姉に問題があると思ったら、母や私にも駄目なところがあったようです。世話になった野良猫に恩返しがてら貢いだら、さらなる幸せを得られました

珠宮さくら

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高校受験を控えている妹だとわかっているのだし、由美も大学受験を控えているのだから、そちらに集中してくれていればいいとずっと思っていた。そもそも勉強を教えてくれるわけでもなく、姉がしたのはそれとは真逆の邪魔ばかりをするのだ。その邪魔をやめてくれさえすればいいのだが、それをやめてくれないのが由美だ。


「あんたみたいなのが、私の通ってる高校に合格するわけがないんだから、他の高校にしなさい」

「私の真似なんてやめるのね。あんたには無理よ」

「まだ、そんなところ勉強してるの? そんなんじゃ、私の通ってる高校どころか。他も怪しいわよ」


そんなようなことを美穂に会うたびに言うのだ。もう、家の中で会うだけで、これなのだからたまったものではない。

その中でも、美穂がイラッとしたのは由美に真似るうんねんと言われたことだ。むしろ、姉のようにはなるまいと思っているくらい、美穂は由美から遠ざかろうとしているのに姉は何を思ったのか。真似ていると思ったようだ。誤解もいいところだ。

高校を同じにするだけで、そんなことを思われてはたまったものではない。そんなことを言われ続けていた美穂は、色々と限界に近くなっていた。これまでの人生の中で、ここまで姉の言動に追い詰められたのは初めてだった。


(受験勉強より、姉さんの言葉全てにストレスがたまるわ。大体、真似てるって思われていることが、許せない。私の目標が、姉さんみたいになってて、そう思われてることが気持ち悪い。そんなの最悪すぎる)


家にいると邪魔ばかりされる美穂は、図書館で勉強をするようになっていた。塾に行く余裕は我が家にはない。いや、母はその分を見越して貯金してくれていたようだが、そんなことのためにお金を使ってもらうのに美穂は躊躇いがあった。わからないところだけ、先生に聞けば事足りるため、1人で勉強していた。

そんな美穂が姉のことで限界を迎え始めていた時の癒しとなったのは、図書館の帰宅途中で出会った一匹の野良猫だった。

それこそ、何度も図書館で勉強しては帰っていたが、由美の真似るうんねんのことを言われて、イライラするのが止まらなくなりそうになった時にその野良猫に出会ったのだ。

その猫は、美穂が図書館を利用して帰ろうとする時にだけ現れた。図書館に行く時には美穂が、どんなに探しても見つけることができなかったのに勉強を終えて帰ろうとするとふらっと現れるのだ。


(不思議だわ。図書館で勉強を終えてから出た時には、向こうから寄って来るのよね。どっかで見てるのかな? それとも、受験生への無料のアニマルセラピー?)


まるで、勉強を終えたご褒美というか。労うかのようにその野良猫は、美穂にすり寄って来るのだ。

この日も、美穂を見つけるなり、鳴きながら寄って来てくれた。


「なぁ~」
「こんばんは」


美穂にはとても懐っこい猫で、美穂を見かけると野良猫の方が鳴きながらすり寄って来てくれるのだ。

それだけでなくて、ちゃんと返事もしてくれるのだから、可愛いなんてものではない。それこそ、荒んだ美穂の心を癒してくれて、姉に怒りをぶちまけることもせずに済んでいたのも、この野良猫の存在があったからだ。そうでなければ、苛立ちの限界を超えていたに違いない。

母は忙しいらしく、前のように早く家に帰って来ることはなかった。本当に忙しいのか。姉妹のいざこざに巻き込まれたくないのか。由美が騒ぎ立てるだけなのを聞いていたくないのか。ほぼ、由美が原因だとは思っているが、そのせいで受験勉強をしながらも家事全般をこなしているせいで、美穂は疲れ果てていた。

由美にやらせても、二度手間になるだけでやることが増えることを母は知っているはずだ。そうなれば、美穂が1人でこなしていることも母はわかっているはずだが、あちらも仕事が忙しいからなのか。美穂に全て任せきっていた。


(仕方がないわよね。母さんは、私たちのために働いていてくれてるんだもの)


そう思って、母だけに家事分担を以前のようにしてほしいと美穂は言えないまま頑張っていた。

中3で、家のことも、勉強も、1人で頑張っていたのだ。ストレスがたまりってしまって、とっくに姉妹喧嘩になっていたはずだった。そうなれば母を困らせてしまっていたに違いない。そんなことになるのだけは、美穂は避けたいところだった。

だから、美穂は姉にボロクソに言われても聞き流して、自分1人でどうにかしようとして必死にやり過ごしていた。全て母を困らせたくないがためだった。

でも、よくよく考えれば、母も美穂が1人で頑張っていることに気づいていてもおかしくはなかった。それに気づかないままで美穂が何か言って来るまで、そのままにしているなんてことは母に限ってないと美穂は思っていた。

母は、仕事で忙しすぎて余裕がないだけだと思っていたが、美穂が思っているような理由ではなかったことにこの時も気づいていなかった。


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