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第1章
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しおりを挟む(はぁ、疲れた。今日は、さっぱりしたのが食べたいな)
そんなことを思いながら、三廻部琉斗は学校帰りに買い物をしていた。
艷やかな黒髪に陶器のような肌は、日に灼けて困ったことすらなさそうに見える。整った顔立ちをしていて、髪を伸ばせば美少年ではなくて、間違いなく美少女に見えるが、その顔を隠すために残念な眼鏡をしていた。
似合う眼鏡をしていたら、日々騒がれ続けることになっていそうだが、そうではない眼鏡をあえてチョイスしているのは、わざとでも何でもない。琉斗がその眼鏡を選んだわけではないからだ。
その眼鏡は祖父からもらったものだった。目立たない中にそういうことも含まれているのかも知れないが、祖父から琉斗は聞いたことはなかった。
元々、買い物をして帰る予定で冷蔵庫の中には大したものがなかった。もっとも、今日の予定は、ここまで遅くなる予定ではなかったこともあり、思っていた以上にお腹が空いて辛い状態となって学校を出たのは、予想外もいいところだった。
ぐぅ~、ぐぅ~と鳴き喚く腹の虫に見かねたのか。知り合いが、琉斗に飴を残っている袋ごと押し付けるようにくれたのは、校門あたりで遭遇した友人だった。
「やる」
「は? こんなに??」
「お腹空いてるなら、少しは足しになるだろ」
「そうかも知れないけど、本当にいいのか?」
「いいぞ。もう、飽きたとこだから」
「……」
(それは、美味しくなかったってことじゃないよな……?)
琉斗は、袋の中を見ながら思案したが、恐る恐るなめてみた。一種類の味ではなくて、何種類かの味があるようだ。パッケージからすると美味しそうに見えるが、こんなにたくさんくれる意味を琉斗は計りかねていた。
(不味くはないな。……でも、物足りないな。お腹空いてるせいか。それがなくとも今一つなのか。まぁ、一袋丸々じゃないから、食べれそうだな)
「サンキュ」
「別に礼とかいい。お前には世話になってるからな」
「?」
(なんかしたっけ?)
友人の言葉に何かをした記憶が琉斗は全くなくて首を傾げたくなったが、向こうは礼ができたと満足そうに帰って行くのを見送った。
(まぁ、くれるっていうんだから、もらっとくか)
確かに一袋を食べきろうとしたら、飽きるかも知れない。だが、今の琉斗には丁度良かった。
その飴のお陰で、少し腹の虫は大人しくなってくれてはいる。でも、飴程度では満足できるわけもない。さっさと買い物を終えて帰らねばと歩き始めた。
琉斗は現在、高校2年生で身分としては、しがない学生だ。まぁ、そこで何度目の高校2年生かと言われると数えてはいない。
高校生を繰り返すという特殊な状況におかれていたりするが、まだこの世界の高校を全部制覇するまでは程遠い。それなりに高校生として学ランからブレザー、私服を着た高校生活を送っているため、永遠の高校生のような気分にはなってはいるが、とりあえず都道府県は制覇したような気がする。
気がするというのも、数えていないだけでなくて、琉斗の記憶が偏っていたからだ。それも、物凄く。
(御当地の美味しいものは、とりあえず片っ端から食べたからな。美味いものの記憶の方が多いんだよな。出会った人たちのことを覚えてても、僕には世知辛いことになるだけだし。世話になった人を忘れるように新しい場所で生活するのは未だに慣れないな)
繰り返し高校生で居続けるのには、そうしなければならない理由があったからだ。琉斗もその辺を理解した上で高校生活をそれなりに満喫してきたが、身長は伸び悩んでいて中学生に間違われることもよくあるほどの童顔だったりする。
そのため、その辺について話すことが面倒くさくて困ってはいるが、もはやどうしようもない。ダサめの眼鏡でも、補えきれないものがあった。
(まっ、それで、オマケしてもらえることも多かったけど。……そこまでして、ここに居ようとすることが、そもそも間違ってるのだとしたら、頑張り方そのものが無駄なんだろうな)
同年代の女の子には、格好いいと言われるより、可愛いと昔はよく言われていた。今は、なんか残念だとか、ダサいとか言われるが、それに怒ることは琉斗にはなかった。
男たちにはダサいというより、未だに可愛いと言われることがあって、それに腹が立つことはあったが。女の子に眼鏡ないと可愛いと言われても、喜ぶことはないし、複雑なものがないわけではないが、本人も格好いいとは言えないからなと仕方がないと思い始めていた。
その辺はもう怒ったところで、変わるわけでもない。いや、それで変われるとわかっても、琉斗はそこまでするのもなぁとやる気には全くなれなかった。
眼鏡を外した方がいいと言われることもあったが、外した生活を琉斗はする気はなかった。琉斗は目が悪いわけではない。でも、外したままでいると目ざとくない者であろうと気づかれるのは間違いない。琉斗の瞳が普通ではないことに気づかれるわけにはいかないのだ。
だが、瞳のことより琉斗は、身長の方を気にしていた。気にしたところで琉斗には、どうしようもないことなのだろうが、悩まずにはいられなかった。
(この身長って、伸びるのかな? 流石にここで止まると後々がな~。急に伸びても困るんだけど、流石に色々厳しくなってきたから、一気に変化が起きたら、誤魔化しきれないことになりそうだな。そうなる前に覚悟決めなきゃいけないんだろうけど……、中々覚悟って難しいんだよな。ここに居たいって、なぜか思っちゃうんだよな)
そんなことを思っていた。両親と過ごしていたから、それに縋り付いて生きているつもりは琉斗にはないのだが、ここを離れる気にはなれないのだ。
琉斗の身内には、規格外な連中が多くいた。できることならば普通に育ってほしいと両親がかけてくれた加護を外すことを琉斗はしたくはなかったのは事実だ。
それは、琉斗が人間ではないとわかってからも、両親の願ってくれたままにこの世界で人間に紛れて生きることをギリギリまでしようとしていたことは確かだ。
だからこそ、何度も同じ高校生となり続けても、同族がいる世界に移り住もうとは、これまで深く考えもしなかった。同族といっても、琉斗は両親の息子なためどちらからしても半端者でしかないが、どちらの血筋も色濃く現れてしまっているようで、両親は生前も亡くなってからも、琉斗を守ってくれているようだ。そこには、感謝してもしきれない。
琉斗は自分がハーフなのだと聞かされていた。でも、ハーフとは言えない複雑なものがあることを知らないまま、人間のふりをして暮らしていた。
そんな中で、琉斗は身内からしたらまだまだ子供の分類に属するせいか。1人暮らしを人間界でしているだけでも甘やかしたくなるくらい頑張っている方になるようだ。その甘やかし方も、独特としか言えないが、人間とばかりいる生活が長いせいか。その甘やかし方に中々慣れることはなかった。
だが、祖父のほっとけと言う鶴の一言で琉斗は1人を平穏に過ごせているのだ。ありがたい限りだ。
そんな時に電車を待っているとアナウンスが耳に入った。
(ん? 人身事故? 電車が遅れてるのか。あの子に早めに帰ってもらって良かったな)
何気に琉斗が、気を利かせる時はこうして何かしらがある時だったりするが、それを追求したことはなかった。
この時、早めに帰宅させた女子生徒に月曜日に琉斗は物凄く感謝されるのだが、その頃には色々ありすぎたせいで、琉斗は自分が何をしたかを覚えてはいなかった。
そう、琉斗にとって、この週末が中々に濃いものになってしまったのがいけなかったのだ。
もっとも、琉斗はこの調子で他でも人助けのようなことを多くしていたが、何をしたかなんていちいち覚えてはいなかった。琉斗の周りでは九死に一生を得る者も少なくはなかったようだが、そんなことになっていても、琉斗は自分が何かしたからだと思うことなく、しがない高校生となって過ごしていた。
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