高校生の頃に同じ場所にいたことを僕だけが知っている

珠宮さくら

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そんな2年目の夏のバイトも、今日で終わる。色々とあったが、小さな怪獣たちは何とか納得してくれたことにホッとしていた。

去年より大変だとは思わなかった。

更に今年は中々に稼げたが、学校が始まっても、このままバイトをしたい気分になっていた。花に囲まれたままで稼げるのだ。こんなパラダイスは、他にない。むしろ、花屋に住み着きたい。

まずいな。思っている以上に疲れているようだ。

カランカラン。

そこに来客を知らせる音が響いた。疲れてるなんて、言ってられない。


「いらっしゃいませ」


誰が来たのかとそちらを見るとあの男子がいた。

今日も、イケメンだ。外は暑いはずだが、物凄く爽やかだ。いや、待て。何で、ここにいるんだと僕は思わず、内心であれこれと思ってしまった。夏休み中は会うこともないと思っていたのにバイトの最終日に会うとは誰が思うだろうか。

最近は、あんまり遭遇していなかったから油断していた。世界は狭い。狭すぎる。

神様、僕が何かしましたか? この夏は頑張ってたと思うんですが。

そんなことを思ってしまった。つかの間の現実逃避くらい許されるはずだ。


「あの、すみません」
「は、はい」
「えっと、その」


僕は、こんなことを思ってしまった。どうせ、彼女へのプレゼントだろうと。

だが、彼は母親の誕生日にプレゼントしたいと言うのを聞いて、すぐさま土下座したくなった。

だが、すぐにやっぱりなと思ってしまった。その辺が顔に出ていなかったのか。いっぱいいっぱいだったからイケメンくんが気づかなかっただけかはわからないが。


「カノジョが、花がいいんじゃないかって教えてくれたんです。でも、切り花だと長く楽しめないから鉢物にして、その辺を花屋の人に聞くといいと言われて」
「そうなんですね。素敵なカノジョさんですね」


前言撤回だ。だが、母親のためと言われれば、下手なものを選ぶわけにはいかない。花好きな僕の血が疼く。


「でも、鉢物って、入院中はまずいって聞いたことあるんですけど、やっぱりそうなんですか?」
「え? あ、そうですね。根付くと言う意味合いがあるので鉢物は避けた方がいいかと」
「そうか。根付くのは、困るな」
「……」


何だ。入院してるのかと思ってしまった僕は、色々と聞いてしまった。母親の方はかなりの花好きなようで、ガーデニングをしているらしい。だが、夏バテしたのか。入院しているようだ。

そんな母親に誕生日のお祝いにと入院のことはカノジョに伏せてアドバイスを仰いだら、花をすすめられたようだ。

くっ、いい話ではないか。入院している母親を元気づけるのに慣れない花屋に入るのにどれだけ勇気がいったことか。高校生男子には、かなり入りにくいところのはずだ。僕は例外だが。逆にテンションがあがるところでしかない。

近所の花屋や園芸関連のとこの店員とは知り合いが多い。何なら新人さんたちより詳しいくらいだ。

まぁ、そんな自慢はさておいて、今は目の前のイケメンくんだ。彼のお母さんに喜んでもらいたい。


「そうですね。プリザーブドフラワーとかは、どうですか?」
「プリザーブド……?」


僕が、いくつか作ったものも並んでいた。

叔母の作品もあるが、並ぶと作り手が違うのがよくわかる。


「これ、いいですね。母が喜んでくれそうだ」


彼は、僕が作った方が気に入ったようで、手にとって眺めていたかと思えば、そう言った。


「これ、見てるだけで元気になりそうだ」
「っ、」


くっ、いい奴じゃないか。それは、僕の自信作の一つだ。元気になってほしいと思って作ったやつだ。

僕は、そんなことを思っていたら、ふと思いついたことを言葉にしていた。本当なら、店長に確認してからじゃないとまずいのだが、つい言ってしまっていた。別に絆されたわけじゃない。イケメンくんのお母さんのためだ。……絆されてるのか。


「お時間あるようなら、手作りするのもいいですよ」
「え? そんな簡単にできるんですか?」
「できますよ。この辺のは、僕が作ったものなんで」


すると目を輝かせて、僕を見た。イケメンが、そういう顔をするのは反則だ。僕の汚れた心が洗われるようではないか。……凄く淀んでいた気がして恥ずかしいな。


「凄いですね!」
「っ、」


物凄くいい奴じゃないか。こんないい奴なら、女の子にモテるのも無理ないだろ。僕が女の子でも、惚れてるとこだ。……男で良かった。

単純にも、僕はそんなことを思ってしまった。

あれから、叔母に連絡して事情を話せば、作業場を使っていいとなり、僕はワンツーマンで彼、もとい佐々木佳都さんにアドバイスしながら、一つの作品が完成するのを見届けることになった。

意外に何でもできそうで、不器用なところがあるようだ。まぁ、慣れていないせいかも知れないが。


「ありがとうございます!」
「いえ、喜んでもらえるといいですね」


サービスで、ラッピングは叔母が張り切ってしてくれた。

僕は、どうにもラッピングのリボンが苦手で助かった。僕は、リボンを一種類選ぶのが苦手なのだ。ついつい、二種類使いたくなるのだ。

それか、真っ赤なリボンを選びがちだ。

理由はわかっていないが、叔母はわかっているようだが教えてくれる気はないようだ。


「凄くいい子ね。今どきの高校生の男の子って、みんな、あなたたちみたいなの?」
「あー、どうかな」


叔母は、入院中と聞いて泣きそうになっていた。叔母の母である僕の祖母は夏バテだと思って頑張り過ぎていて、どうも違うのではないかと家族が無理やり病院に行かせて、癌が見つかって末期状態になるまで、あっという間だったらしい。

僕が生まれる前に亡くなっていた。それを思い出したようだ。

なにはともあれ、僕の高校2年生の夏休みはそんな感じで過ぎた。


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