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第1章
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しおりを挟むそんなジュニパーは、ウィスタリアにできたことを自分もできることを証明しようとした。自分の方がウィスタリアよりもできるところを見せようと思いついたのだ。
もう亡くなっているというのに。それでも、優れているのは、自分の方だと思っていた。勉強嫌いでも、いざとなればウィスタリアのしていたことくらいできると思っていた。
「いいわ。あなたと婚約してあげる」
「っ、そうか! よかった」
こうして、あり得ない2人が婚約することになって、それは話題になった。
ジュニパーは、ただウィスタリアよりできる令嬢だと証明したいがために婚約したのだが、ソレムの両親はすぐさま息子を勘当した。
「は? 何で勘当なんてするんですか!?」
「わからないのか? お前が婚約したのは、家から勘当された娘で、廃嫡となった王太子と婚約していたが、それが破棄となったばかりの娘だ」
「へ? 廃嫡……?」
「そんなのも知らずに婚約したのか」
廃嫡という言葉がわからなかったようだが、破棄になったばかりと聞いて、げっと言う顔をした。自分とて破棄しているのだが、傷物になった上、勘当されているのと婚約したことを流石にまずいと思ったようだ。
だが、そんなのも知らずに婚約したのかと言われて、知らなかったとは言えなかったソレムは……。
「し、知っていましたとも!」
「ほぅ、それで婚約したのなら、勘当されるのも覚悟だったはずだ。事業の才があるのを証明するのには、丁度よいのではないか?」
「そうですね!」
「お互いのためにも、事業がどうなるかで争いたくない。今後は、何があっても頼らないでおこう。そうすれば、事業が今後、どちらが大きくなったかで争わずに済む。そんな争いをするより、縁を切った方がいい」
「わかりました!」
ソレムの父親も、息子の扱いが上手くなっていた。母親は呆れた顔をして、期待に胸を弾ませて家から出て行く息子を見送った。
「やっと、勘当することができた」
「そうですね」
妻はウィスタリアがあの家に戻ったせいで、妹に殺されたことで悲しげな顔をずっとしていた。
息子が破棄を言い出さねば、こんなことにはならなかったはずだと悔いているのだ。それは、夫も同じだった。
それでも、ウィスタリアとの誓いがあるため、落ち込んでばかりはいられなかった。
そんな両親の思いなど、息子が知ることはなかった。
ソレムが想像を絶するほど、やることなすことが最低最悪なことまでは、ジュニパーは理解できていなかった。
そんな子息を相手にしながら、彼の家の事業を立て直してみせたというのだ。ウィスタリアが凄いと言われるのは、そういうところからだったが、ジュニパーはそれを認めたくなかった。
「ちょっと! 何してるのよ!!」
「それは、こっちの台詞だ! 何で邪魔をするんだ」
ソレムは、事業のセンスがあると思っているのに拍車がかかってしまっていた。
学園に残しておいても、迷惑になるとしてジュニパーとソレムは特別に卒業することになった。
ソレムがせっかくウィスタリアが立て直してくれた家の事業を台無しにするとして、いつ勘当するかで彼の家族は頭を悩ませていたが、うまい具合に勘当できて彼の家族が喜んでいたとは、ソレムは欠片も思っていなかった。
そうでなければ、ウィスタリアが必死になって立て直そうとしてほうぼうに頭を下げた意味がなくなってしまう。
破棄となってからも、どうにかしようと動いてくれたのを台無しにされるわけにはいかなかった。何より、彼女に誓ったこともある。それを違えることだけは、ソレムの両親はしたくなかった。
ソレムが最悪でも、ウィスタリアがあんな死に方をしたのだ。彼女がしようとしたことをソレムの両親や彼の家の事業の従業員たちは、意志を受け継いでやろうとしているからこそ、出資者が撤退せずに応援してくれて、それが減るどころか。増えていくのだから、彼女の人柄がそこに現れていた。
それをソレムも、ジュニパーも全くわかっていなかった。
ウィスタリアの両親や親戚の一部が、ウィスタリアがしようとしていたことにようやく心から賛同した。
あのウィスタリアの両親ですら、妹に殺されたことを知ってからは、出資を惜しまないようになった。
事業が拡大してきているというのにそれを何もわかっていないソレムに跡を継がせるわけがなかった。
ジュニパーと婚約すると勝手に決めてから、勘当されることになっても、自分にはウィスタリア以上の才覚があるとソレムは、信じて疑わなかった。親に競争して大変なことになるよりは、勘当したことにして別々の道を歩む方がいいと言われたのを鵜呑みにしたくらいだ。
自信たっぷりに自分で事業を起こそうとして、借金に借金を重ねていくことになった。頼る相手もいない2人は、喧嘩ばかりをしながら、散々な人生を送ることになった。
ジュニパーには、ウィスタリアのような誰かのために身をこにして必死になるということがわからなかった。
「こんな人生を歩むことになったのも、あの女のせいよ! さっさと死んでしまうから、八つ当たりもできないじゃない!」
ジュニパーは、ウィスタリアのことを恨みに恨んでいた。全ては、ウィスタリアのせいだとずっと恨んでいた。
それこそ、生まれ変わる前も同じことがあったかのように言う時があったが、それを理解できる者はいなかった。
するとソレムは、ぽつりとこんなことを言った。
「全く、こんなんじゃ、ウィスタリアと婚約していた時の方がマシだった」
「っ、」
ソレムは、一番ジュニパーが聞きたくないことを言って、激怒したジュニパーが我慢ならなくなって、それまでウィスタリアのように上手くやって勝つまではと思っていたのを全部やめて彼の側から離れたが、借金取りの取り立ては凄まじくしつこかった。
そのせいで、この2人の人生もまた自業自得としか言えない日々に終わりが見えなかった。
ちなみにソレムが勘当されたことで、あの家の事業は益々大きくなっていった。
「全てはウィスタリア嬢のおかげだ」
ソレムの両親も、関係者も口々そう言った。
ウィスタリアの命日ではなくて、誕生日には盛大にウィスタリアの功績として讃えて、ウィスタリアの両親や一部の親戚たち、そのパーティーに呼ばれては涙した。
更には彼女を知る者たちが多く集まった者たちも毎年集まっては涙した。
泣かなかったのは、隣国の王弟だ。彼は、ウィスタリアを思い出しては、笑顔になった。
彼は、生まれ変わった時に再び巡り会えることを信じていた。
「今度こそ、運命の人と添い遂げたいものだ。私が、見つけるのが先か。あちらが先か」
だが、彼は運命の人に再び会えるまで、独り身を貫くつもりでいた。
それについて、兄の国王も、付き人も、事情を知る者たちは、何も言わなかった。
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