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しおりを挟むアンジェリーカは、勉強の時間だからと終わるまでは相手できないと伝えてもらうことにした。
それを伝える役を与えられたメイドは、物凄く嫌そうにしていた。不満な顔をする彼女にアンジェリーカはにっこりと笑って押しきることにした。
このままでいいとは思ってはいなかった。せっかくならばと動いて見ることにしたのだ。
「どうかした?」
「いえ、あの……」
「聞こえなかった? なら、もう一度言うから、一語一句正確に伝えてくれる? そんな簡単なこともできないなら、明日から来なくてもいいわ」
「っ、」
メイドは辞める気はないらしく、アンジェリーカがもう一度言うのも聞かずに慌てて伝えに行っていた。
それをアンジェリーカは冷めた目で見ていた。そんな使用人ばかりで、嫌になるが仕方がない。
(まぁ、今までのことがあるから、乗り込んで来るのもすぐだろうけど。授業にはならなさそうなのには変わりはないかもね。それも今日までにしてもらわなきゃ。……無理だろうけど)
そんなことを思っているとカロージェロが、大騒ぎしながらアンジェリーカがいるところまで来て怒鳴り散らしたのは、すぐだった。
(やっぱり、こうなるわよね)
そんなことを思って、ため息をつきたくなったアンジェリーカだったが、そんな王子を追い返したのは先生だった。
もっとも、追い返すためにわざと誘ったのだ。それにはアンジェリーカも驚いてしまった。そんなことした家庭教師は初めてだった。
「何なら、ご一緒に勉強をなさっては? アンジェリーカ様は勤勉な方で、綿密なスケジュールを組まれておられます。度々来られるなら、ぜひ、一緒に学ばれると良いと思いますよ」
「っ、!?」
勉強から逃げて来たのにここでも勉強をしろと言われたことにカロージェロは、明らかに挙動不審になったのは、すぐだった。
(その手があったのね。もっとも、今までの先生は面倒に巻き込まれたくないからとしようとしてもくれなかったけど。やはり、この方は、これまでの方とは根本的に違う気がしてならないわ)
この先生は、やはりどこか違うようだ。アンジェリーカは、出番がなさそうだと思って、それを見守ることにした。その瞳は、どことなく楽しそうにしていた。
「いつでも参加してくださって結構ですよ。参加したくないなら、アンジェリーカ様にきちんと空き時間を確認して、了解を得てからにしてください」
「っ、俺は婚約者なんだぞ! それに王子だ! 一々、確認する必要なんかないはずだ!」
「殿下。アンジェリーカ様は、これまでに存在してはいない祝福を5つお持ちの方なのですよ? 身分を理由に比べられるわけがないでしょう? 祝福や魔力の量で、そもそも勝てる人間などいないのです。それを身分だけで比べて抑えようとするのは無理がありますよ」
「っ、」
どうやら、王子は祝福を与えられてはいるが、辛うじてある状態だ。家庭教師は、その辺を言葉にしなかったが、随分と優しい表現でおさめたものだと思って苦笑したくなっていた。
(そもそも、この王子からは魔力を感じたことがないのよね。貴族は、魔力を持っているのが当たり前だと聞いていたけど、どうにもおかしいのよね)
それが不思議でならなかった。それなのに両親や周りは、貴族として魔力なしは恥さらしもいいところだと常々言っているのに王子に対して、そのことには一切触れようとしないのだ。
この時のアンジェリーカは、祝福のおかげで、未来を予期していて今現在ではないことに気づいてはいなかった。魔力の差がありすぎて、ないようにすら感じるレベルだということにも気づいていなかった。
それでも、王子は今のところは彼しかいないのだ。他が、王女ばかりなのに王太子と彼が選ばれないのは、祝福が半端なせいのようだ。
そしてさらに魔力も、そのうち尽きることになることを両親は知らないため、そのままにしながらアンジェリーカと婚約させて、彼の両親はそれを利用して王太子にしようと目論んでいることにアンジェリーカは、うっすらと気づいていた。
でも、それに気づかないふりをし続けたのは、面倒に巻き込まれたくなかったからだ。常にこうやって何もしないでやり過ごし続けた結果が、どうなるかをアンジェリーカはわかっていなかった。
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