初恋の人への想いが断ち切れず、溺愛していた妹に無邪気な殺意を向けられ、ようやく夢見た幸せに気づきましたが、手遅れだったのでしょうか?

珠宮さくら

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第1章

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妹がいなければ、ウィスタリアは王太子の婚約者に選ばれていた。そう言いふらしていたのは、王太子の婚約者となったジュニパーだけだった。

それについて、王太子が何か言ったわけではない。そもそも、王太子は婚約してからろくにジュニパーに会ってもいないようだ。ろくにと言ったが、全くとは思ってはいなかった。

でも、国王が事業を認めた時にどうしても婚約者に選ばせたくなかった人たちがいたことをウィスタリアは知った。


「全く、あの令嬢が王太子の婚約者にならなくてよかったと思っていたのに。こんな風に陛下の耳にまで届くとは思わなかった」
「陛下が、何かおっしゃっていたのか?」
「王太子の婚約者候補にあの令嬢の名前があったのを覚えていたんだ。なぜ、候補にまでのぼっていたのに王太子は婚約者にしなかったのかと不思議がっていた。何か知っているかと聞かれたが、知らぬ存ぜを押し通した」
「国王は、王太子には聞かないと言ったからな」
「あれで、王太子が言わなければ誰も知らないことになったのだがな。如何せん、選んだ方の令嬢があそこまでの馬鹿だとは思わなかった」
「そこまでなのか?」
「あぁ、お妃教育が一向に進んでいない。あれでは、王妃様の試験に合格するはずがない」
「それでは、結婚は難しいぞ。どうするのだ?」
「どうも、こうもない。選んだのは、あくまでも王太子だ。我々が、選んだ方を強く推したから婚約者にしたなんて今更、言えまい。言ったところで、己の情けなさを披露するだけだ」
「それは、そうだろうが。……そもそも、王太子は何をしているんだ?」
「古代語の勉強に悪戦苦闘しているそうだ。あちらも、卒業してすぐの結婚にはほど遠いできだそうだ」
「王子の頃から勉強しておられなかったからな」


それが聞こえてウィスタリアは、え?という顔をしてしまった。王子が、勉強しないなんてことはないはずなのだ。

ウィスタリアの記憶の中のあの人は、勉強好きだ。嫌いだったのは……。


(誰だっけ? 確か、できる限りやらなくてもいいなら、やらないことを頑張っていた方がいたような……?)


だが、ウィスタリアはそれが第2王子だったことを思い出すことはなかった。


「王太子にならずとも、王子は王族なのだから、必修だと言っていたのを都合よく聞いていなかったのだろう。あれは、完全な自業自得だ。あの方が、遊んでいるのを見て同じことをしていると思っていたようだが、あの方は遊びも、勉強も、全力だったからな。……それにしても、ここまで使えないのに金を貢ぐあの令嬢の養父母も諦めが悪いな」
「は? まだ、金でどうにかしろと言っているのか?」
「王太子との婚約もそうだが、学園を卒業できそうもないらしい」
「それを卒業させてほしいと? したところで、王妃からの合格がでなければ、結婚はできないというのに。……おい、それを知っているのか?」
「さぁてな。あの令嬢の叔母たちだ。結婚したら、贅沢三昧ができると思っているようだが、あの調子なら知らなさそうだ。まぁ、くれると煩いからもらってやっているだけだ」


もはや、使える駒として動かせる駒にもならなかったと言わんばかりに王太子も、その婚約者のことも、使えないとでも言いたげな会話をしていた。

ウィスタリアは、たまたまソレムの父親を待っていたら、そんな話をしている貴族がいて聞く気はなくとも聞くはめになった。

その会話の中にも、あの方とあったが、そこに心臓がどくりと反応したが、その意味がウィスタリアはわからなかった。その続きの話題のせいで、それも気のせいだと思った。


「厄介な妹がいて、唯一の汚点がいたからだと言いふらしていたようだが、自分の叔母たちが金で不正をしたなんて欠片も気づいていないとはな」
「汚点程度で、婚約できるわけがないのにな。はぁ、そこまでのしか残らなかったのが悔やまれる。他が辞退なんぞしなければ、よかったんだがな」
「それどころか。上手くいくとは思ってもいなかった。あの二択で、なぜ、王太子はあちらを選んだのやら。金をもらったから、良さげなことは話したが、正直上手くいくとは思わなかった」
「そこだな。王太子の好みが、そちらだったのかもな」
「趣味が悪いな」
「確かに。だが、ここまでになれば、似合いだ。それが、広まれば誰もがそれに納得するさ」


そんな会話が聞こえて、その人たちがいなくなってもウィスタリアは、しばらく立ち尽くしていた。


(……王太子の好みじゃなかったが、答えだとは思いたくなかったのだけど。やっぱり、そうみたいになるわよね。あれが、一番納得行く理由になるとは……、変な気分だわ。聞けば聞くほど、選ばれなくてよかった気がしてきた。それよりも……)


隣国の王も、乗り気となっているのだ。先程の人たちも、それを失敗させられない。この国の恥になるのだ。邪魔など、早々できないだろう。


(あぁいうのがいたから、実現しなかったのもありそうね。夢を馬鹿にしているだけでなく、邪魔している輩がいたとは……。隣国から協力してもらってよかったわ)


隣国も巻き込んだことで、実現しなければ国の恥だと言って何が何でも成功させなければと思われている。そこまでになったことにウィスタリアは隣国まで行った甲斐があったことを実感しつつ、疑問が解消した気がした。


(もしかすると彼が失態を犯したにしては、酷いことになったのも、潰したい者がいたのかも。でも、もうできないはず。国あげての事業になったのだもの。失敗したら、あの人たちとて困るはず。あとは、うまい具合に取り上げることを考えるくらいかしらね。……そんなことさせない)


ソレムのせいだと思っていたが、彼はちょっとしたきっかけをあの連中に与えただけなのだろう。

他にも何度か、危ういことになったのは、婚約者のせいだと思っていたが、利用されていたようだ。それにはうってつけだったのだろう。


(でも、味方せざる終えないって状況になったのは面白い。そこで、大人しくしていてくれればいいけれど、そうはしていてくれないでしょうね)


そう思いながら、ウィスタリアは婚約者のおかげで敵が味方になったのかと思うと複雑なものがあった。それ以上になるのを見越して動くこともできる。

次の一手で、どう動くかを見ようと思っていたら、ウィスタリアは動く相手が婚約者だとは思いもしなかった。


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