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第1章
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しおりを挟む妹と元婚約者と他にも数名が、悼んではいなかったが、それ以外はウィスタリアの死をあまりにも早すぎると思っていた。
その中でも、両親以外で一番嘆いていたのは隣国の王弟だったが、それ以外もウィスタリアを知っている者たちは嘆き悲しんでいた。
ウェールズではマルグリットが一番嘆いていた。
その中で王太子は、微妙な反応をした。
「ウィスタリアが、亡くなった……?」
ウィスタリアが亡くなったと聞いても、冗談だと思っていた。この王太子は、兄の時も冗談だと思っていたのだ。
そのため、ウィスタリアの葬儀に出席しなかった。周りも、幼い頃に遊んだ仲とは知りもせず、ただ婚約者候補に残っていた方というだけで、知り合いではないと思っていた。
「王太子。どちらに?」
「学園に行く」
「は?」
「あちらの授業に出ると言っている」
急に学園に行くと言い出し、そこで久しぶりと言うのも変だが、王太子は自分が選んだ婚約者を見た。
「……誰だ?」
「誰って、あなたの婚約者です」
「は? こんな太ってなかっただろ?」
「なっ、」
「まぁ、いい。恥ずかしいから、側を歩くな」
「っ!?」
ジュニパーはストレスから暴飲暴食を繰り返していて、王太子であるエルウッドはこれまで放置していたことを詫びるでもなく、そんなことを言った。
それから、学園の中をエルウッドは何気なく歩いていた。ジュニパーは、恥ずかしいと言われて顔を赤くしていなくなっていた。
「あれ、誰だ?」
「さぁ?」
そこにジュニパーがいれば、王太子とわかったかも知れないが、わかる者はいなかった。
「おい、ウィスタリアはどこにいる?」
「は?」
「ウィスタリアだ」
「どこって言われても」
「知らないのか」
「……」
怪訝な顔をして、聞かれた方は答えなかった。
「あれ、なんだ?」
「わからん」
「どこも何もないよな」
「あぁ、変なことを聞かれたものだ」
「気味が悪いな」
そんなことを王太子はしばらく続けていた。
「……あの方、もしかして」
「どなたか、ご存じなのですか?」
マルグリットは、ふとあることに気づいた。
「王太子殿下かも」
「え?」
「まさか。そんなわけ……」
令嬢たちは、あるわけないと言おうとしたが、みかけたことがないのだ。
そして、見たことない方で真新しい制服を着ているのだ。
「……あるかもしれませんわね」
「でしょ?」
「だとしても、こんなところで、ウィスタリア様を探されているのも、おかしいのでは?」
「今日、あの令嬢を見た?」
「いいえ。今日は、珍しく学園に来ていないようですわ」
「使えないわね」
マルグリットは、少なくとも婚約者なら、顔くらい知っていると思っていた。
ジュニパーがどこにいるかなんてマルグリットが聞いたのは、初めてだった。
ウィスタリアが亡くなった後、しばらくはジュニパーも、周りに親友が亡くなったことに物凄いショックを受けていると言い、泣き真似をよくしていた。涙が実際に流れることはなかった。
令嬢たちは何かにつけて涙していたが、ジュニパーが泣く姿を見ると涙が引っ込んでしまって、今では泣くものはいなくなった。
「ウィスタリア様をお探しなのですか?」
「そうだ。どこにいるか知っているか?」
「どこも、何も、葬儀を終えて、お墓に埋葬されておられます」
「は? お前まで、そんな冗談を言うのか」
「冗談で、こんなことを言うわけがありません。私は、知っているかと問われたので答えたまで。これまでの方々も、亡くなった方がどこにいると問われれば、答えにくいはずです。やっと、落ち着いたのです。思い出させるようなことをなさらないでください」
「……それも、ウィスタリアの悪戯だな。全く、質の悪い悪戯をする。婚約者に選ばなかったから、そんなことを言い出したんだ」
マルグリットだけでなく、この男が何を言うのかと聞く耳立てていた面々は、悪戯だと言うのに眉を顰めて不愉快そうにした。
「……ウィスタリア様が、死んだと偽っていると?」
「そうだ。お前たちまで、それにのるとはな。私が、顔を見せないからとは言え、こんなことまでするとは」
「ふざけないで! ウィスタリア様は、そんなことをなさる方ではないわ!」
「そうです。あんまりです!」
王太子は、学園でそんなことをして聞いていた者たちにあんまりだと責め立てられることになった。
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