見るに堪えない顔の存在しない王女として、家族に疎まれ続けていたのに私の幸せを願ってくれる人のおかげで、私は安心して笑顔になれます

珠宮さくら

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(本当にどこで、こんな人脈を手にしたのやら。リュドなら、世界も簡単に手にできそうなのに)


ローザンネ国に帰ることになったアンネリースは、元山賊たちに会うことになり、フェイル国に来た時の船乗りたちにも会えた。

港町の人たちにも、国に帰ってしまうのに残念がられてしまった。


(早く帰りたいと言ったはずなのに)


リュドは、何かを待っているようにアンネリースには思えてならなかった。


「アンネリース様の国は、美醜が逆転しているって、本当なのか?」
「さぁ? 私、生まれてこの方、この仮面越しにしか、世界を見たことないから知らないわ」
「いや、でも、仮面付けてても見えるだろ?」
「なら、付けて見るといい」


そんなことを言い出したのは、リュドだ。それを聞いていたアンネリースは、そうきたかと思ってしまった。


(折角、褒めたのに。……いや、褒めたからかもしれないわね)


「殿下」
「侍女さんも、付けてみればわかるよ」
「?」


フェリーネはリュドのことを殿下と呼ぶようになっていた。何を言いたいのかと思いながらも、アンネリースが何も言わないため、付けて見ることにした。

アンネリースの仮面は、予備がある。いつの間にか、その予備をリュドが持っていた。全く油断も隙もない。


「……は?」
「っ!?」


予備の仮面を付けた者で、変な声を出したのは美醜逆転のことを聞いていた人だ。


「アンネリース様」
「何?」
「私に仮面に触れさせなかったのは、こういうことなのですね」
「……」


仮面には細工が施されていた。普通に付けているとどうあっても顔は見えないのだ。それが、アンネリースの当たり前の視界だ。

フェリーネも、乳母も気づかなかったことにリュドは気づいていた。

だから、人の服装をよく見てしまうのは、それしか判断できるものが見えないからだ。そして、服装と体型と話し方と仕草、歩き方と声で誰なのかを判断してきた。

だから、学園の同じ制服を着ている生徒を見分けることが一番大変だった。でも、フェリーネや護衛たちも気づかなかったことだ。

専属の護衛たちも、フェリーネの仮面を借りて驚いていた。


「何の訓練だよ」
「これで、生活してたなんて気づかなかった」


そんなことを言うラウレンスとヒルベルトの言葉に俯いた。アンネリースは別のことを考えていた。


(だから、私の見える範囲を私の好みに合わせてくれていたのね)


リュドが、服装を変えた時に気づくべきだった。

そう、アンネリースが顔に興味がなくなったのは、仮面の細工のせいで見るのが無理だからだ。そんな生活をしてきて、自分の顔に興味を持てるわけがなかった。

この仮面を新しく作らせたのも、そういうことだ。

そんなものを付けさせたあの人たちが、限られた視界でわかるはずがない。


(私は嘘なんてついていない。本当に誰だかわからなかった)


そんなことを思っていると……。


「アンネリース姫。もう、それを取って見たら?」
「……」


リュドが、そんなことを言った。


「この景色をちゃんと見ないで帰るのは、勿体ないよ」
「……」
「みんな、君との別れに来てるんだ」
「……」


リュドの言葉に無理させることはないと見送ろうとして集まった人たちが言っていた。


「君が世界を知らずに戻って同じことをさせ続けるつもりなの?」
「殿下」
「王女と話しているんだ。侍女は、黙れ」
「っ、」
「護衛もだ。王族は本来、気安く話に割り込めないものだ。フェイル国の王宮でも、無礼だと思っていたことを自分たちは許されると思うな。彼女が恥をかくことがわからないのか?」
「「っ!?」」


リュドは、そう言った。港町は静まり返っていた。それを聞いていたアンネリースは……。


「あなた、いざとなると本当にいい人になるのね」
「……」
「でも、私は、それでは外さないわ。だって、それをしたら、あなたが悪者になるもの」
「っ、」
「別のことを言って」
「姫」
「あなたを悪者にはさせない。もう十分よ。あなたの願いを言って。私が叶えてあげる」
「っ!?」


リュドは明らかに動揺した。


「言ったでしょ? 素のあなたに会いたいって」


(私にそんなの通じないわよ)


そう言うのをやめて、リュドの方を見た。


「……見たい」
「何?」
「君の笑顔が見たい。僕のために笑った顔を見せて」
「それをあなたが、望むなら」


アンネリースは仮面を外した。彼女は、リュドの言葉に応えるように満面の笑顔だった。


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