妃の娘が、益々輝かんばかりの美しさを放つ姿が憎くて仕方がなかった彼女の義母は、苦しんで醜く死ぬようにしたかった。
「あんなのがいるから、私が未だに陛下の一番になれないのよ。あんな女の娘さえいなくなれば、私だけを見てくれる」
憎くてたまらない女が死んだことを大喜びしたのに。その忘れ形見に再び悩まされることになった彼女は、その美貌を見るに堪えないものにしようとした。
「っ、」
「フェデリカ王女?」
「どうかなさいましたか?」
侍女たちは、苦しみだした王女に駆け寄り、その顔を見て、ひぃっ!?と悲鳴をあげた。
「な、何てことなの!? すぐに陛下にお知らせして、医者を呼んで!」
「は、はい!」
「王女様、しっかりなさってください」
痛みに悶絶する王女の容態がよくなることなく、どんどん醜くなっていった。そして、苦しみも日に日に発作のように起こった。
王宮の医者は、何もできなかった。
「すぐに治療しろ!」
「陛下。我々では、王女の病は治せません」
駆けつけた陛下は、途方に暮れる医者に怒鳴りつけるとそんなことを言われた。
そもそも、わざわざ醜くさせずに苦しませず死ぬようにしていたら、呆気なく死んでいたはずだった。
そうなれば、流石に助けられなかったところだが、じわじわと殺そうとしているようでどんどんと美しさが陰っていっても、心根の美しさは何も変わらないままだった。
「王女様、申し訳ありません」
「謝らないで」
医者は、少しでも痛みが治まるようにと薬を調合してくれたが、陛下は怒鳴り散らすばかりで板挟みになっていますいる初老はフェデリカに謝り続けても、フェデリカは苦しいだろうに医者に微笑みを見せた。
側にいる侍女たちも、何をしたらいいのかとそわそわして、あまりにも醜くなっていく姿に気分を悪くして離れていく者も多かったが、それでもフェデリカが怒ることはなかった。
そんな娘のために国王は、国の内外問わずに治せる者を探させた。
「王女を治せる者を探して連れて来い。治療できたものに褒美をやる」
褒美ほしさに王宮に押し寄せていたが、そのうち押し寄せることもなくなり、城仕えたちは探し回ることに奔走することになった。そうでなければ、国王の機嫌が悪くなってしまうのだ。
「全く、王宮付きの医者でも治せないのに誰なら治せるというんだ」
「医者はもう調べ尽くしたが誰もできなかった。王女を治せる者なんて、どこにもいない」
そんな風に城に仕えている者のみならず、その国の者たちもそんな風に思い始めていた。
そんな時に片田舎に住むルチア・サーラならば、もしかしてと城に行くことになった。彼女の遠い祖先が聖女とからしく、幼い頃に両親を亡くしたルチアのことを世話してやった恩を返せと養父母に城から来た者たちに売り込んだのだ。褒美目当てに。
それを聞いた城から来た者たちは、半信半疑どころか。期待なんて欠片もしていないが、誰かしらを連れて帰らなければならないらしく、物凄く仕方がなさそうに城に連れて行かれることになった。
「おい、こんなの連れて行って俺らが笑いものにされるぞ。聖女なんて、あんなのおとぎ話だろ」
「そうだが、まさかということもあるだろ」
そんな風に話す2人の声はバッチリルチアに聞こえていた。ルチアとしては、養父母のところにいても馬車馬のように働かされて、ろくなものが食べられない。
でも、この2人は見るからに使用人より、下僕のような格好の見るに堪えない姿を哀れに思ったのか。衣服を整え、それなりに食事を提供してくれた。
「遠慮せずに食っていいんだぞ?」
「……すみません。1日1食なのをずっと続けて来たので。遠慮しているのではなくて入りません」
「「は?」」
1日1食、まともなものを食べられると思って、無理して食べてしまったら、あれが3食でるとわかって、ルチアはどれほど驚いたことか。
そして、この2人もまた、ルチアの境遇を聞いて、城に着くまでにすっかりルチアのことを気にかけてくれるまでになった。
「ルチアちゃん、やっぱり、戻らないか? おじさんたち、送ってくぞ?」
「いえ、何もせずに戻ったら、もっと酷いことになるだけなので、来ただけのことは頑張ります。あ、お2人には先にお礼を言っておきます。ありがとうございました。こんなに楽しくて、たくさん食べられたの初めてでした」
「そうか。そうだな」
「ルチア。今生の別れみたいなこと言うな。帰りたくなければ、他で雇ってもらえそうなところを紹介してやる。お前なら、1人でも生きていける」
「でも、そうなったら、お2人に迷惑かけちゃいますから」
「そんなことまで心配することない」
「そうだぞ」
そんなこんなで、片田舎から来るまでに2人の城仕えたちはすっかりルチアの身内みたいになってしまって、過保護になってしまっていた。
ルチアとしては、美味しいものをたくさん食べられた。それにここに来るまでの美しい景色は素晴らしかった。
なのに王宮が近づけば近づくほど、人々の顔は暗いものになっていた。ルチアが住んでいた片田舎の方がまだマシに思えた。
いや、養父母のやることなすことに周りはルチアのことに関わりたくないようにしているが、そうしてくれと頼んだのは、他ならないルチアだ。
そうでもしないと八つ当たりをして何をしでかすかよくわかっていたからだ。
そこから、王宮に行くとなってホッとしてくれる者と戻って来るなとわざわざ行ってくれた者もいた。それが、一番ルチアの幸せだと思って嫌味ったらしく言ったのも、養父母がいたからだ。
みんないい人たちばかりだった。養父母以外。
それが、ルチアはここに来て王女以外も病のようなものにかかっているように思えてならなかった。
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