5 / 25
5
しおりを挟むそんな2年目の夏のバイトも、今日で終わる。色々とあったが、小さな怪獣たちは何とか納得してくれたことにホッとしていた。
去年より大変だとは思わなかった。
更に今年は中々に稼げたが、学校が始まっても、このままバイトをしたい気分になっていた。花に囲まれたままで稼げるのだ。こんなパラダイスは、他にない。むしろ、花屋に住み着きたい。
まずいな。思っている以上に疲れているようだ。
カランカラン。
そこに来客を知らせる音が響いた。疲れてるなんて、言ってられない。
「いらっしゃいませ」
誰が来たのかとそちらを見るとあの男子がいた。
今日も、イケメンだ。外は暑いはずだが、物凄く爽やかだ。いや、待て。何で、ここにいるんだと僕は思わず、内心であれこれと思ってしまった。夏休み中は会うこともないと思っていたのにバイトの最終日に会うとは誰が思うだろうか。
最近は、あんまり遭遇していなかったから油断していた。世界は狭い。狭すぎる。
神様、僕が何かしましたか? この夏は頑張ってたと思うんですが。
そんなことを思ってしまった。つかの間の現実逃避くらい許されるはずだ。
「あの、すみません」
「は、はい」
「えっと、その」
僕は、こんなことを思ってしまった。どうせ、彼女へのプレゼントだろうと。
だが、彼は母親の誕生日にプレゼントしたいと言うのを聞いて、すぐさま土下座したくなった。
だが、すぐにやっぱりなと思ってしまった。その辺が顔に出ていなかったのか。いっぱいいっぱいだったからイケメンくんが気づかなかっただけかはわからないが。
「カノジョが、花がいいんじゃないかって教えてくれたんです。でも、切り花だと長く楽しめないから鉢物にして、その辺を花屋の人に聞くといいと言われて」
「そうなんですね。素敵なカノジョさんですね」
前言撤回だ。だが、母親のためと言われれば、下手なものを選ぶわけにはいかない。花好きな僕の血が疼く。
「でも、鉢物って、入院中はまずいって聞いたことあるんですけど、やっぱりそうなんですか?」
「え? あ、そうですね。根付くと言う意味合いがあるので鉢物は避けた方がいいかと」
「そうか。根付くのは、困るな」
「……」
何だ。入院してるのかと思ってしまった僕は、色々と聞いてしまった。母親の方はかなりの花好きなようで、ガーデニングをしているらしい。だが、夏バテしたのか。入院しているようだ。
そんな母親に誕生日のお祝いにと入院のことはカノジョに伏せてアドバイスを仰いだら、花をすすめられたようだ。
くっ、いい話ではないか。入院している母親を元気づけるのに慣れない花屋に入るのにどれだけ勇気がいったことか。高校生男子には、かなり入りにくいところのはずだ。僕は例外だが。逆にテンションがあがるところでしかない。
近所の花屋や園芸関連のとこの店員とは知り合いが多い。何なら新人さんたちより詳しいくらいだ。
まぁ、そんな自慢はさておいて、今は目の前のイケメンくんだ。彼のお母さんに喜んでもらいたい。
「そうですね。プリザーブドフラワーとかは、どうですか?」
「プリザーブド……?」
僕が、いくつか作ったものも並んでいた。
叔母の作品もあるが、並ぶと作り手が違うのがよくわかる。
「これ、いいですね。母が喜んでくれそうだ」
彼は、僕が作った方が気に入ったようで、手にとって眺めていたかと思えば、そう言った。
「これ、見てるだけで元気になりそうだ」
「っ、」
くっ、いい奴じゃないか。それは、僕の自信作の一つだ。元気になってほしいと思って作ったやつだ。
僕は、そんなことを思っていたら、ふと思いついたことを言葉にしていた。本当なら、店長に確認してからじゃないとまずいのだが、つい言ってしまっていた。別に絆されたわけじゃない。イケメンくんのお母さんのためだ。……絆されてるのか。
「お時間あるようなら、手作りするのもいいですよ」
「え? そんな簡単にできるんですか?」
「できますよ。この辺のは、僕が作ったものなんで」
すると目を輝かせて、僕を見た。イケメンが、そういう顔をするのは反則だ。僕の汚れた心が洗われるようではないか。……凄く淀んでいた気がして恥ずかしいな。
「凄いですね!」
「っ、」
物凄くいい奴じゃないか。こんないい奴なら、女の子にモテるのも無理ないだろ。僕が女の子でも、惚れてるとこだ。……男で良かった。
単純にも、僕はそんなことを思ってしまった。
あれから、叔母に連絡して事情を話せば、作業場を使っていいとなり、僕はワンツーマンで彼、もとい佐々木佳都さんにアドバイスしながら、一つの作品が完成するのを見届けることになった。
意外に何でもできそうで、不器用なところがあるようだ。まぁ、慣れていないせいかも知れないが。
「ありがとうございます!」
「いえ、喜んでもらえるといいですね」
サービスで、ラッピングは叔母が張り切ってしてくれた。
僕は、どうにもラッピングのリボンが苦手で助かった。僕は、リボンを一種類選ぶのが苦手なのだ。ついつい、二種類使いたくなるのだ。
それか、真っ赤なリボンを選びがちだ。
理由はわかっていないが、叔母はわかっているようだが教えてくれる気はないようだ。
「凄くいい子ね。今どきの高校生の男の子って、みんな、あなたたちみたいなの?」
「あー、どうかな」
叔母は、入院中と聞いて泣きそうになっていた。叔母の母である僕の祖母は夏バテだと思って頑張り過ぎていて、どうも違うのではないかと家族が無理やり病院に行かせて、癌が見つかって末期状態になるまで、あっという間だったらしい。
僕が生まれる前に亡くなっていた。それを思い出したようだ。
なにはともあれ、僕の高校2年生の夏休みはそんな感じで過ぎた。
10
あなたにおすすめの小説
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる