絶大な力を持つ聖女だと思われていましたが、どうやら大した力がない偽者が側にいないと争いの火種しか生み出せないようです

珠宮さくら

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それこそ、養父母たちに世話してやった恩なんて言われたが、そんな大したものを与えられた覚えがルチアにはなかった。

住むところのみで、着るものも、食べるものも自分でどうにかした。ぶっちゃけ、ルチアはそこに住まわせてもらっていない方が3食まともに食べられたし、着るものももっといいものを着れていた。それを養父母たちは知らないだけだ。あの2人が前より良い生活を送れるようになったのも、ルチアを養子にしたからなのにも気づいていない。

ルチアがいなくなったら、まともに生活できるかも怪しいほど身の丈に合ってない贅沢な暮らしになれきっているが、それについても言う気はない。

そこで何も言わなかったのは言ったところで、あの養父母が怒鳴り散らすだけだとわかっていたからだ。散々聞かされてきたことをまた、聞きたいとは思わなかった。そこの面倒さは昔からだ。他に怒鳴り散らす相手がいないのだ。

何より、苦しんでいる王女の話を聞いて何とかできるものならしてあげたいと思ってやって来た。

それこそ、自分のこともどうにもできていなかったのに助けたいなんて思ってしまったのだ。まだ、子供らしく行く宛がないからとそこに居続けていたのも、養父母ではなくて、片田舎の他の人たちのことが心配だったのも大きかった。

片田舎でも、ルチアは養父母たちに虐げられながらも、困っている人たちを助けて回っていた。そんな余裕などないだろうと周りは思うほどなのに。ルチアは、自分が幸せになることに周りが必要だとばかりに幸せだと思える人を増やすことに躍起になっていた。

最初は……。


「あんたに関わると俺らまで何をされるか」

「うちに関わらないでちょうだい」


何かする前に一線を引かれていた。ルチアは、そう言われるたびに申し訳無さそうにした。

それが、数年すると……。


「ルチア様、うちの子が凄い熱なんです!」

「じいちゃんが、ぎっくり腰になったんだ!」

「若いのが足をやっちまった。診てくれ!」


まぁ、そんな風に頼られるまでになった。確かにルチアには不思議な力があった。気休め程度でしかなくとも、癒すことができた。

ルチア様と呼ばれ、養父母たちのところで使用人というより下僕のようなことをしながらも、困っている人たちを助けて回った。

完治には程遠いのに。片田舎に住む医者よりは役に立つと思われていた。

遠い祖先が聖女らしいと言っていたのは、養父母のでまかせではなかったようだ。

ルチアは王女を見て、なぜか治す方法がわかってしまった。わかったが、それはルチアが力を使って治すというものではなかった。

ルチアは王女を見て涙しそうになった。見るに堪えない姿をしているからだけではない。彼女が、何をしようとしているかが見ただけでわかってしまったのだ。

フェデリカは本当に優しい王女だった。どんなに苦しみもがくことになろうとも、それが義母の望みだからとそのままで居続けようとしていたのだ。

それが、義母の唯一のフェデリカに叶えてほしい願いだったから。

それならば、実の父親である国王が助けられる者を探して、どんなことをしてでもフェデリカを助けたいと思っている願いはどうなのだと思うところだが、あちらは自分で助けるというより専門の人間にしか救えないと思っていて、見つけた人間にし助けられないと思っているのが強すぎるのとフェデリカの母親にそっくりな王女だから、助けたいと思う気持ちが強すぎたようだ。

フェデリカが母親にそっくりでなければ、そこまでではないのと醜くなっていく様を見ていられないのと公務が忙しいとそれっぽい理由で、フェデリカに会いにも来なくなっている父親よりも、義母の願いの方がどんな願いでも、自分にあてられたものとして受け止めてしまっていた。


「王女様」
「……おかしいのは、わかっているの。でも、私は……、こんなことされてるけど、義母のこと嫌いになれない」
「……」
「私の記憶にある母は、義母しかいないから」
「ですが、陛下や周りがお話してくださっているのですよね?」
「えぇ、みんな、今の私にそっくりな人だと教えてくれるわ」
「っ、」
「やることなすこと、みんな、お母様のようだと。だから、期待されるままに動いてきた。でも、私が私らしくするとらしくないと言われるの。もう、耐えられない」
「王女様」


王女とそんな話をしたルチアは、チラッと控えている侍女たちとそして様子を見に来た国王を見た。


「……すまなかった。フェデリカ」
「陛下……?」


そこに父親がいるとは思っていなかったフェデリカは驚いた顔をした。


「そこにいたのですか?」
「?」
「陛下。王女様は、目があまり見えていないようです」
「っ、!?」


それには付き添っていた侍女たちも驚いていた。

ルチアは、初めて会って話しているのにそれに気づいていたのに。ずっと世話していた者たちは気づけなかったのだ。それほど、フェデリカは見てもらえていなかったのだ。

そんなところで、長く生きていたいと思わせられるのは、国王しかいないと思った。

大体、今のことを受け入れてしまっているのも、それしか望まれていないからだ。今日会ったばかりのルチアが、生きてほしいと願っても呪っている義母の願いには勝てない。

というか、呪っているのは王女自身が、己を呪っているようにしか、ルチアには見えなかった。つまりは、義母の呪いの力よりも、応えようとするフェデリカが強すぎるのだ。

それもこれも、ここに居場所がないからだ。それを信じたわけではないようだが、できることがあるのならばと国王は必死に娘の必要性を訴えた。


「お前が私には必要だ」
「お母様にそっくりだから?」
「違う! お前が、娘だからだ」
「……」


国王の言葉にフェデリカは、あまりに納得いかない顔をしていた。必死に色々言う国王と侍女たちも一緒になって必死に願っている。大事に思っていると言っているが、ルチアでもわかってしまった。

フェデリカに死なれたら困るのは、侍女たちが咎められたくないからだった。

国王は、体面を気にしているのがよくわかってしまった。


「わかったでしょう? こんな人たちしかいないのよ」
「……ならば、私が願います」
「あなたが?」
「私、両親が幼い頃に亡くなっていて、養父母たちのところで暮らしているのですが、ここに来たのも、受けた覚えのない恩を返せと言われて来たんです」
「……それで?」
「祖先に聖女がいるから、何かしらの力があるはずと思われていますが、私より王女様の方がお強いですよね?」
「そうね。あなたは、私には勝てないとでしょうね」


王女の方が聖女の血を濃く受け継いでいるのだ。それを王女はわかっていた。ルチアもそうだ。絶対に敵わない。


「私のためによくなってください」
「……」
「このまま帰れば、私は養父母たちにどんな目に合わされるか。どうか、よくなって、帰る場所に困らないようにしてください」
「……ふふっ、あなた、助けに来たのに私に助けてほしいと言うのね」
「えぇ、お優しい王女様なら、叶えてくださるかと思って。それに似ているところが多々あるから。それにそんな風に力を使っても、楽しくないですよ。どうせなら、もっと楽しくて、みんなが幸せになるために使うといいです。私も、わずかながら、周りでそうしていました。みんなが笑顔になってお礼を言ってくれる。それだけで、生きていてよかったと思えます」
「……それで、まずはあなたの願いを叶えてほしいのね?」
「はい。それとお友達にもなってほしいです」
「ふふっ、面白いわ。私、お友達って初めてよ」


王女は、楽しそうに笑っていたかと思えば、数日後にはすっかり元気になっていた。


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