初恋の人への想いが断ち切れず、溺愛していた妹に無邪気な殺意を向けられ、ようやく夢見た幸せに気づきましたが、手遅れだったのでしょうか?

珠宮さくら

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第1章

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誰もが若くして亡くなったウィスタリアの死を悼んでいた。

中には隣国から、葬儀に出た者もいた。いや、葬儀に出るために来たのではない。


「失礼。これは、どなたの葬儀でしょう?」
「え? この家のご令嬢の葬儀ですが」
「まさか。ウィスタリア嬢か?」
「えぇ、そうですよ」


身なりの良い少年とも言えるくらいの年齢の者とその付き人がいた。最初に声をかけたのは、初老の男性で、どうやら葬儀だと知らずに来たようだ。聞かれた女性は驚いていた。


「っ、なぜ? 病気か?」
「いえ、事故だと聞いています。階段から落ちてしまったとか。長らくお忙しくなさっていたから、お疲れが出てしまったのでしょう。それに婚約破棄までされて。あんなボンクラな子息に破棄を言われたら、ショックでしょうしね」
「おい。滅多なことを言うな」


夫に連れられて夫人は、頭を下げてそそくさといなくなった。

それを聞いた少年は、呆然としていた。


「殿下。どうなさいますか?」
「……葬儀に出席して来る」
「ですが」
「この格好では失礼か?」
「いえ、突然の訃報を聞いたのならば、それでも失礼ではないかと」
「別れを言って来るだけだ」
「……わかりました。では、私もご一緒いたします」


付き人は、そう言って2人でひっそりと葬儀に参列した。

ひっそりとしてはいるが、身なりのいい子息が来ていたと話題にもなった。


「あれは、どなたかしら?」
「さぁ? 見たことないわ」
「ウィスタリア様は幅広い交友関係をお持ちでしたから、隣国の方かも」


そんな話をされていたその人物は、隣国の王弟殿下だったりする。

彼はウィスタリアに一目惚れしたが、婚約してしまったと知り、しかもとんでもない子息のせいで身をこしに頭を下げて回っているのを知り、とある子息の兄の婚約者が、彼女と仲良くしていると聞いて、もし頼ってくることがあったら、手助けをしてやりたいから、その時は会えるように取り図ってはくれないかと頼み込んだのだ。

そう、彼はウィスタリアと出会う前から、既に一目惚れをしていた。古代語を読み解く素晴らしい令嬢として、彼の先生となっていた者が話したのを聞いて、こっそり見に行ったのだ。


「っ、!?」


その姿を見て、話していないのに彼は己の運命の人だと思った。すぐにでも婚約したかったが、その間に彼女は、誰も婚約者にしたくない子息と婚約してしまい、その時も落ち込んだ。

それでも、気にかけていたら、彼女が必死になっていることを知って陰ながら手助けをしたのも、彼だった。

だから、彼女と話した時、何より嬉しくて仕方がなかった。そして、存分に語らっていると色んな人たちが集まって来て、みんなが2人の話を絶賛した。

彼女が、誰にでもわかりやすく話すのを真似ただけで、彼女が帰ってからもそれをしているだけで、人が寄ってくるようになったのだ。人を遠ざけているつもりはなかったが、近寄り難い話し方をしていたようだ。

付き人や彼をよく知る者は、益々頼られるようになった彼を微笑ましそうに見ていた。

それが、ウィスタリアが婚約破棄となったと知って、婚約を申し込みに再びやって来たのだ。なのに彼女の葬儀に参列して帰ることになるとは思うまい。

彼女は破棄となってもなお、元婚約者の家の事業は、今後も間違いないはずだから、どうか自分が破棄となった後も、よろしく頼むという内容の手紙が来たのだ。

それに王弟は感激した。とんでもない子息に婚約破棄を告げられたのだ。そんな男のせいで傷物になったのにそれでも、事業に関係した者に手紙を出したのだ。

雇われている者たちにも、数年後には家族と幸せで明るい未来が必ずくるから、どうかこのまま見捨てることなく働いてほしいと彼女自らの手紙で、全員に手紙を出したのだ。

それで婚約が破棄となったことを知った者も多くいた。いくらウィスタリアの頼みでもと取り引きを悩む者もいたが、それは極僅かだった。


「殿下」
「……なんだ?」
「素晴らしい葬儀でしたね。ご令嬢のお人柄がよくわかりました」
「そうだな」
「殿下が、お話するのを聞いておりましたが、私も彼女と話してみとうございました」
「っ、私もだ。また、話したかった」


王弟は、帰り道でひとしきり泣いた。

付いて行った付き人は、馬車を操りながら泣いた。まだ少年の粋を脱しない彼は、二度も婚約したくて動いたのだ。その二度とも、彼女には伝えられなかった。

隣国の王弟が自ら迎えに行ったのに1人で戻って来たことにフラレたのかと兄である王は思ったが、フラレる以前だったことを知って年の離れた息子のような弟を心から心配した。

そんなことがあったことを知る者は、極僅かなことでは済まなかった。

2人がくっつけばいいと思っていた者たちは多くいて、王弟が婚約を申し込みに言ったことを知った者たちは、祝う気でいたのだ。


「い、今なんと?」
「ご令嬢が、亡くなられたのです」
「「「「っ!?」」」」
「それで、殿下は?」
「お部屋におられます」


付き人にどうなったかとそわそわして聞こうとしていた者たちは、絶句した。

王弟とウィスタリアが、婚約するものと思っていたが、それどころではなくなったことに膝をつく者、早すぎる死に泣く者がいたが、祝う気で用意していた酒を自棄酒することになり、後から集まって来た面々は、荒れ狂う姿に首を傾げていたが、話を聞くなり、同じようになるまで大して時間はかからなかった。


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