14 / 55
14
しおりを挟む(ん? 今日は物凄く静かね)
パチッと目を覚ましたアンジェリーカは、久しぶりに清々しく起きることができたが、すぐにそんなことを思ってしまったのは、それだけ日常のようになってしまっていたからだ。そんなのが日常だと思うのもおかしなことだが、止めてくれる者がいないせいで、アンジェリーカはすっかりいつものことと思ってしまっていた。それも、おかしな話なのだが、気づいていなかった。
いつもならアンジェリーカの気分もお構いなしに眠っているのを叩き起こして、親戚が来ているからと色んな人たちに次から次へと抱っこされ、ほっぺや髪やら手足やらを好き勝手に触られて、おべっかを言われていたが、その日はパタリとそれらが一切なかったのだ。
アンジェリーカは、何があったのだろうかと周りをきょろきょろと視線を彷徨わせてみた。まだ、歩き回るのも難しいため、起き上がるだけでも難しいこともあり、視線を彷徨わせるくらいしかできない。それだけでも一苦労だったが、ようやく部屋の隅にいる使用人と目があった。
「っ、」
「?」
かなり離れたところで本を読んでいたのにアンジェリーカは驚いてしまった。しかも、何やら目が合った方がビクついたのだ。
(何で、そんな離れたところで読んでるの? それにあの目、まるで野生の動物に出会って萎縮してる小動物みたい)
そんな風に疑問に思っていると目があっただけなのに何やら物凄く怖がっているようにすら見えて、アンジェリーカは眉を顰めたくなっていた。
「お、お目覚めになられましたー!!」
「っ!?」
突然、大声を出されて、アンジェリーカはビクッと肩どころか。全身を震わせることになった。この部屋だけでなく、公爵家の広い屋敷に響き渡りそうな大きな声に驚かないわけがない。
耳を塞ぎたくとも、上手くできずにキーンとしてしまって頭がクラクラした。
(そんな大きな声を出すことないのに。起きたから、何だと言うのよ。失礼しちゃうわ。泣き叫んで呼びつけたわけでもないのに)
アンジェリーカは、ムスッとした顔をしてメイドを見ていた。メイドの方は叫ぶだけ叫んでから、アンジェリーカと目を合わせようとしないまま、近づいて来ることもなかった。
(本当に何なの??)
するとその声を聞きつけて、たくさんの人たちがアンジェリーカの部屋に集まって来たのも早かった。それもまたアンジェリーカには煩かった。
最初に現れたのは、両親だった。
「馬鹿者! そんな声を出して、また魔力が暴走したら、どうするんだ!!」
「あなたこそ、大声を出さないでください!!」
「お前こそ!!」
「……」
両親や他の人がなぜか大声で叫んで騒ぐのを耳にして、アンジェリーカは眉を顰めずにはいられなかった。
(煩い)
今日は、静かだと思っていたのが、騒がしい状況になってアンジェリーカの機嫌は低下していた。
「アンジェリーカ様」
「?」
いつも何かと世話をしてくれているあの若いメイドの1人がアンジェリーカに恐る恐る声をかけて来ていた。そんな風に声をかけられたことはなかった。先ほど叫んだメイドとは別の女性だ。
彼女は、何かとアンジェリーカのことを何かと気にかけて、世話してくれるメイドを見つめた。彼女を見つめるアンジェリーカは不機嫌なわけではなかった。
彼女だけだ。アンジェリーカに何かと話しかけて来てくれて、丁寧に変わらず接し続けてくれていた。それこそ、公爵家の娘だからという理由で熱心に世話してくれているわけではないところを気に入っていた。
「だ、抱っこしても?」
「?」
(怯えながら、そんなこと言われたのは初めてだわ。私、何をしちゃったの??)
そのメイドが、そんな態度に出るのは初めてのことでアンジェリーカは何かとんでもないことをしたのだとようやく察することになった。
「ちょっと、そんなことして、また大変なことになったら、どうするのよ!」
「でも」
アンジェリーカは、なぜこんなに戦々恐々とされているのかと不思議に思ったが、どうやら寝不足でイラついて色々とやらかしてしまったようだ。
無意識に暴れ回ったらしく、それが大人たちには恐ろしくて仕方がなかったようだ。そこまで恐れられるようなことをした覚えは、アンジェリーカの中に綺麗さっぱりと消えてしまっていたが、恐怖を植え付けるには十分だったようだ。
幼児にそこまで怯えるのだから、余程のことだったはずだ。
(全く覚えてないな。一体、私は何をしたんだろう? ここまで怯えさせるようなことをしたってことだよね。う~ん、思い出せる気がしないわ)
寝不足の時が続けば、誰しもそうなるものではなかろうか。
ただ、普通の一般的な幼児とは異なっていて、魔力も桁外れなところがあるアンジェリーカは、その恐ろしさをまだよく理解しきれてはいなかったようだ。
身をもって知ることになるのは、いつもアンジェリーカではなかった。アンジェリーカの周りは、常に非常識な面々ばかりのせいで、家族のみならず、親戚にまで振り回され続ける日々をアンジェリーカは送っていたこともあり、いざという時に暴れやすいと印象付けておいても損はないと思うようになった。そんなことを繰り返しても、しばらく経つと何事もなかったように元に戻ろうとする大人たちばかりで、不満を我慢するのもアンジェリーカは次第に馬鹿らしくすら感じ始めていた。
いざとなれば誰にも思い通りにはできないと思ってほしかったのだが、そんな風に受け取る者は殆どいなかったようだ。
所詮は子供だと思っていたのだろう。これまで、こんな風に馬鹿騒ぎして浮かれる大人たちの中心にいたことがなかったこともあり、この世界の考え方にも全く馴染めずにアンジェリーカの瞳の奥は輝きを失い始めたのも、その頃からだったが、それにすら気づく者は少なかった。
2
あなたにおすすめの小説
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
毎日19時に更新予定です。
魔法師団長の家政婦辞めたら溺愛されました
iru
恋愛
小説家になろうですでに完結済みの作品です。よければお気に入りブックマークなどお願いします。
両親と旅をしている途中、魔物に襲われているところを、魔法師団に助けられたティナ。
両親は亡くなってしまったが、両親が命をかけて守ってくれた自分の命を無駄にせず強く生きていこうと決めた。
しかし、肉親も家もないティナが途方に暮れていると、魔物から助けてくれ、怪我の入院まで面倒を見てくれた魔法師団の団長レオニスから彼の家政婦として住み込みで働かないと誘われた。
魔物から助けられた時から、ひどく憧れていたレオニスの誘いを、ティナはありがたく受ける事にした。
自分はただの家政婦だと強く言い聞かせて、日に日に膨らむ恋心を抑え込むティナだった。
一方、レオニスもティナにどんどん惹かれていっていた。
初めはなくなった妹のようで放っては置けないと家政婦として雇ったが、その健気な様子に強く惹かれていった。
恋人になりたいが、年上で雇い主。
もしティナも同じ気持ちでないなら仕事まで奪ってしまうのではないか。
そんな思いで一歩踏み出せないレオニスだった。
そんな中ある噂から、ティナはレオニスの家政婦を辞めて家を出る決意をする。
レオニスは思いを伝えてティナを引き止めることができるのか?
両片思いのすれ違いのお話です。
転生皇女セラフィナ
秋月真鳥
恋愛
公爵家のメイド・クラリッサは、幼い主君アルベルトを庇って十五歳で命を落とした。
目覚めたとき、彼女は皇女セラフィナとして生まれ変わっていた——死の、わずか翌日に。
赤ん坊の身体に十五歳の記憶を持ったまま、セラフィナは新しい人生を歩み始める。
皇帝に溺愛され、優しい母に抱かれ、兄に慈しまれる日々。
前世で冷遇されていた彼女にとって、家族の愛は眩しすぎるほどだった。
しかし、セラフィナの心は前世の主・アルベルトへの想いに揺れ続ける。
一歳のお披露目で再会した彼は、痩せ細り、クラリッサの死を今も引きずっていた。
「わたしは生涯結婚もしなければ子どもを持つこともない。わたしにはそんな幸福は許されない」
そう語るアルベルトの姿に、セラフィナは決意する。
言葉も満足に話せない。自由に動くこともできない。前世の記憶を明かすこともできない。
それでも、彼を救いたい。彼に幸せになってほしい。
転生した皇女が、小さな身体で挑む、長い長い物語が始まる。
※ノベルアップ+、小説家になろうでも掲載しています。
救世の結界師マールちゃん~無能だと廃棄されましたが、敵国で傭兵のおっさん達に餌付けされてるので、今さら必要と言われても戻りません~
ぽんぽこ@3/28新作発売!!
ファンタジー
「ウチの子、可愛いうえに最強すぎるんだが――!?」
魔の森の隣、辺境伯家。 そこで八歳のメイド・マールは、食事も与えられず“要らない人間”として扱われていた。
――そしてある日ついに、毒と魔獣の禁忌領域《魔の森》へ捨てられてしまう。
「ここ……どこ?」
現れた魔獣に襲われかけたその瞬間。
救いに現れたのは――敵国の”イケオジ”傭兵隊だった。
「ほら、食え」
「……いいの?」
焚き火のそばで差し出された“温かいお粥”は、マールに初めての「安心」と「ごはん」を教えてくれた。
行き場を失った幼女は、強面のおじさん傭兵たちに餌付けされ、守られ、少しずつ笑えるようになる―― そんなシナリオだったはずなのに。
旅の途中、マールは無意識に結界を張り、猛毒の果実を「安全な食べ物」に変えてしまう。
「これもおいしいよ、おじさん!食べて食べて!」
「ウチの子は天才か!?」
ただ食べたいだけ。 だけどその力は、国境も常識もくつがえす。
これは、捨てられた欠食幼女が、敵国でお腹いっぱい幸せになりながら、秘められた力で世界を巻き込んでいく物語。
※若干の百合風味を含みます。
捨てられた元聖女ですが、なぜか蘇生聖術【リザレクション】が使えます ~婚約破棄のち追放のち力を奪われ『愚醜王』に嫁がされましたが幸せです~
鏑木カヅキ
恋愛
十年ものあいだ人々を癒し続けていた聖女シリカは、ある日、婚約者のユリアン第一王子から婚約破棄を告げられる。さらには信頼していた枢機卿バルトルトに裏切られ、伯爵令嬢ドーリスに聖女の力と王子との婚約さえ奪われてしまう。
元聖女となったシリカは、バルトルトたちの謀略により、貧困国ロンダリアの『愚醜王ヴィルヘルム』のもとへと強制的に嫁ぐことになってしまう。無知蒙昧で不遜、それだけでなく容姿も醜いと噂の王である。
そんな不幸な境遇でありながらも彼女は前向きだった。
「陛下と国家に尽くします!」
シリカの行動により国民も国も、そして王ヴィルヘルムでさえも変わっていく。
そしてある事件を機に、シリカは奪われたはずの聖女の力に再び目覚める。失われたはずの蘇生聖術『リザレクション』を使ったことで、国情は一変。ロンダリアでは新たな聖女体制が敷かれ、国家再興の兆しを見せていた。
一方、聖女ドーリスの力がシリカに遠く及ばないことが判明する中、シリカの噂を聞きつけた枢機卿バルトルトは、シリカに帰還を要請してくる。しかし、すでに何もかもが手遅れだった。
前世で孵した竜の卵~幼竜が竜王になって迎えに来ました~
高遠すばる
恋愛
エリナには前世の記憶がある。
先代竜王の「仮の伴侶」であり、人間貴族であった「エリスティナ」の記憶。
先代竜王に真の番が現れてからは虐げられる日々、その末に追放され、非業の死を遂げたエリスティナ。
普通の平民に生まれ変わったエリスティナ、改めエリナは強く心に決めている。
「もう二度と、竜種とかかわらないで生きていこう!」
たったひとつ、心残りは前世で捨てられていた卵から孵ったはちみつ色の髪をした竜種の雛のこと。クリスと名付け、かわいがっていたその少年のことだけが忘れられない。
そんなある日、エリナのもとへ、今代竜王の遣いがやってくる。
はちみつ色の髪をした竜王曰く。
「あなたが、僕の運命の番だからです。エリナ。愛しいひと」
番なんてもうこりごり、そんなエリナとエリナを一身に愛する竜王のラブロマンス・ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる