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しおりを挟む母と姉が、美穂の結婚式をぶち壊しに来たのに激怒してくれたのは、伯父や美穂の親戚だけではなかった。
浩一も、義両親も、招待客みんなが腹を立ててくれたのだ。特に怒ってくれたのは、浩一だった。今まで、そんな怒っているのを美穂は見たことはなかった。初めてそんな姿を見ることになった美穂は、必死に怒ってくれている伴侶に招待客に愛されていると実感できた。物凄く変な話だが、2人がしてくれたことでより感じることができた。
血の繋がりの濃い人たちよりも、そうでない人たちが美穂の味方をしてくれていることが、嬉しくて仕方がなかった。それも変な話だが。
(披露宴で、ここまで激怒させられるのは、この2人しかできないわね。それにせっかく、集まってもらったのに不快な目にあわせちゃった。この人たちに何か言っても、無駄なのに。私は、身を持って知ってるけど、みんなは怒れば伝わると思っているのよね。そんな普通の人たちではないのに。本当に申し訳ないわ)
普通ではないとわかっていながら、ちょっと期待していた自分がいたことに美穂は、自分も懲りていないなと思ってしまった。
少しは変わったと思いたかったのだ。姉も結婚するのだからと。でも、前日に他の人と結婚してハネムーンに行ってしまっていると聞いては、姉とはある意味お似合いだった人を選んだものだと思うばかりだった。
(このままでは駄目だわ。私は、結婚したんだもの。あの日のようにはっきりと言わなきゃ。話しても無駄なんて思っちゃう駄目。この人たちに伝わらなくても、私の想いは伝わる。無駄になることはない)
そう思って、美穂は言葉にすることにした。
「母さん、産んでくれたことには、心から感謝してる。それ以外については、あー、散々な目に合わされてきたけど、謝罪してくれとは言わない。母さんと姉さんには、そんな反面教師みたいなことしてくれたことに感謝してる。おかげで、私は素敵な伴侶に巡り会えたし、こうして怒ってくれる人たちにも恵まれた。本当にありがとう。前はそっちから絶縁するって言われたけど、今度は私から絶縁宣言させて。二度と会いたくない。今すぐ、私の前から消えて。私のこれからの人生に2人はいなくていい。むしろ、いない方がいい」
美穂は、今日2番目にいい笑顔で母と姉にそう告げた。
そんなことを言った美穂に母も姉も、罵詈雑言を浴びせかけてきたが、それでも笑顔で手を振った。
2人は騒ぎながらスタッフに外に出された。その姿が見えなくなると美穂は、披露宴に集まってくれている人たちに頭を下げた。
「お見苦しいものをお見せして申し訳ありません。それでも、私はこの日に2人に会えてよかったと思っています。みなさんも、とんでもないところに居合わせさせて、すみません。それでも、私はみなさんにも居てもらって嬉しさと心強さを感じています。私はこれまでの家族と決別して、新しい家族を得ることができました。浩一、ありがとう。とても頼もしい夫を持てて、幸せです。お義父さん、お義母さん、あの人たちの血を消すなんてことは難しいですが、良い妻になります。良い義理の娘になれるかはわかりませんが、家族第一に素敵な家庭を築きます。なので、これから、よろしくお願いします。そして、私のために怒ってくれるみなさんに感謝します。伯父さんたちも、ありがとう。私、とても幸せです。あの人たちがここに来てくれて、より一層、伯父さんたちの素晴らしさが身にしみました。しみすぎて、やっと泣けそうです。本当にありがとう」
こうして、美穂は大号泣することになった。嬉し泣きなんて、初めてした。涙は、猫が虹の橋を渡った時にばかり泣いていたが、母と姉のことで泣いたことはなかった。
これからも、2人のことで泣くことはないだろう。
美穂は、浩一に抱きしめられて更に泣いた。
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