31 / 112
第1章
31
しおりを挟む両親が思いの外、ソレムのしたことに激怒していた。親らしいところがあったのかと思えそうだが、そんなことはなかった。
怒るななんて言う気はないが、あの息子のせいで散々な目に遭っているのは、ウィスタリアだ。事業の見通しがついた途端に婚約破棄をして、手柄を独り占めするつもりだということで怒っているのだ。
それを見ていたら……。
(破棄になってよかったのかも知れないわ。結婚していたら、この人たちはもっと騒ぎそうだもの。私が婚約者候補に残った時もそうだった。事業の邪魔を絶対していた。それをしないなんてことできないはず)
ウィスタリアは身体的なことで、ソレムに腹を立てていたが、両親の怒り方を見ているうちに落ち着いてきていた。
思い出すと腹が立つがずっとそのことで腹を立て続けるほどの余裕はウィスタリアにはなかった。
(一番の想い人は、今の王太子ではなかった。似ているかも定かではないけど、別の人。……そう、今の王太子は第2王子。私が好きな人は……)
そこまで思って悲しくなりすぎて涙が溢れそうになった。
ウィスタリアが誤解していることをやっと認められそうになっていた。今の王太子が、第2王子と呼ばれていた頃に第1王子がいたのだが、それが3歳年上で、ずっとウィスタリアは2人ではなく、3人いたはずなのに記憶の中では、3人目がごちゃ混ぜになっていた。
第1王子と呼ばれていた彼をウィスタリアは好きだったのだが、突然亡くなったことで、そのショックから遊んでいた相手は、今の王太子だけだったと記憶が歪められてしまっていた。
でも、悲しすぎて亡くなったことをウィスタリアは受け入れられず、受け止められないまま、いずれ王太子になる方のためにと密かに婚約者になるべく頑張っていたことを記憶があやふやになってからも頑張り続けた。
そして、第2王子が王太子となってからも、王太子に相応しいあの人が未だに生きているかのように思いたくて、がむしゃらに婚約者になるために無茶なことばかりして、結局なれなかったことで、ショックを゙受けたまま、第1王子の死を受け入れられずにいた。
だが、今の王太子の婚約者を放置したまま、自分のことばかりに必死になっているのに疑問ばかりが生まれて、次第に記憶のあの人と今の王太子のしていることのギャップで、そんなことをする方を思い出していった。
遊んでいた頃は、ウィスタリアを気にかけてくれていたのだ。兄のようであり、柔らかに微笑む彼のまなざしは、妹を見守る者の目ではなかった。
愛おしいと物語っている人の目だった。
(あの方にもう一度会いたい)
未だに亡くなったことが心の傷になっていた。それが、第1王子との思い出だということに長らく気づかないようにしていた。
ウィスタリアは、そんなことを思って元気がないまま、すぐにソレムと婚約破棄することになった。
それにあちらの両親が息子が勝手にしたことだからとウィスタリアに平謝りして来たのも、すぐだった。ウィスタリアに破棄だけは思い留まってほしいと言って頭を下げられることになった。
それを見て、こんなことを思った。
(この2人は、物凄くまともに見えるのに彼は誰に似ているのかしらね。謎だわ)
でも、ソレムは両親がなぜ、そこまで必死になってウィスタリアを婚約者のままにしたがるのかがわからないような顔をしていた。それは見慣れた顔でしかなかった。
難しいことを聞かれたりする時は、いつもそんな顔をしていた。そして、何を言われているのかを勘違いして終わるのが、いつものパターンだった。
この時も、そのパターンから外れることはなかった。
42
あなたにおすすめの小説
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
断罪中、味方が多すぎて王子が孤立している件について
夏乃みのり
恋愛
バーンスタイン伯爵家の令嬢ラミリアは、魔力も剣の才能もない「ごく普通」の地味な女性。
ある日のパーティーで、婚約者であるジェラルド第二王子から「地味で無能で嫉妬深い」と罵られ、身に覚えのない罪で婚約破棄を突きつけられてしまう。
しかし、断罪劇は予想外の展開へ。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
公爵家の家政を10年回した私が出ていったら、3ヶ月で領地が破綻しました
歩人
ファンタジー
エレナは公爵家に嫁いで10年、夫は愛人に入れ込み、義母には「家政婦代わり」と
罵られた。だが領地の財務も、商会との交渉も、使用人の管理も、全部エレナが
やっていた。ある日、義母から「あなたの代わりなんていくらでもいる」と言われ、
エレナは静かに離縁届を出した。「では、代わりの方にお任せください」
辺境の町で小さな商会を開いたエレナ。10年間の実務経験は伊達ではなかった。
商会はたちまち繁盛する。一方、エレナがいなくなった公爵家は3ヶ月で経営破綻。
元夫が「戻ってこい」と泣きつくが——
「お断りです。あと、10年分の未払い給金を請求いたしますね」
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる