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第1章
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しおりを挟む「……マルグリット様は、候補を辞退されたのよね?」
ウィスタリアが聞いたのは別のことだった。候補にいたなら、ジュニパーよりも彼女が選ばれていたはずだ。
でも、候補の5人の中にいた記憶している。それが、なぜなのかが気になっていた。
(確か、その頃には婚約なさっていたはず)
それなのに候補に残ることなどあるのだろうかと思っていた。
「えぇ、婚約しているので。酷いのよ。その婚約を解消して、候補になるべきだと親族に言われたの。候補に残れば、何とかなると思ってそうしたのよ。私、頭にきてしまって、婚約者に手紙を出したのだけど。そしたら、婚約者は隣国にいるのに婚約者とそのご両親がすっ飛んで来てくれて、話が違うと私の両親と口論になったの」
ウィスタリアは、それを聞いて、目をパチクリとした。普通なら、隣国に住む婚約者にそんな手紙など出したりしない。そんなことをしたら、心配をかけるだけだ。
(なのにどうして?)
ウィスタリアは先が気になった。いや、聞かずともすっ飛んで来るくらいだ。実の親よりも、仲が良いのだろう。
「でも、両親はそんな話をしていないと言って、ならば誰がしたんだと聞かれて答えるべきか悩んでいたら、本人が暴露してくれたわ。今はその家とは絶縁することになった。婚約者とその両親は、心配でならないから一緒に連れ帰るとまで言ってくれて、両親なんて次からは自分たちに先に言いなさいって言っていたわ。でも、散々言っても気のせいだの。そのうちおさまるだのとしか言ってくれず、辞退したいと言っても聞き入れてくれなかったのに変よね。でも、一番酷く言い続けていた方々と絶縁してくれてよかったわ。まぁ、それもこれも、婚約者と両親がすっ飛んで来てくれたおかげですけど」
どうやら、それほどまでに想い合っているようだ。
(これは、惚気を聞かされたってことよね……? 婚約者と仲良くしていて、羨ましいわ)
ウィスタリアは、とんでもない惚気を聞かされたが、それを聞いて以来、お互いが呼び捨てで呼び合うようになり、意気投合して仲良くなるのも早かった。
更に仲良くなったのが、ウィスタリアが彼女と友達になって最初の誕生日に焼いたケーキを絶賛してくれた時だった。
それは、妹も大好物のケーキだった。両親も、祖父母も、それだけは店の物よりも断然美味しいと絶賛していたが、マルグリットもそうだったようだ。
「ウィスタリア! 凄く美味しいわ! こんなに美味しいケーキ、初めて食べた」
その後も、誕生日はプレゼントはケーキでお願いと言われるほどだった。
その姿は、妹にそっくりだった。この頃のプリムローズではない。幼い頃の可愛い妹だ。
「おねえさま! わたしのたんじょうびは、まいとし、おねえさまのケーキがいい!」
「わかったわ」
「やくそくよ!」
「えぇ、約束ね」
そう言ってくれていた妹が、祖父母に甘やかされ、両親が放置したことで、ウィスタリアも構えないまま月日が流れてしまい、ケーキだけでは足りないとわがまま放題となっているとは思いもしなかった。
「ケーキは、当たり前でしょ。だって、私の誕生日なんだもの。お姉様、他にはないの? 毎年、ケーキだけじゃない」
「……」
(確かにそうだけど。あれだけ、祖父母に買ってもらって、まだ何がほしいと言うの? 昔は、ケーキだけでも特別だったのに)
「それに同じケーキばっかり。別のケーキを考えてよ」
「っ、」
デコレーションにこだわろうとも、土台が一緒なことに不満があることにウィスタリアは言葉を失った。
そんなことを言われた次の年からケーキを焼かなくなったが、妹が気づくことはなかった。
それどころではなくなったウィスタリアが忙しくしていたせいだが、それでも妹の誕生日にケーキだけでも変わらず焼き続けられればよかったが、そんなことをする余裕はなかった。
それに比べて、マルグリットは毎年1回の誕生日ケーキを楽しみにしていた。デコレーションにこだわるケーキにお店がひらけるとよく言っては、はしゃいでいた。
「そんなに好きなら、他の日にも焼くのに」
「駄目よ。これは特別な日に食べなければ。ウィスタリア、忙しいようなら、無理しないでね」
「でも、そんなに楽しみにしてくれているのに。誕生日だけでも焼くわ」
(可愛いあの子に焼いていた頃を思い出せる。あの頃のプリムローズが懐かしいわ)
そんな風に昔を懐かしんでいたのをマルグリットは気づいていたはずだが、それについて何も言うことも、聞いてくることもなかった。
ただ、こんなことを言った。
「なら、どうしても無理になったら、その分でウェディングケーキを焼いてくれる?」
「え? その分で……?」
ウィスタリアは不思議な頼みに目をパチクリさせた。
「私の誕生日より、もっと特別な日よ。そのためなら、誕生日ケーキがなくても耐えられるわ。私のためにとびっきりのウェディングケーキを作って」
「ふふっ、わかったわ。駄目な時は、その分、とびっきりのウェディングケーキにするために頑張るわ」
「なら、何回食べられなくてもいいわ。その分、特別な日に来てくれる人たちに食べてもらえるもの」
「マルグリットったら、そんなことしたら、この世界中で一番のウェディングケーキを作らなきゃならなくなっちゃうじゃない。流石にできない約束はできないわ」
「……」
「マルグリット?」
「……それ、食べてみたいわ。来年からケーキなくてもいいわ」
「もう、マルグリットったら」
そんな風に話して、声を出して笑った。そんなことをする友達も、彼女だけだった。
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