訳あり少女は、転生先でも散々な目に合う道を自ら選び続けて、みんなの幸せを願わずにはいられない性分のようです

珠宮さくら

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アンジェリーカは、まだ生後数ヶ月だというのに。寝ていようとお構いなしに起こされ、抱っこされ、身体を触られ、好き勝手なことを言いまくるのだ。

その好き勝手なことも、両親が側にいる時とアンジェリーカだけしかいない時では、言っていることが全然違うのだ。そんな本音と建前に付き合わされることになったアンジェリーカが、怒らないわけがなかった。


「ちょっとばかり可愛いかも知れないが、特別可愛いわけでもないな」
「これで、祝福が5つだなんて本当かしらね」
「まぁ、魔力はかなり大きいようだが、それも大人になるまでにどうなることやら」


そんなことをアンジェリーカだけの時は言っている夫婦が、アンジェリーカの両親が近づいて来ると……。


「本当に今まで見たことないくらい可愛いらしいわ!」
「まさに祝福をたくさん持って生まれて来るだけはあるな!」
「そうだろう。そうだろう」
「お2人が素晴らしいからこそですわね」
「あら、そんなことないわよ」


両親は、我が子のみならず、自分たちのことも持ち上げるおべっかに嬉しそうにしていた。


(あからさまで、見え見えなのに嬉しそうね。どの人も、同じようなことばかり言ってるのに。両親は飽きないのかしらね。……こんなこと言われて嬉しいって、どうかしてるわ)


アンジェリーカは、そんなことを思っていた。大人たちが好き勝手なことを言っているだけなら、まだ良かったが、特に眠いのに叩き起こされることが続くことになったのだ。

それもこれも、両親が誰彼構わずに抱っこしたがるのを了承したせいだ。自分たちは、大した世話をしていないせいで、この時期の幼児がどう過ごしているかを知らなかったのも大きかったようだ。

ミルクを飲んだり、オムツを交換したりして、さて寝るかと思っていると抱っこタイムが始まるのだ。それに我慢して、ようやく寝れると思えば他の親戚が来たからと寝ているのもお構いなしに抱っこされることになり、それが上手ければいいがみんな全く上手くないのだ。アンジェリーカの両親のように普段の世話を使用人たちに任せっきりな人たちばかりか。子供がそもそもいないかの連中のぎこちなく不安定な抱っこ攻撃にイラッとしたアンジェリーカは、数日のうちに我慢の限界に達することになった。

それでも、数日は我慢したのだ。でも、同じような人たちが媚を売ろうと立ち寄るようになってしまい、入り浸る者まで出始めたのだ。我慢なんてしていたら、アンジェリーカの身がもたないとわかり、苛立ちを態度で示すことにしたのだ。

なにせ、親戚たちが集まって来る前から、実の両親が馬鹿騒ぎして煩くて仕方がなかったのと世話をしていた世話係の殆どが、それにかこつけて好き勝手なことをずっと話しているのを聞いていたのだ。

両親たちの浮かれっぷりも酷かったが、公爵家の人間がかなり浮足立っていた後で、更に親戚たちがひっきりなしに来る毎日となってイライラしっ放しになったのだ。アンジェリーカにとって、初対面の親戚連中に好き勝手なことを言われ、触られまくり、あーでもないこーでもないと言われたら、腹が立っても仕方がないと思う。

それが、心から思っていることと思ってもないことが飛び交うのが聞こえ、アンジェリーカのことを心配する人は数名いるか、いないかしかいなかった。いたとしても、両親を止めてくれるわけではなかった。

もはや周りなんてあてにできないとアンジェリーカは行動に移すことにした。それこそ、両親を見習ってのことだ。即日実行していたら、ここまでにはなっていなかっただろう。見習うことがあるとすれば、その行動力くらいしかなかった。


「あぅ!!」


(寝かせろ!!)


アンジェリーカが、イラッとしてそんなことを思いながら、飛び出す単語はそんなものしか発せられなかったが、無意識のうちに魔法を使っていたようだ。

もちろん、どんなに怒っていても死者を出すつもりはない。アンジェリーカとしては怒っていても、かなり抑えたものだったが、その抑えたものですら周りには問題だったようだ。


「ぎゃー!!」
「ちょっ、落ち着きなさい!」
「こんな小さいのにこんなに魔力があるものなのか!?」


魔力が溢れ返って大変なことになったのは、すぐのことだった。大人たちは、ぜーはーしながらも死にものぐるいで必死になって抑え込んでいたが、その間にアンジェリーカはようやく寝れるとしか思っていなかった。


「うっ~」


(やっと静かになった。これで寝れる)


周りが死屍累々となっていることにも全く気づかないまま、スヤスヤと気持ちよさそうにアンジェリーカは眠りに落ちていった。その寝顔は天使そのものだが、やったことを見ていた者には到底天使には見えなかったのは言うまでもない。


「っ、何、あれ」
「魔力の暴走……?」
「あんなのまともにくらってたら、一溜りもないわよ」


それを遠巻きに見ていたメイドは戦々恐々としていたが、中には彼女の両親とその親戚たちの自業自得だと思って、冷めた目を向けている者もいた。いい気味だと思っている者やらもいた。そんな中でアンジェリーカの心配をしたのは、ほんの一握りしかいなかった。

他の者は、面倒に巻き込まれたくはないが、恩恵には預かりたいと思っている者が殆どで、幼児なのに大人たちを疲労困憊にさせる魔力を持っているのに使えると思って見ている者までいたようだ。


「アンジェリーカ様。……良かった。眠っているだけみたいね」


そんな中で、年若いメイドだけがアンジェリーカのことを心から心配していた。眠っているだけなのを確認して、ホッとしていたのも彼女だけだった。


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