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パチッと目を覚ましたアンジェリーカは、久しぶりに清々しく起きることができたが、すぐにそんなことを思ってしまったのは、それだけ日常のようになってしまっていたからだ。そんなのが日常だと思うのもおかしなことだが、止めてくれる者がいないせいで、アンジェリーカはすっかりいつものことと思ってしまっていた。それも、おかしな話なのだが、気づいていなかった。
いつもならアンジェリーカの気分もお構いなしに眠っているのを叩き起こして、親戚が来ているからと色んな人たちに次から次へと抱っこされ、ほっぺや髪やら手足やらを好き勝手に触られて、おべっかを言われていたが、その日はパタリとそれらが一切なかったのだ。
アンジェリーカは、何があったのだろうかと周りをきょろきょろと視線を彷徨わせてみた。まだ、歩き回るのも難しいため、起き上がるだけでも難しいこともあり、視線を彷徨わせるくらいしかできない。それだけでも一苦労だったが、ようやく部屋の隅にいる使用人と目があった。
「っ、」
「?」
かなり離れたところで本を読んでいたのにアンジェリーカは驚いてしまった。しかも、何やら目が合った方がビクついたのだ。
(何で、そんな離れたところで読んでるの? それにあの目、まるで野生の動物に出会って萎縮してる小動物みたい)
そんな風に疑問に思っていると目があっただけなのに何やら物凄く怖がっているようにすら見えて、アンジェリーカは眉を顰めたくなっていた。
「お、お目覚めになられましたー!!」
「っ!?」
突然、大声を出されて、アンジェリーカはビクッと肩どころか。全身を震わせることになった。この部屋だけでなく、公爵家の広い屋敷に響き渡りそうな大きな声に驚かないわけがない。
耳を塞ぎたくとも、上手くできずにキーンとしてしまって頭がクラクラした。
(そんな大きな声を出すことないのに。起きたから、何だと言うのよ。失礼しちゃうわ。泣き叫んで呼びつけたわけでもないのに)
アンジェリーカは、ムスッとした顔をしてメイドを見ていた。メイドの方は叫ぶだけ叫んでから、アンジェリーカと目を合わせようとしないまま、近づいて来ることもなかった。
(本当に何なの??)
するとその声を聞きつけて、たくさんの人たちがアンジェリーカの部屋に集まって来たのも早かった。それもまたアンジェリーカには煩かった。
最初に現れたのは、両親だった。
「馬鹿者! そんな声を出して、また魔力が暴走したら、どうするんだ!!」
「あなたこそ、大声を出さないでください!!」
「お前こそ!!」
「……」
両親や他の人がなぜか大声で叫んで騒ぐのを耳にして、アンジェリーカは眉を顰めずにはいられなかった。
(煩い)
今日は、静かだと思っていたのが、騒がしい状況になってアンジェリーカの機嫌は低下していた。
「アンジェリーカ様」
「?」
いつも何かと世話をしてくれているあの若いメイドの1人がアンジェリーカに恐る恐る声をかけて来ていた。そんな風に声をかけられたことはなかった。先ほど叫んだメイドとは別の女性だ。
彼女は、何かとアンジェリーカのことを何かと気にかけて、世話してくれるメイドを見つめた。彼女を見つめるアンジェリーカは不機嫌なわけではなかった。
彼女だけだ。アンジェリーカに何かと話しかけて来てくれて、丁寧に変わらず接し続けてくれていた。それこそ、公爵家の娘だからという理由で熱心に世話してくれているわけではないところを気に入っていた。
「だ、抱っこしても?」
「?」
(怯えながら、そんなこと言われたのは初めてだわ。私、何をしちゃったの??)
そのメイドが、そんな態度に出るのは初めてのことでアンジェリーカは何かとんでもないことをしたのだとようやく察することになった。
「ちょっと、そんなことして、また大変なことになったら、どうするのよ!」
「でも」
アンジェリーカは、なぜこんなに戦々恐々とされているのかと不思議に思ったが、どうやら寝不足でイラついて色々とやらかしてしまったようだ。
無意識に暴れ回ったらしく、それが大人たちには恐ろしくて仕方がなかったようだ。そこまで恐れられるようなことをした覚えは、アンジェリーカの中に綺麗さっぱりと消えてしまっていたが、恐怖を植え付けるには十分だったようだ。
幼児にそこまで怯えるのだから、余程のことだったはずだ。
(全く覚えてないな。一体、私は何をしたんだろう? ここまで怯えさせるようなことをしたってことだよね。う~ん、思い出せる気がしないわ)
寝不足の時が続けば、誰しもそうなるものではなかろうか。
ただ、普通の一般的な幼児とは異なっていて、魔力も桁外れなところがあるアンジェリーカは、その恐ろしさをまだよく理解しきれてはいなかったようだ。
身をもって知ることになるのは、いつもアンジェリーカではなかった。アンジェリーカの周りは、常に非常識な面々ばかりのせいで、家族のみならず、親戚にまで振り回され続ける日々をアンジェリーカは送っていたこともあり、いざという時に暴れやすいと印象付けておいても損はないと思うようになった。そんなことを繰り返しても、しばらく経つと何事もなかったように元に戻ろうとする大人たちばかりで、不満を我慢するのもアンジェリーカは次第に馬鹿らしくすら感じ始めていた。
いざとなれば誰にも思い通りにはできないと思ってほしかったのだが、そんな風に受け取る者は殆どいなかったようだ。
所詮は子供だと思っていたのだろう。これまで、こんな風に馬鹿騒ぎして浮かれる大人たちの中心にいたことがなかったこともあり、この世界の考え方にも全く馴染めずにアンジェリーカの瞳の奥は輝きを失い始めたのも、その頃からだったが、それにすら気づく者は少なかった。
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