最愛の亡き母に父そっくりな子息と婚約させられ、実は嫌われていたのかも知れないと思うだけで気が変になりそうです

珠宮さくら

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ヨランダは、フェルギエール侯爵家にようやく着いて安心したのか、夢を見ていた。そう、全ては夢だったと思いたいことばかりだったせいで、本当に夢を見ているのか。現実なのかが、わからなくなっていた。

母が亡くなり、心の支えは、母の従姉妹のヴァランティーヌとの手紙のやり取りのみとなっていた。

そんな中で父が、再婚したのだ。もっとも、再婚をしたのは、1年ほど経ってからだったが、アポリネール子爵家に再婚する女性とその連れ子が、住み着いたのは、ヨランダの母が亡くなって、すぐのことだった。

そう、母が亡くなって1ヶ月を過ぎた頃だったろうか。


「え? あの、どちら様ですか?」


家に見知らぬ母娘がいて、ヨランダは思わず聞いていた。あまりにも堂々といるせいで、客が来るのを知らされていなかったのかとすらヨランダが思うほどだった。

使用人たちも、平然とアポリネール子爵家にいるのにぎょっとしていた。それを見ていたら、誰かが通したのではないと気づくところだったが、ヨランダは見たことない親子を見たままだった。


「は? そっちこそ、誰よ?」


まるで、ヨランダの方が余所者のように怪訝な顔をされた。それに使用人が無礼だと言ったりしたのが、気に入らなかったのか。ヨランダは、父が再婚する前から、この母娘に意地悪いことばかりをされることになった。

いや、使用人たちが庇っていなくとも、ヨランダが気に入らない存在だったのは明らかだ。父が、急いで再婚するためにヨランダのことを心配していると言って大事にされている娘というのが、気に入らないようにも思えた。


「勘違いしないことね。あなたなんて、欠片も心配されていないわ」
「……」
「勉強ばかりして、愛想の1つもできないのが、好かれるわけないじゃない」
「っ、」


義姉となる前から、そんなことを言われていた。

アポリネール子爵と結婚する前から、金遣いが粗く、使用人への給料が勿体ないと何かにつけて言っていた。

それでも、ヨランダを守ろうと何を言われても使用人は辞めもせずに残ってくれていた人たちがいた。自分たちまで辞めたら、ヨランダが大変な目に遭うと思ってのことのようだ。


「こんな給料で、生活するのは難しいわ」
「でも、ヨランダお嬢様をほっとけないわ」


使用人たちが、そんな風に話すのをヨランダは耳にしていた。辞めさせようとして、給料を減らしているとは思いもしなかったヨランダは、それでも自分を心配して残ろうとする使用人たちに何も言えなかった。

何か言っているとわかれば、そこを色々言われるのだ。ただですら、言われ放題なのに更に言われたらと思うとヨランダは何も言えなかったのだ。

そのうち、ヨランダがやればいいと言い出したのは、父と再婚した時に義母となった女性が言ったことだった。

使用人たちは、ヨランダにやらせると聞いて、なんてことを言うのだと義母を非難したが、それを口答えしたと言い、完璧な令嬢なら家事とて完璧でなければ嫁に行った時に恥をかくとか言い出して、ヨランダが追い出された使用人の代わりに家事をこなすことになった。


「ヨランダ。できるな?」
「……はい。お父様」


できるが、やりたくないとはヨランダは言えなかった。

まさに地獄の始まりだった。

でも、そんなことになっていることなど、誰にも言えなかった。アポリネール子爵であるヨランダの父親は、外面だけはよく、再婚相手とその連れ子も、同じように外面だけが良かった。その辺は、まさに親子のようにそっくりだった。ヨランダだけが、異質だった。

そう、ヨランダはガイエ国では生きにくい令嬢だった。本人は、そういうところに住んでいるとは思っていなかった。勉強以外のことで、疎すぎたせいも大きかった。

ヨランダが生まれる前からいた使用人たちなら、庇ってくれていただろうが、給料を減らされても残ってくれていたが、その人たちも辞めさせられてしまっていて、何か言ってくれる人もいなかった。

そのうち、学園でも義姉となったアンリエット・アポリネールは徐々に周りを味方につけていった。要領も良かったように見えたが、元々ヨランダの頭の良さが気に入らない者が多すぎた。

だが、気に入らないと思われる理由にヨランダは全く心当たりがなかったことで、更に周りに嫌われていっているとも気づいていなかった。もはや、義姉が何もしなくとも、ヨランダは嫌われていたのだ。

ヨランダが、留学することを目標に勉強を頑張り、家では使用人としてこき使われる日々を送っている間にあちらを信じる者ばかりになるとは思いもしなかった。だが、周りからしたら仕方がないことだったようだ。

ヨランダからしたら、みんながそこまで見る目がないとは思いもしなかったのだ。そこまで、ヨランダのことをそんなような令嬢に見えると思われているとは思わなかったことで、すれ違いが起こった。そんなような令嬢に見えるのではなくて、そんなような令嬢だと更に悪く言いやすいだけだったのだが、そこにヨランダは行き着かなかった。

そして、その中のヨランダの婚約者の伯爵家の子息であるアリステッド・ギャルヴァンも、いつの間にやらアンリエットのことを全面的に信じる者の1人となっていた。

彼は元々、自分より勉強のできるヨランダを気に入らなかったようだが、成績がそこそこなアンリエットが丁度良かったのかもしれない。アンリエットならば、成績で自分の上に名前が上がることはない。決してないほど、よくないのだ。

元より婚約者というだけで、好きでも何でもなかったが、ヨランダが一番喜んでいる時にそれを台無しにされることになるとは思いもしなかった。

留学することが決まって、ヨランダが喜んでいた時だった。ずっと目標にしていたことが叶うことになったのだ。留学したがる者はたくさんいたが、条件が厳しくて、ここ数年、いなかったほどだ。

でも、先生方は、そんなヨランダに良かったと言う者はいなかった。まぁ、あちらで勉強したいと言うのにそこまでなのかと驚かれていたが、ヨランダはそれ以外で留学する人がいるのかと首を傾げるばかりだった。

それが、条件をクリアできて留学することができることになってなって、ヨランダは珍しく浮かれていた。

それこそ、留学のことを父に伝えたら、初めて褒められるのではないかとすら思っていた。そう、褒められた記憶すらなかったのだ。

それが、こんな風に蔑ろにされていても、父に褒めてもらいたかった自分がヨランダの中にはあったようだ。一番は、母に褒めてほしかったが、それは叶わない。

でも、父が留学のことを知っていたら、もっと激怒していたとは思いもしなかった。この国で、留学生となるのは、男漁り、女漁りに行くものと父は思っていたのだ。頭が良くない者の典型的な考え方をしたのが、自分の父親だとヨランダは気づいていなかった。

ヨランダは、留学のことをすぐさま手紙でヴァランティーヌに知らせることにした。学園から、手紙を投函できるところがあって、それを初めて利用した。

そこから、ヨランダの気分というか。気持ちが、最悪なものになるとは思っていなかった。


「お前が、そんな令嬢だとは思わなかった!」
「え?」


いきなり、アリステッドに怒鳴りつけられたのだ。その傍らにアンリエットが、悲痛な顔をして立っていたというか。彼女をアリステッドが支えていた。肩ではなく、腰を。その光景は、あちらが婚約者かのように見えた。

おかしな光景だ。婚約者の前で、義姉の腰を支えて、婚約者が怒鳴りつけているのだ。己の婚約者を。

異常な状況にヨランダは、目をパチクリさせてしまった。


「お父上が、再婚したのが気に入らないからといって、彼女に使用人のようなことをさせて働かせているそうだな」
「え?」
「使用人にお金を払うのが、勿体ないからって、あんまりよ」
「っ、」


ヨランダは、驚かずにはいられなかった。それをしているのは、アンリエットとその母親なのだ。なのにさも、ヨランダがそうしたかのようにこれ見よがしに言い出して、目に溜まってもいない涙を拭う仕草をした。

全く涙は出ていないが、周りは……。


「そんなことを?」
「嫌だわ。人は見かけによらないわね」
「頭がいいとそんなことまで思いつくのね。嫌だわ」
「っ、」


ひそひそと周りが、そんなことを話すのが聞こえてきて、ヨランダは違うと言えなかった。言ったところで、アンリエットの味方ばかりだと思ったのだ。

目の前の婚約者のようにみんなが、みんなアンリエットの味方なのだと思ったら、何か言う気にはならなかった。

言ったところで、アンリエットに敵うとは思えなかった。余計なことを言って悪化させても面倒に思えた。

するとヨランダが、何も言わないのをあちらは認めたと思ったようだ。アリステッドは、そんな令嬢とは婚約破棄すると言い出し、虐げられていたアンリエットと婚約すると言い出したのだ。

それに聞いていた者たちも、ざわついていたがヨランダはこんな子息だったのかと思うばかりだった。まぁ、期待していたつもりはなかったが。それを下回っただけなのだが、浮かれていたヨランダは水をさされた気分がして残念でならなかった。

アンリエットは、アリステッドの横でニタニタとヨランダを見ていた。その顔を見て、気づくべきだった。

もっと酷かったのは、アリステッドではなかった。帰宅してからが、本番のようだった。


「婚約破棄されるとは、我が家の恥だ。お前のようなのが、娘で恥ずかしい。勘当する。今すぐ家から出て行け!」
「っ、」


父親が、アンリエットから色々聞いたらしく、そう言い出したのだ。ヨランダの話を一切聞かずに。

いや、ヨランダの話を聞いてくれたことなど、今までなかった。なかったのに期待してしまっていたのだ。

留学生に選ばれたら、自慢の娘に思ってもらえると。いつしか、自分の夢の中に父に認めてほしいと思う気持ちがまじってしまっていたようだ。

それを言ったら、もっと酷いことになるとは思っていなかったが、今、留学のことを話したらフェルギエール侯爵家にも迷惑をかけそうで、言えなかった。


「それに比べて、アンリエットは流石は私の娘ね」
「アリステッド様が、こんなのの婚約者なのが可哀想だったから、丁度良かったわ」
「そうだろうとも。全く、ギャルヴァン伯爵家の子息にとんでもないのを嫁がせるところだった」
「……」


もはや、勘当した娘などいないかのように父は、ヨランダを見ようともしなかった。いや、元からヨランダという娘なんて、父にはいなかったようなものだ。

義母と義姉は、そんなヨランダを見て意地悪い顔をしていた。


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