幼なじみは、私に何を求めているのでしょう?自己中な彼女の頑張りどころが全くわかりませんが、私は強くなれているようです

珠宮さくら

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(ラジェンドラ視点)

あの厄介すぎる従妹の幼なじみが、ヴィディヤの母を侮辱しているのにカチンときた。この女にだけは言われたくないと誰しも思うのだから、相当なものだ。なのに本人は、それに気づいていない。

どう育ったら、こうなるのだろうかと思ってしまうほど、奇妙でいて他人の害にしかならないような令嬢だ。これが、公爵家の人間なのかと思うと同じように扱われたくない。

ヴィディヤは怒る姿をあまり見たことがなかったが、トリシュナ関連ではよく怒っていた。いや、それ以外で怒っているのは見たことがあるが、わざと怒らせるとかなり怖い。その怖さが通じないのがいるとすれば、目の前の珍獣だ。珍しい生き物だが、遭遇しなくていい珍しさしかない。

従兄と言うこともあり、ヴィディヤが言えないことを言葉にすることにした。怖いもの知らずと捉えられそうだが、そうまでして伝わるとは思えなくとも訂正したかったのは、ヴィディヤのみならず、その母親を侮辱していたからに他ならない。

そんなことをして標的になるかもしれないが、それでも我慢ならなかった。それは、可愛い従妹と伯母にあたるヴィディヤの母親を侮辱され、身内のことでそんなことを言われて、引き下がれるはずがない。

でも、本来はヴィディヤがすべきなのだろうが、トリシュナに関しては無駄に思えて、そんな気力すらなくなっている。

周りの子息たちが、ヴィディヤに面倒なことを押し付けて来ていたせいだ。それをやるうちに自分のことにまで、頑張る気力が残っていなくなっていたとしても、不思議ではない。

情けない話だ。たった1人の令嬢に逃げ惑って、面倒ごとをその幼なじみのヴィディヤに押し付けたのだ。ただ、幼なじみというだけのヴィディヤに頼りっぱなしなのだ。

それも、幼なじみと言っても、よくよく聞けばヴィディヤの側に引っ付いていただけで、親しくも何ともないのだ。それで、仲の良い幼なじみだとトリシュナが広めたせいで、そう思われているのだ。

トリシュナに迷惑しかかけられていない。幼なじみだったことをヴィディヤは、どれだけ後悔していることか。

幼なじみだからと何もかもやることはないはずだが、それで婚約者と上手くいかずに泣く泣く別れる人たちを見すぎて手を貸したくなってしまったのだろうが、それに疲れてしまっているようで、それが心配でならなかった。


「強がりではなくて、ヴィディヤの母上は忙しくしているぞ。なんて言ったってヴィディヤが王太子と婚約したんだ。その母親として、みんな少しでも仲良くなろうとしている。そのくらい、君だって知ってるだろ?」


そう、みんなが知っていることだから、当然知っていることだとして話をしたのだが、思っている反応とは違うものが返って来たのは、すぐのことだった。

トリシュナの当然は、普通ではなかった。彼女が知らないことは、ないも同じになっているようだ。

 
「え? 王太子とヴィディヤが、婚約?? そんなのありえないわ。見え透いた嘘をつかないで。候補になったくらいで、図に乗った言い方するなんて、信じられないわ」
「……」
「候補? いつの話をしているんだ?」


ヴィディヤは、トリシュナの母親がこのタイミングでヴィディヤの母親に色々言って来たのも、ヴィディヤが王太子と婚約したのが気に入らなかったからだとは思うが、ヴィディヤたちには何を考えているかなんてわかりようがない。

自己中女の娘も同じ自己中に違いないとトリシュナは母親に刷り込まれているのが、見え隠れしているが、そんなことして娘が騒ぎ立てたところで婚約のことがなかったことになるわけでもないのだ。一体、何をしたいのかが、いつもわからない。

何を言っても全く信じないトリシュナ。あまりにも危うい存在の側になっているヴィディヤをそんなのの側に置いてはおけない。相手は、どうあっても普通ではないのだ。一対一にしてはおけるはずがない。


「いい加減にしろ。私の従妹を侮辱するな。それにヴィディヤの婚約者は、王太子だ。失礼にも程があるだろ」
「はぁ?! まだ言うの? 従兄だからって、王太子とその女が婚約しているなんて嘘に誰だっておかしいと思うわよ!」


否定したり、怒ったりすると逆ギレして来るのは、いつものことだ。売り言葉に買い言葉となってしまっていたが、それを聞かれて困るのはトリシュナでしかなかった。だが、彼女はそれにすら気づいていない。成績が底辺に近いらしいが、こんなんでよく学園に通えているものだ。普通なら、恥ずかしくて通うのすら、とっくにやめているはずだが、学園には来ているのだ。本当に何を考えているのかがわからなかった。

トリシュナの方がことを大きくしたがっているようだ。そんなことをして困るのは彼女だが、彼女の中ではヴィディヤたちが困ると思ってやっているように段々と見えてきた。最終的に何をしたいのかは、益々わからなくなったが。

それによって人が集まってきていて、その中にいるトリシュナを見て……。


「あぁ、またやってるのね」
「今度は、どうしたのかしらね」
「どうせろくでもないことよ」


そんなようなことを言っているのが、ヴィディヤたちの耳にも届いていた。だが、そこにヴィディヤたちがいるから、集まったままになっている。そうでなければ、見て見ぬふりをして、ここまで集まったりしていなかったはずだ。誰もが、トリシュナを見ると関わりたくないと逃げ出すのが、条件反射のようになっていたが、今回はいつもと違っていたのは、怒っていたからだろう。

だが、トリシュナには周りの声など聞こえていないようだ。まぁ、これもいつものことだが。都合のよい耳をしているせいで、話をしていても疲れるばかりだった。

たまからといって、今回ばかりは引き下がる気も、譲る気もないが。


「王太子が、あなたなんかを選ぶわけがないわ!」
「……」


そんなことをトリシュナがこれ見よがしに言っていたところだった。まだ言うかと言い返そうとした時だった。


「選ぶわけないって、何を言っているの?」
「え?」
「もうとっくに選ばれているのにおかしなこと言うのね」
「なっ、あなたたちまで、嘘つかないで!」


王太子のことまで何気に侮辱しているのが聞き捨てならなかった外野が、選ばれたのはヴィディヤだと言っても、信じることはなかった。

ヴィディヤのためにしているというより、王太子の婚約者候補にまでなったが、結局は婚約できなかった令嬢たちが声をかけていた。

誰にアピールしてのことかは、言うまでもない。婚約者のいない者にしているのだ。たとえ、されている方がそういった令嬢に興味がないとしても、あちらは知らないのだ。

とりあえず、どうなるかを見ることにした。


「信じられない。みんな自己中女の娘に騙されているのね」
「は? なんで、あなたのお母様に騙されるの? 今更、誰も騙されやしないわ」
「そうよ。有名な話だもの」
「何ですって! 私のお母様なのよ!!」


トリシュナは、母親を侮辱されて激怒していたが、ヴィディヤとて母を馬鹿にされてイラついているのだ。幼なじみの何倍も、腹を立てていいはずだ。

だが、そんな考えしかできないのだ。自己中なだけはある。自分は良くても、他人がするのは許せないのだろう。そう、自分は何をしても許されるが、同じことなどさせたら、喚き散らす。なんと厄介な生き物なのだろうか。

同じ人間とは思いたくなくて、生き物と思うことにしよう。動物でも、賢いくらいだ。

そんな姿を披露して、どうして自分は自己中だと思わないのかと首を傾げたくなった。ヴィディヤも同じだったようだ。

だが、それがわかったら、こうはなっていない。何を言っても永遠に理解できない気がして、無駄なことだとすぐに考えるのをやめた。

今は、トリシュナが他の令嬢と言い争いをしていた。それを見て、ヴィディヤが困ってしまっているのが手に取るようにわかる。

トリシュナが言うのは、相変わらず何を言っているんだと思うことしか言っていない。それはいつものことだ。そんな彼女に他の令嬢たちは、訂正させようと必死になっていた。もはや、最初の思惑なんて消え失せているようにしか見えない。舌戦が繰り広げられているようで、トリシュナの自己中に負けている。

王太子が選んだ相手は、ヴィディヤなのだと。その彼女をトリシュナごときが侮辱するなと言っているだけになってきているのだが、話が通じることはないままだった。いつもなら、そんなことわざわざしない。令嬢たちも、スルーするのだが、それは候補から落ちることになった彼女たちは、そもそも候補にすら入っていない女に言われたくないと言い争っている。

確かに言われたくない。今更だとしても。訂正したいところだろう。トリシュナまで、候補に入っていたら、同等だということになるのだ。

だが、そこすら伝わっていないのだ。トリシュナが納得しなくとも、現実は変わらないのだが、彼女たちは最初の目的から逸れてしまっていて、すっかり同等に見えるようになってきている。

それよりも、気になって仕方がないのは、ヴィディヤのことだ。彼女は待ち合わせをしているのだ。このままほっといて、そちらに行くのにすっかり気が引けてしまっている。

最初にしつこさに負けたのはヴィディヤようだが、それは仕方がない。勝てる相手ではないのだ。

トリシュナに話しかけられると本当にろくなことにならない。今や滅多にトリシュナと言い争わなくなった令嬢たちが、こぞってトリシュナに言いたいことを言っているが話が通じる気配はない。あちらは、ヒートアップしているようだが、どうでもいい。耳障りなだけだ。

それでも、負けられない戦いがここで繰り広げられているようになっていて、見物人も増え始めていた。同じ言語を話していても、同じ言語とは思えないのだから、不思議だ。

動物同士が、言い争う方がまだ可愛げがある。令嬢たちの怒鳴り合いなど、可愛さなどない。

どうして、ヴィディヤは幼なじみになってしまったのか。そこが一番、ヴィディヤがやり直したいところかもしれないし、どうにかできるものならしてやりたいところだ。

だが、それをやり直すためにあれこれ悩むなら、これからの未来のことで悩むしかない。ヴィディヤとて、そのための努力のために時間を使いたいのだろうが、それをさせまいとしているのだとしたら、確かに妨害できている。

妨害はできているが、自分の将来を前途多難にしているのだ。それには全く気づいていないようだ。

彼女は、何を目指しているのだろうか?

元より王太子の婚約者を狙うにしては、成績がいまいちなんてレベルを遥かに下回っている。他にも、礼儀作法がダントツで悪いが、マナーの先生の言うことを聞く気がなさ過ぎて、構っていられないと色んな先生たちに無視されている。同じ授業を受けている平民たちは、そんな彼女をいないものとして扱っていて、誰も目を合わせはしないようだ。

だが、平民たちと同じ授業を受けているのに彼女は妙に大人しくしていた。しているというか。授業中は、ほとんど寝ているらしいが、それを先生すら咎めずに放置されているとか。

もはや、授業は寝て過ごすスタイルになっているようだ。そんなトリシュナが試験でいい点数なんて取れるはずがない。どう考えても、卒業する気がないとしか思えないのだが、そんな状態だというのに焦ってすらいないのだ。

卒業するには、色々クリアしなければならないことが山積みのはずなのにそれをせずにこんなことをしていて、大丈夫なのかと思ってしまうが、公爵家の誰も気にしていないようで、そこも疑問でしかならなかった。

そんな公爵家に関わりたくないのもわからなくはない。開けてはならない扉のような魔窟な気がしていた。

そんなのをどう扱うのが正解なのかが、未だにわからなかった。こんな難題に向き合うのは、生まれて初めてだった。


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