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しおりを挟む前の世界では、何度も寿命よりも早く死ぬことを繰り返していたが、生きていた年齢を足していくと結構な年齢になる記憶があるせいで、アンジェリーカは全く喜べない日々をこの世界に生まれてから送ることが、日常と化していた。
むしろ、喜びに満ち溢れた日を過ごしたことを思い出す方が簡単なくらい僅かしかなかった。あまりにも僅か過ぎて、悲しくなるほどだった。
虐げられながらも、真っすぐに育っていたメイドがいたが、彼女には幸せになってほしくて、アンジェリーカはそれを願い続けて、その通りになって離れていった。
そこから、アンジェリーカは楽しいと思えることはない中で、勉強三昧な日々を送っていたが、ようやく素晴らしい先生に出会うことができたことを喜んでいた。
何より、婚約者が馬鹿すぎることに白けた目を向けてしまっていたが、本人はそれに気づくことはなかった。そんな王子をあしらうのもエジェオ先生は上手かった。
(こんなにやり手なのにこの世界での評価は低いなんておかしいわよね)
凝りもせずにアンジェリーカのところに勉強から逃れようとやって来ることはあったが、そのたびエジェオによって追い出されるか。一緒に勉強を見ようとされて、不満を爆発させて怒りながらいなくなっていた。
アンジェリーカはあまりにもしつこく、そして先生を簡単に辞めさせることもできると言ったことについにブチギレることになったのは、割とすぐのことだった。
「殿下。私が、やっと巡り会えた理想の先生を勝手に辞めさせようとなさらないでくれませんか。そんなに先生を辞めさせると言うなら、私との婚約を解消してからになさってください」
「なっ、解消だと!?」
「えぇ、破棄でも構いません。先生を辞めさせるくらいなら、婚約をなしにします」
「っ、お前、自分が何を言っているのかがわかっているのか!?」
「わかっています。私は、あなたと婚約していなくとも困りませんから」
「っ!?」
(むしろ、婚約したままの方が迷惑していて困っているのだけど。それが、わかってないみたいね)
カロージェロは、アンジェリーカとの婚約がなくなると困ることは理解していたようだ。頭にきた王子がならば、婚約を解消なり、破棄にすると言い出すことを期待していたが、そうはならなかったのだ。
(残念。勢いのまま、婚約がなくなればいいのに。そうならないみたいね)
そんなことをアンジェリーカが言ったことで、その後、カロージェロが勉強から逃げて公爵家にアポ無しでやって来ることはなくなった。
それに喜びつつ、婚約が台無しにならなかったことにアンジェリーカは何とも言えない顔をしていた。
それこそ、何かしら言われることになるのは、覚悟していたが、そうはならなかったのだ。
「アンジェリーカ様」
「さっきので、もう邪魔されることがなくなるといいのですが」
「……どうして、そこまでなさるのですか?」
「先生以上の先生を私は知らないからです。それに……」
「それに?」
「……先生の側にいると私が、ここにいる理由を納得できそうなんです」
「納得……?」
「いえ、それもおかしいですね。ここにいる理由が、わかりそうな気がするんです。私の存在理由が掴めそうな。そんな気がするんです」
「……」
(私が、元いた世界で摩訶不思議なことになっていたのも、ここに来るためだった気がし始めているのよね。……どうして、そう思うのかがわからないけど)
この世界に呼ばれて来たような気がするのだ。エジェオの側にいるとなぜか、そんな風に思ってならなかった。
「……あなたは理由があるから、ここにいると思っているのですか?」
「私の理由というか。祝福と魔力が、私にこれだけある理由という方がしっくりくる気がします。……そうでなければ、与えられすぎていますから」
(そう。いくら餞別と詫びにしても、多すぎるもの。きっと、すべきことがあるから、ここにいるのよ。なのに私は、周りにイライラばかりしていてしっかり見ようとも聞こうともしなかった。そのせいで、取り返しのつかないことになりそうになっている気がする)
言い知れぬ不安がアンジェリーカは込み上がり始めていた。早く行動をしなければ、何かが手遅れになるような不安だ。それをエジェオが側にいることで、ひしひしと感じ始めていた。
王族と結婚したら面倒になりそうだと思うばかりで、恋をしてみたいと思っていたアンジェリーカは、婚約者には恋することはなさそうだと密かに思っていた。
だから、別の誰かと恋というものをしてみたいと夢見ているわけではなかったが、エジェオの中で消えかけている何かが、その答えさえ教えてくれる気がし始めてすらいた。
でも、全てが繋がっているなんてことはアンジェリーカが、そう思いたいがためかも知れないとも思っていた。
エジェオは、そんなアンジェリーカを何とも言えない顔をして見ていることに気づいてはいなかった。彼ですら、アンジェリーカが全てを解決してくれる唯一の人だと思いたいところがあったようだ。
そんな都合のいいことは夢幻だと思っているところもあり、肝心の話をてきないまま、アンジェリーカからの絶大の信頼と信用をひしひしと感じるようになるのも、すぐのことだったが、それでも慎重にならざる終えないことが起こっていたことをこの時のアンジェリーカは感覚的にしか掴んでいなかった。
その感覚が全ての答えだということにも気づけていなかった。
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