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しおりを挟む普通は、婚約者を奪われたら激怒するもののはずだ。
ましてや新しく婚約者になった令嬢を助けるなんておかしなことをするはずがない。これまで、母親がいがみ合っていたのだ。そんなことをすれば、益々酷くなるのはわかりきっている。
最も、ルシンダに負けたと思っていたアミーリアの母親は、逆転したことに浮かれていて、ルシンダの母親よりも酷かった。
「あの女に勝ったわ! ほら見なさい。私の娘が、一番だったじゃない!」
今更、アミーリアが大変な目にあうことはないかもしれないが、いがみ合う母親たちをルシンダは見たくなかった。自分が再び見ることになるかはわからないが、いがみ合うのも罵り合うのも見たくなかった。
一度、母親の願い通りにルシンダは玉の輿に乗れることになったが、駄目になったとしても、母親の願いものは叶ったのだから、ルシンダは奪われてもその相手がアミーリアなら別に良かった。
アミーリアは、そんな風に玉の輿に乗りたくはなかったようだ。玉の輿に乗りたかったはずだが、ここでアミーリアは王太子の婚約者となったら、勉強しなくてはならなくなることに対して、反発する思いが生まれた。
勉強なんて、極力したくない令嬢だ。愛嬌でどうにでもなると母親が言っていたが、それで乗り切れるとは思っていない。
それが、学園の授業のみならず勉強しなきゃならないことに嫌気がさすのも、おかしくはない。アミーリアは、そういう令嬢になっていた。愛嬌さえあれば、玉の輿に乗れると言っていたのは、母親だというのにそれ以外のことをしたくはなかった。
それを拒みたくなる理由は、他にもあった。それは後だ。
まさか腹違いの姉妹の婚約者をこんな形で奪うことになって、後釜に座るとは思ってもいなかったから、益々どうしていいかわからなかった。
それこそ、腹違いの姉妹の母のようにいいとこ取りをして婚約すればいいと思うこともなかったわけではないが、母親たちがそれを許すはずがないと考えないようにした。
アミーリアは、婚約をいくつも台無しにしたのに誰も婚約までに至らなかった理由をわかっていなかった。運がよかったからではない。とっくに婚約していてもおかしくなかったのだ。
そうならなかったのは、彼女の中身が婚約者にするには足りないのだと子息の周りに現実を突きつけたからに他ならない。
そう、アミーリアが好き勝手にできたのも、そんなことがあったからだが、彼女は知らずにいた。
ルシンダが知っていたのは、裏で動いている者がいたのを見ていたからに過ぎない。それはルシンダではなかった。
「あんなのと婚約したら、本当に最悪なことになるわ」
「これ以上、被害を拡大させられないわ」
そんな風に婚約者がころっと騙されることになった令嬢たちが、団結していたからに他ならない。そんなのに騙される程度の子息と別れられたのはよかったが、でも婚約させたりしてはもっと最悪なことになるとばかりにされていた。
かなり酷いことを言われていたが、そのおかげでアミーリアは婚約しなくて済んでいたのだ。
そのことをルシンダがアミーリアに言うこともなかったのは、婚約したら玉の輿に乗れなくなってしまうから言えなかった。
アミーリアは玉の輿に乗らなければならないのだから。
そんなことがあったことで、ようやく婚約することになったアミーリア。散々迷惑をかけられていた彼女の父親と思っていた通りに玉の輿に乗れたことを母親は物凄く喜んだ。
「でかしたわ! 玉の輿よ!」
「よくやった! あちらより、お前の方がいいと言うなら、お前の方がより素晴らしい娘なんだな」
そう言って散々、アミーリアのことを説教して、怒鳴っていた父親が、コロッと態度を変えた。アミーリアは嬉しいはずなのにちっとも喜べなかった、
変わったのは、アミーリアの母親だけではない。
「よりにもよって、あんなのに奪われるなんて、信じられないわ!」
「……」
ルシンダの母親は、あの女の娘のことを気に入らないかのように罵詈雑言を浴びせかけるようになった。
それも仕方がない。アミーリアのような令嬢にだけは、どんなことがあってもルシンダが負けるわけがないと母親が勝手に思っていたのだ。
それなのにあっさりと負けて、王太子が一目惚れした令嬢と婚約したことで、ルシンダに怒りだしたのは、すぐのことだった。
そこには今まで見たことない反応をした母親がいた。
でも、アミーリアのことを悪く言ったのにルシンダは、イラッとしていて母親が色々言っているのに従う気はなくなっていた。そもそも、なぜ母の言う通りにしていたのかが、分からなくなっていた。
それこそ、どちらも娘のはずの父は、どちらが王太子の婚約者でもよかったようにしていて、それにもかなり幻滅した。
それなのに破棄となったルシンダにこんなことを言った。
「お前のようなのをこの家に置いておけない」
「全く、とんでもない恥を晒したものだわ。婚約破棄された挙げ句、元婚約者をまんまと取られてしまうなんて」
「……」
母親は、散々王太子の婚約者になれと言い続けていたが、どんな婚約者でいればいいかを教えてくれたことはなかった。
ルシンダは、最後まで母親が望む娘に慣れていたのかがわからなかった。玉の輿に乗った先が、ルシンダにとっての幸せなのだと母親がどうして思っていたのかが、全くわからなかった。
だから、家から出て行けと言われても悲しむこともなかった。
養子に行くことに抵抗する気もなかったし、再び戻って来る気もなかった。
ただ、ちゃんとお別れをしたかったのにさせてくれない母に幻滅するだけだった。
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