初恋の人への想いが断ち切れず、溺愛していた妹に無邪気な殺意を向けられ、ようやく夢見た幸せに気づきましたが、手遅れだったのでしょうか?

珠宮さくら

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第1章

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ソレムの顔を見て、ウィスタリアはふとこんなことを思った。


(この人は誰に似ているのかしら? プリムローズは、そっくりな身内がいるからわかりやすいけど。彼は事業に向いてない。それも致命的なのが、わかりやすいくらいだし。それなのにあの自信は、どこからくるんだろう。自分の恐ろしさをわかっていないのよね。この間のことを他の女性にしたら、ボコボコにされていたでしょうに。……今からでもしてやろうかしら? その話を他の令嬢にしただけで、婚約者になろうと思わないはず。……なんてね。もう、年の近い者はみんな婚約者がいるのに卒業間近の者どころか。学園に入った1年生ですら、婚約者がいないことに焦るのに。こんな時期に破棄して、どうなるかなんて考えてもいないんでしょうね)


そんなことを思ってしまった。あまりにも似ていないように見えてならなかったのだ。似ているところを見つけられずにいた。

未だに両親が頭を必死になって下げているのに理由もわからず、彼は自信に満ちた顔をしている。それも見慣れた顔だ。

親孝行なんてことができるとは思えないが、できるとしたら、勘当されたら大人しく出て行くくらいではなかろうか。

そんなことまでウィスタリアですら考えてしまうほどの子息だった。


「父上、母上。そんな奴がいなくとも、私がいれば問題ありませんよ」


ウィスタリアは、ついにはそんな奴と言われるまでになったことに眉を顰めたくなった。だが、それに言い返したのは、ウィスタリアではなかった。


「何を言ってるんだ! 元はといえば、貴様が……」
「親子喧嘩なら、他所でやってくれ。ウィスタリアをそちらに嫁がせることはない。どんなに頭を下げられても、ウィスタリアも了承したことだ。諦めて、サインしてくれ」
「その前に約束していただきたいことがあります」
「ウィスタリア?」
「よろしいですか?」
「もちろんだ。聞こう」
「たとえ何があろうとも、事業をこのまま続けてください。何があっても諦めずに続けて、そのために必要なら犠牲も厭わないと約束してくださるのなら、慰謝料はいりません」
「なっ、何を言うんだ!」
「そうよ」


ギャーギャーと騒ぐ両親を放置して、ウィスタリアはまっすぐにソレムの両親を見た。


「ウィスタリア嬢」
「はい」
「他には? 他に何かないか?」
「長生きしてください」
「っ、わかった。今、書面に……」
「必要ありません。誓ってくださるなら、信じます」
「わかった。誓う。家名にかけて誓う」


その言葉を聞いて、ウィスタリアは微笑んだ。父が用意した慰謝料の書類を破り捨てた。


「ウィスタリア! 何をするんだ!」
「慰謝料ほしさに破棄をしたと言われるよりマシではありませんか?」
「なっ、何で慰謝料をほしがると言われねばならないんだ!」
「そうですとも。ウィスタリアのためにしていることなのに」
「私のためなら、私は必要ないと言っているのです。無用ですよね?」


にっこりと言えば、両親は黙った。その間にサインしてくれていた。

それを受け取りながら呟いた。


「残念です」
「私もだ」


(義理の娘になれるものならなりたかった)


その言葉を口にしなかった。でも、伝わったようだ。


「お元気で」
「ウィスタリア嬢も」
「ウィスタリアちゃん、こんなことになってしまって、本当に……」
「謝罪は無用です。どうか、謝らないでください」


(お2人は何も悪くはないのだもの)


そう思ってソレムを見た。元婚約者となった子息の態度にため息をつきたくなった。


(何が自分なら、もっと上手くやれると言いたいのかはわからないけど、やらせるわけにはいかない。私が婚約者じゃなくなったと知ったら、その時点で終わる危険性もあった。それすら、わからないこの人を野放しになんてさせておけない)


そのため、必要な犠牲と言ったのだ。それに息子とウィスタリアも含まれていた事に気づいたはずだ。

お互い泣きそうになりながら、帰って行くのを見つめたが、元婚約者だけが足取り軽くウキウキしていた。


「全く、せっかく巻き上げるチャンスだったというのに」
「本当に。全く何を考えているのやら」
「……」


プリプリと怒る両親にウィスタリアは、白けた顔を向けていた。慰謝料の金額は、事業に出資した額に上乗せしたものだった。この際だから、取り返そうとしたようだ。


(こんな時まで、自分たちの都合でしか動かないのね)


ウィスタリアは、ため息しかでなかった。両親は、まだ怒っていて使用人に塩を撒いておけと言っていたが、ウィスタリアは……。


「勿体ないのでやめてください」
「ウィスタリア」
「それに掃除する方も、しばらく掃除できなくなって困ってしまいます」


つい、そんなことを言ってしまっていた。


(どんな時でも的確にまともなこと言えるのは、鍛えられた成果かしらね。こんな逞しさいらないだろうけど)


ウィスタリアは、そんなことを思って苦笑していた。


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