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第1章
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しおりを挟む琉斗は部活はしていない。どこの高校でも、基本部活に入ることをしたことはない。部活なんて入ったら、気が気ではないからだ。ただですら、人間として普通でいようとして、琉斗としては何気に無理をしているのだ。部活に入る余裕など、気持ち的にもなかった。
琉斗としては、楽しんでいるレベルでも、才能を感じずにはいられないものを生み出してしまうようで、気軽な気持ちで写生したものですら、一度大騒ぎになってしまい、授業ですら気を抜かずに目立たないように心がけることになってしまったのだ。
そんな気を遣う生活を送っている琉斗だが、今日は委員会の仕事があって、いつもよりだいぶ遅めに学校を出た。同じ委員会の女の子が遠くから来ていて、利用している電車の数が限られているのを知っていて、彼女を先に帰らせたのだが、それを待ち構えていたかのように追加の仕事が舞い込んできたのだ。
「これも、やっとけ。今日中に終わらせとけよ」
「え? これから、やりきれって言うんですか?」
「なんだ? 文句でもあるのか?」
「……」
あるも何も、文句しかない。それをわかっているであろう先生は、琉斗を小馬鹿にしたような顔をしていた。
その顔を見ただけで、琉斗はげんなりしてしまったが、わかりやすい態度を上手く隠しきった。こういう手合いには、隙を与えては逆効果でしかないのだ。
先生は任せるだけ任せていなくなるのも早かった。琉斗が一人なのに何も言わなかったのも、琉斗が相手を先に帰すと思っていたからに違いない。
(ったく、他のクラスの委員が、サボってたツケを僕に押し付けるなよな。いや、僕のためにわざわざ取ってくれてたみたいだったな。そんなのいらないんだが、どうにもあの先生に嫌われてるんだよな。特に何かした記憶もないのに)
琉斗のことを嫌っている先生がいたのは確かだ。何かにつけて、その先生は琉斗のせいにしようとするのだ。
今回も、ちゃんとできてなければ、琉斗のせいにして色々と言っていただろうが、琉斗はそれを意地でやりきってやった。自分だけでなくて、先に帰した女子までも色々言われてしまっては可哀想だと思ったからだ。
おかげで、いつもよりお腹が空いてしまっていた。流石に琉斗でも、本気にならなければ片づけられないものだったのだ。
つまりは、琉斗でなければ2人ペアになって残っていても終わらせるのは難しかったということだ。あれは、1クラス分のやる仕事というより、もっとあったように思える。
(段々と嫌がらせが酷くなってるんだよな。面倒くさいから、構うのやめてほしいのに。何でか、向こうが構ってくるんだよな。特に何かしたつもりはないのに面倒くさいのに目をつけられたもんだな。さっさと、僕なんかに構うの飽きてくれないかな)
嫌がらせをされた後だというのに琉斗は、大して怒ってはいないように見えたが、その瞳は赤くなりかけていた。
昔の琉斗ならばとっくにそういう人間にやり返しているところだが、この頃の琉斗は滅多なことではやり返すことはなくなっていた。
もっとも、琉斗に意地悪いことをしていた先生は人身事故があって電車では帰宅するのが大変だとわかって、バスで帰ろうとしたようだが、彼はバスには滅多に乗らないせいで、勘違いしてしまい乗るべきバスを間違えてしまったらしく、散々な目に合うことになった。
それこそ、この教師は散々な目に合う仕返しのように琉斗にしていたのだが、そういう日に限って散々な目に再び合うのだ。
この日はバスを勘違いして間違えてしまい、とんでもないところにたどり着いてしまったのだが、そこで事故に巻き込まれてしまった彼は身分証も運悪く飛んでしまい、それを拾った人間が盗んでしまったことと彼の顔が事故によって損傷が激しいせいで、身元不明となってしまったのたま。
長らくその偶然が重なったことによって、行方不明者となってしまうとは、誰も思ってはいなかった。
もっとも、行方不明となってから帰宅途中で探していて、全く違うところの事故に巻き込まれているとは誰も想像していなかったのだ。
学校では気に入らない生徒に散々なことをしていたこともあり、さらに家庭では奥さんや子供に暴力を振るっていたようで、帰って来ないことを心配する者はほぼいなかった。
その後、行方不明となっていたのが、事故に巻き込まれていたことがわかった頃には、その先生が亡くなる近場で残された奥さんと子供は保険金が入ることになって、怯えることのない生活を送れることになったようだ。
それは、あの日、先生がいなくなってから数ヶ月後のことだった。
その頃には、事故に巻き込まれていたとわかって亡くなったと聞いても、家とは真逆な方向に行っていたこともあり、愛人のところに行こうとしていたとまことしやかにささやかれていた。最低すぎると生前よりも、更に嫌われることになったのは、自業自得でしかない。
琉斗は、その頃には散々な目にあっていて学校で一番の被害者だったことすら、すっかり忘れていた。
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