初恋の人への想いが断ち切れず、溺愛していた妹に無邪気な殺意を向けられ、ようやく夢見た幸せに気づきましたが、手遅れだったのでしょうか?

珠宮さくら

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第1章

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「それで、皆で何を話していたの? とても楽しそうにしていけれど」
「美味しいケーキが食べたいと話していたところですわ」


ウィスタリアのケーキが食べたいと言ったマルグリットは、そう答えた。ここで、ウィスタリアの名前を出したら大変なことになる。だから、名前を口にすることは決してしない。暗黙のルールのようなものがあった。

遠くから見られていたことに暇人だと思ったが、誰もそれを顔には出さなかった。


「美味しいケーキ?」
「えぇ、甘いものをたまには食べたいと思っているのですが、オススメはありますか?」


さも、物知りだからよく知っているだろうと言わんばかりに聞いたが、それに答える前に他の令嬢が……。


「あら、お妃教育でお忙しくなさっているのに街になんか行けないはず。そんな方にオススメを聞いても、お可哀想ですわ」
「そうよね。それに王宮でシェフがお作りになるお菓子を食べてらっしゃるはずだもの。街の流行りのものまで、食べ歩きしたりしたら大変なことになってしまうわ」


何がなんて言わない。体型の維持が疎かになっていることや顔のデキモノのことを言っていた。

ジュニパーは、ピクッと頬を引きつらせた。前より太っている気が本人もしていた。お妃教育のストレスからか吹き出物もでき始めてもいた。化粧で誤魔化しているが、それで上手く隠せていると思っていたが、全く隠せてはいなかった。


「確かにそうよね。ごめんなさいね。私ったら気が利かなくて」
「そ、そんなことないわ」


そこから、食べ歩きに行くというのに着いて行きたそうにしたが、元々集まっていた令嬢たちはやんわりと断った。

やんわりとしながら、絶対に彼女と食べ歩きなんてしたくないという思いがあった。それは、全員一致のものだ。言葉にしなくとも、休日まで相手にしたくない。

それは、ここにいる令嬢だけではない。それほどまでにジュニパーは嫌われているのだ。


「毎日、王宮のお菓子を好きなだけ食べれるとおっしゃっていたのに街でまで食べ歩きされたら、大変なのでは?」
「そんな、好きなだけ毎日なんてことは……」
「あら、以前、好きなだけ食べれるとおっしゃっていたのに。もしかして、もう飽きてしまわれたの?」
「まぁ、そんな物しかでないのですか?」
「っ、そ、そんなことないわ!」
「そうですわよね。レパートリーが、すぐに尽きるようでは、王宮のシェフなんてできませんものね」
「えぇ、同じものなんて出ないわ。あ、こんな時間だわ。ごめんなさいね。時間が秒刻みなの」


そんなこんなで、そろそろ時間だからとお妃教育があるからとそそくさといなくなる令嬢を冷めた目で見送った。

頼んだお茶を飲むことなくいなくなる姿に白けた顔をみんながしていた。

ウィスタリアは、それでもお茶を飲みに行った。でも、ジュニパーは頼むだけ頼んで口すらつけずに帰るのが殆どだった。


「最悪ね」
「忙しい忙しいって、言うのにウィスタリア様を探しているのが丸わかりですものね」


探して嫌味を言いたいだけなのだ。それを知っているから、あんな風にあしらっているのだが、気づいていないのか。こりていないのか。

お妃教育にストレスを感じているのは明らかだ。それを発散させるのにウィスタリアに八つ当たりしようとするのなら、全力で阻止したくもなる。

みんなウィスタリアが好きなのだ。


「週末は、食べ歩きってことで、よろしいわね?」
「もちろん!」
「こんな流れで予定が決まってしまいましたけど、大賛成ですわ」
「ウィスタリア様も、お誘いしてみては?」
「そうね。行けないと言うだろうけど。ウィスタリアこそ、休むべきだと思うのよね。もうすぐ、卒業だし……。まぁ、行けないと言われたら、お土産を買って来て渡してあげましょ」
「それ、いいですね!」


そう言って、美味しいケーキを食べ歩くというところから。可愛いらしい最近流行りのクッキーやマカロンを売っているところの話題で盛り上がったのは、ウィスタリアに喜んでもらうものを考える方が楽しかったからだ。


これが、日常化していた。

それもこれも、ジュニパーの暴走を止めるべき人が、なにもしないせいだ。だが、それを期待する者はいなかった。

授業を免除されて、必死になって王太子となった義務を果たそうとしていると思っていた者が多かったのだ。

だが、その一方で、そうなるとどちらもやろうとしているジュニパーは頑張っている方なのかも知れないが、そんな変な頑張りなんてしなくていいのにと誰もが思うようなことしかしていなかった。


「何なら、王太子のように免除されてくれればいいのに」
「無理ですよ。あの試験の結果では、免除されるわけがありません」
「そうよね」
「何で、あの成績しか取れないのに婚約者になれたのでしょうね」
「顔か、性格か」
「え?」
「王太子の好みってことですか?」
「え、趣味悪」


とある令嬢が、素で言った言葉に吹き出す者も多かった。それが、まことしやかな理由とされた。

そして、王太子の趣味が悪いせいで、色々と通じるようになったのは、そこからだったが、ジュニパーがそれを耳にしても……。


「王太子の趣味って、何の話?」
「さ、さぁ?」
「私たちには、わかりかねます。それより、ジュニパー様の方がよくお会いになるのでしょう? ご存じなのでは?」
「え、私が?」
「知らないのですか?」
「っ、趣味のことは話したことないわ」
「まぁ、なら、どんな話をなさるのですか?」


取り巻きたちは、わざと聞いていた。それは、日頃のストレスから王太子がジュニパーとは会えていないことを知りながら聞いていたが、ジュニパーがそれに気づくことはなかった。

そして、王太子の趣味が悪いという話題が、意味するところを知ることもなかった。


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